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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百九十三話 代替案

 帰還した彼女達を確認するため、俺の足は自然と整備室へと動いていた。

 左之指揮官も何故か隣を歩き、何か思案顔をしている。如何なる事を考えているかは俺には皆目見当もつかないが、それが悪い事でないと願うしかない。

 初めての基地内とはいえ、内部には無数の案内図がある。それを見れば整備室までは一発であるし、もしも読めなくても左之指揮官が教えてくれるので問題は無い。

 ただ、やはり基地は基地。相応に巨大であり、整備室に辿り着くまでには体感で十分近く掛かっている。

 足腰に負担は無いものの、大き過ぎる建物というのは考えものだ。エスカレーターのような移動手段を設けるべきだろう。

 整備室内の自動ドアが開かれると、一気に喧騒に溢れた音が耳を叩く。

 

 整備員が大声をあげて武器の手入れやデウスのメンテをしているようで、現在働いている人間の数は五十人くらいか。

 彼等の表情にデウスに対する侮蔑の色は無い。それどころか労わっている言葉も聞こえてくるくらいだ。

 他の基地の整備室を見たことが無いので何とも言えないが、この光景はきっと珍しいものだろう。

 ただ、それにしてはデウス達の表情は明るくない。嫌悪を剥き出しにする程ではないものの、複雑な表情を隠せないでいる。

 この基地で何かが起きているのは最初から解っていたことであるが、どうやらその問題はかなり根深い。

 ともすれば俺が介入して悪化してしまいそうな深さだ。整備室の空気を感じながら左之指揮官と一緒に足を進めると、漸く皆が俺達に気付く。


「帰還しました。 我々に損傷はありません」


「ワシズとシミズは普通のデウスだ。 スキャンは忘れるなよ、何か異常が見えれば即座に言ってくれ」


「うん!」


「了解」


 二人の声によしとだけ告げ、視線は近付いてくる別のデウスへ。

 此方へと小走りで駆け寄る姿は視覚情報から得ていた少年そのまま。俺達の前に到着したと同時に左之指揮官に向かって敬礼し、これまでの状況報告を始めた。

 岸波指揮官は最初から案内だけをするために此処に来たのだろう。最初の挨拶以降は言葉を挟まず、執務室でF12と共に傍観を決め込んでいる。

 俺が何をするのか期待していると前向きに捉えるべきか、少しは手助けをしてくれと訴えるべきか。

 あの無茶振りとも言える行動に待ったをかけた以上、俺は明確に何か結果を見せる必要がある。

 デウス達との関係を改善させ、憂い無く沖縄を攻めるには九州地方の協力は絶対だ。

 だから、そんな九州地方で非協力的なデウス達が居るという環境は心臓によろしくない。確実に協力してもらう為にも、不仲の原因を調べて改善の姿勢をデウスに見せる。


「こうして実際に顔を合わせるのは初めてになりますね」


「あ……はい! 御噂はかねがね聞いております!」


 報告を終えたWW2に話し掛けると、彼は顔を輝かせて敬礼をする。

 俺にも指揮官クラスの扱いをしてくれるのかと苦笑しつつ、敬礼はしなくて構いませんよと降ろさせた。

 今回の訪問は彼等にとっては予想外だ。敬礼を終えた彼の顔に喜びと疑問が浮かんでいるのは当然であり、それについて答えるのも最初の信頼関係構築の為に必要不可欠。

 

「今回此方に来た目的ですが、早い話が沖縄奪還についてなのです」


「沖縄奪還……ですか」


「ええ。 非協力的なデウスが居るとのことで、その理由について尋ねようと此処に来ました。 この基地で何があったか貴方の目線で教えていただくことは出来ますか?」


「――構いません」


 そこは左之指揮官に一度伺いを立てるべきだが、WW2はそれを無視して俺に言葉を送る。

 WW2にとって、優先順位はどうやら俺らしい。どうしてそうなっているのかについは、これから知る場面はあるかもしれない。

 他全員のメンテが完了するまでは時間が掛かる。彼以外にも話を聞きたいが故に、此処で待ちながら話をすることになるだろう。

 整備室内に取り付けられた壁の無い椅子と机はどれも普通だ。家具屋に行けば買える程度の品であり、壊れても別に構わない代物に違いない。

 座った感触も普段から座っている物よりも少し上等なくらいだ。此方の方が個人的に落ち着けるもので、出されたお茶も多少上等な物。

 出したのは整備員の内の一人だ。俺の存在は突然なのだが、彼等なりに気を遣ってくれたのだろう。

 感謝の言葉を述べ、そのまま飲む。

 毒でも入っていれば傍に来ていた彩達が気付く。こうして素直に飲ませてくれた段階で問題は無い。


「では、早速始めさせていただきます。 先ずは沖縄奪還について反対である理由を教えていただけますか?」


「解りました。 これは私だけの意見ではなく、我々全体の総意だと思ってください」


 少年のような姿をしながらもWW2の口調は子供らしくない。

 このちぐはぐさもデウスならではだ。憂いのある眼差しを俺に送り、彼の発言に頷きをもって返す。

 他に話を聞く手間が解決したのだから文句など無い。時間の短縮は今現在重要だ。

 

「我々が反対である理由は複数あります。 第一に我々は今回、貴方様の尽力によって様々な権利が付与されました。 可能な限り人間と平等になった我等はまだ困惑の渦中なのです」


「……成程」


「只野様が行った事を非難するつもりは誰にもありません。 貴方様は今回、我々デウスに救いの道を与えてくださいました。 これまで反対されてきたばかりの諸々が許され、状況の処理に追い付いていないデウスも非常に多いのです。 そんな状態で沖縄奪還に参加すれば、我々は満足に戦えないでしょう」


 デウスに人権を与える出来事は極最近の出来事だ。

 まだまだ沖縄奪還開始までは時間が掛かるとはいえ、彼等は五年近くも虐げられてきている。それがいきなり人間らしい生活を与えると言われても困ってしまう。

 環境がいきなり変化したのだ。それを慣らすには半年以上は時間が欲しい。

 幾ら切り替えが速いとはいえ、彼等にも感情がある。人間同様に考えれば、突如大量の仕事を押し付けられたようなものだ。

 それを踏まえると、そんな状況で重大な作戦を行うというは確かに賛成出来ない。

 時間を掛けて馴染ませてから作戦に参加するという理由は正論そのもの。それだけでも納得出来る話だが、理由としてはそれだけではないと言う。


「第二に、我々もこの権利が付与されるまでは不遇な扱いを受けています。 この基地においては指揮官の事務的な扱いが一番良いもので、それ以外にも暴力や性接待の強制も受けています。 既にそれを行った人間達は処罰されましたが、だからといって我々が受けた疵がそれで癒される訳ではありません。 ――――正直な所を申しますと、こんな人類を守る価値など無いというのが我々の総意です」


 第二の理由は、酷い言い方をすれば有り触れたものだ。

 他の基地でも同様の理由で命令を拒否しているデウスが多く居る。人間の醜い部分ばかりを見せ付けられれば、守る価値無しの判断も自然だ。

 それでもまだ人間全体を見捨てている訳ではないのは彼等の態度で解る。

 希望の芽は残されているのだ。その芽が何であるのかを俺は、左之指揮官は知らねばならない。


「ですが、世の中には例外という言葉があります。 人類全体に価値など無いと言いましても、それでも本能に惹かれてしまうのがデウスです。 そして、私達は初めて本能と理性が一致した人間を見つけました」


「それは左之指揮官……ではないようですね」


 もしや程度の低い可能性の言葉だったが、WW2は左之指揮官に対して首を左右に振った。

 隣で左之指揮官が顔を俯かせる姿を横目で捉えたが、これに関してはこれまでがこれまでだ。


「解っていますでしょう? あの街での皆様方の輝きは我々にとって希望ですが、その発端となった只野様にこそ我等を率いていただきたい」


「それは出来ません。 認めてくださるのは有難いのですが、貴方達の指揮権を有しているのは左之指揮官です。 そして、我々は現状これ以上の支援を受けるつもりは御座いません」


 線引きは確りしなければならない。

 デウス達が此方を認めてもらえるのは有難いし、誇らしさも抱けるのは事実だ。胸を満たす喜びに思わず笑みが零れてしまうものの、それで何でも良いと言っては小規模な国みたいな街が出来上がってしまう。

 軍の戦力不足が加速するのも不味い。受け入れ過ぎては軍が緩んだ警戒を再度行ってしまう懸念がある。WW2は本当に残念そうな顔をしながらも、最初から解っていたのか絶望する程ではない。

 食って掛かる程ではない以上、彼にだって代替案の一つや二つは持っているだろう。

 それを呑めるかどうかは兎も角として、次の案については最大限譲歩する必要が出てくる。


「代替案などはありませんか? 何処まで叶えられるかは解りませんが、最大限叶えられるよう努力はしたいと思います」


「なら、一つだけ御座います。 それをもって我等はこの基地の指揮官に従いましょう」


 指揮官に従うとは、随分大きい宣言だ。

 左之指揮官も不安を覚えたのか、無茶なものは止めてやれよ?と忠告を告げていた。

 尤も、WW2は彼女の意思などどうでも良いのだろう。最初から彼は俺だけを見ている。それ以外は眼中にも無いと切り捨てている様に、何だか彩の印象を覚えた。


「沖縄奪還が成功してもしなくても世界は続きます。 そして、その後の世界において中心となるのは間違いなく貴方の街でしょう。 その街と我々は繋がりを作りたい――――端的に言って我々のデウスの中から一人嫁に娶ってほしいのです」


「……は?」


 予想外の発言に俺の口から阿呆な言葉が漏れるのも不思議ではないだろう。

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