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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百七十三話 戦争準備

 戦争だ。

 小規模なものであれども、これは俺達の街と滋賀基地による戦争である。

 バリケードを展開していたのはこの為ではなかったが、決して無駄にはならない。寧ろ余計に壁の厚さを増すべきであり、細々とした作業を他の人達に任せて俺と春日は全体の指揮を執ることになった。

 だが、戦闘そのものは村中殿に一任状態だ。俺達よりも遥かに戦闘の経験がある以上、そちらに頼るのは至極自然である。

 本人も大袈裟に喜んで受けていたし、必ず一定の戦果を出すだろう。此方が不利であるのは明確なので、決して勝利だけを求めるのは無しだ。

 壁の増築は急務である。申し訳ないのだが、ワシズとシミズには昼夜を問わずして瓦礫の積み上げ作業を任せていた。滋賀基地のある西側をより分厚くし、それ以外の壁は一回り厚くするだけだ。

 

 それ以外にも武器の提供や訓練を行い、一応ではあるが街の人々も撃てるようになっている。

 だが、次弾装填までの遅さやそもそもの命中率には問題が残る状態だ。この点は限界まで訓練をさせるつもりだが、良い結果が出てくることはないだろう。

 大多数が民間人だらけの状況で勝つには、やはりデウスである彩達と傭兵団の力は必要不可欠。

 特に広範囲攻撃が可能である彩の存在は大変貴重だ。その事を本人も自覚しているのか、既に俺の元に複数本の武器を見せにきている。

 そのどれもが大量殺戮兵器としか言えない代物であるが、今はそれを使うなとは言えない。だが、その手札を即座に切るのは周囲の不評を買うだけだろう。


 此方は攻撃された側だ。理由はあれど、それでもされた側である時点で被害者面をすることは出来る。

 そして、この世界において被害者側という存在は強い。上手くいけばこの国の民衆すら味方となってくれるだろう。

 デモでも起きてくれれば万々歳だ。そちらを無視することは決して出来ないだろう。

 食料の数、武器や弾薬の総量、戦争に参加可能な人数、その他諸々を紙の形で作り上げるのは大変だ。

 無事なパソコンと発電施設があったのは正しく僥倖だった。あの二つが無ければ書類作業は面倒極まりなかっただろう。

 そんな俺と春日の目の前に村中殿が居る。話があるとこの廃墟に訪れたかの御仁は、ペットボトルのお茶を飲みながら雑談の如くこれからを話始めていた。


「情報はこの世界において命よりも重要です。 それ故に、基地周辺に間諜を潜り込ませるべきでしょう。 最良は基地内部への侵入ですが、流石に危険が過ぎます」


「確かにそうですね。 このままでは我々は具体的な敵戦力を一切知らないままになる。 では、誰を向かわせるので?」


「我々の者達を数人潜らせましょう。 武器は最低限とし、衣服も普段着に変えます」


「解った。 服や食料は此方で用意するから、好きな物を適当に持っていってくれ」


「助かります、春日殿」


 間諜。所謂スパイは何処の軍でもあるような存在だ。

 だが俺達の街には存在せず、村中殿の提案は渡りに船である。そのまま本人に任せ、俺はパソコンの横に置かれている複数枚の手紙に溜息を零す。

 この準備を進めてから、既に複数も警告文がやってきていた。どれもあまり内容が変わらないものの、一枚一枚増える毎に脅しの内容が増えている。

 今現在最新の手紙に書かれていた脅し内容は、街人の虐殺だ。碌に調べもせずに協力者と定めて勝手に殺すなど、いくら何でも理不尽が過ぎる。

 負けたとしても全員が全員協力者だったという保証は無いだろうに、恐らくはこの戦闘によって全て死んだのだと本部には知らせるつもりなのだろう。


「……俺が断ったとはいえ、酷い目に皆を合わせてしまったな」


「何言ってんだ。 どうせ此処にお前達が来なかったら全滅してたんだから今更だろ。 それに、此処を今一度軍が守ってくれる保証は無い」


「その意見には賛成ですな。 ここまで街が破壊された以上、今の軍では避難が最優先となるでしょう。 そして、大抵の場合では移住民は煙たがられる傾向にある。 自分達の食い扶持を奪われる可能性がありますから」


 そういう意味では、この街の復興は後々を考えると決して不利には働かない。

 他の街の人々にも、俺達にも、建て直した街には新しい物流が発生するだろう。この街は普通の街だったが、新しい街ではどんな物流が起きるのだろうか。

 想像出来ないが、考えるのは此方の役目なのだろう。

 建て直した後の未来を首を振って忘れ、目前の敵について思考を巡らせる。

 今回の指揮官は決して良人ではない。この街での出来事もそうだが、独断専行が発生しているのも十分に問題だ。

 既に無数の指揮官達から注意が及んでいるだろうに、それでも此処への攻撃を行おうとするのは何故か。

 やはり、彩の技術を求めているのだろう。そして、その指揮官が入っている派閥が止める事を邪魔しているに違いない。

 決めつけるのは悪だが、今回はどうにもそうとしか思えなかった。

 今回、滋賀の指揮官は躍起になるだろう。他の派閥の基地からも戦力を借り受け、絶対に負けない布陣を用意する可能性も否定出来ない。

 ――と、此処で思いついたことがあった。


「そうだ、村中殿。 間諜についてですが、追加で頼んでも構いませんか?」


「何でしょう? 実現可能であれば何としてでも達成させますが」


「いえ、それほど難しくはありません」


 村中殿の間諜に追加で頼み、その内容に春日は口元を引き攣らせた。

 逆に村中殿は目を細めて小さく笑い声を漏らすが、その声はどう聞いても愉悦に満ちている。

 今の俺達に余裕らしい余裕は無い。使える物は何でも使うの精神で利用し、勝利への布石を用意するのだ。

 では早速と村中殿は部屋から出て行き、残るは俺と春日だけになる。普段であれば此処にデウスの誰かが護衛としているのだが、今回だけは全員を作業に向かわせているので二人だけだ。

 正直に言えば、今回の戦いは彩が全力を出すだけで全てが片付く。それだけの力があれにはあるし、軍もその力を欲している。

 周りの評価を考慮しなければ、俺はきっと最初から手札を切っていただろう。

 

「少し外に出るよ。 周りの様子も見て来る」


「あいよ、ついでに食ってこいよ。 朝から何も食べてないだろ? もう昼だぜ」


「嘘だろ? 作業に没頭してからそんなに時間が経ってたのかよ……」


 部屋の外に出ると、太陽の位置は頂点に至っている。

 それだけの間パソコンと向き合っていたのかと思うと、思わず苦笑してしまう。同時に、腹から音も鳴り出して空腹を訴え始めた。

 今日は何が食べられるだろうか。最近はまた新しく野生の牛を捕獲したそうだが、まだまだ子供を産むまでには至っていない。かといって妊娠している個体も存在しており、牧場を担当している者達はずっと牛の妊娠について勉強しているようだ。

 故に、その牛が食べられるということはない。まだまだ狩猟は必要だ。

 今日は猪や鹿の捕獲情報は来ていない。とくれば、やはり缶詰頼りになるだろう。


「よ、どうだ?」


「信次さん……」


 食糧庫の管理を任せている者から幾つか食料を貰い、その足で彩が居る復興区画に向かう。

 今は彼女と使えそうな物資を集めている青年達が居るくらいで、成人男性達は銃の訓練中だ。遠くでは銃声が常に聞こえ、この区画に来るまでの間に走り込みをしている者達も居た。

 これまで以上の騒がしさを見せる街の中で、その復興区画は比較的静かなものだろう。

 彩が瓦礫を内部に取り込み、それを再構築して再度出現させる。一気に綺麗となった建物群は、そのままこの街で暮らす者達の家となるのだ。

 家具等は無いので真っ新な状態だが、だからこそ新しく何かを選ぶ事は出来る。生憎と電化製品はまったく修理していないので設置しても無意味だが。


「どうだ、調子は」


「現状は問題ありません。 各建築物の防弾処理も同時に施していますので簡単には破壊されないでしょう」


 新品同然になった建物を見上げ、俺は素直に感嘆の息を吐いた。

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