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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百七十話 サンドイッチ

 荒れ果てた建物の群れ。ゴーストタウンじみた光景を回復させるのは至難の業だ。

 一つの建物に対して重機を用いたとしても半年以上も掛かり、それが街単位であれば年単位となる。それだけの間俺達が平穏無事に過ごせる筈も無く、故に彩による高速加工が必要とされた。

 だが、あくまでも直すのは建物そのもの。内部の家具や家電製品までは復活させず、周辺の割れたコンクリートも今回はそのままだ。

 割れたままでは確かに危ないが、そもそもの話としてガラスの欠片や潰れた飲食物などの掃除をしなければコンクリートを再度埋め直す事も出来やしない。何よりも必要なのは掃除なのだと畑等の必要人員以外の者達でゴミの排除を始め、既に一区画分は終わり掛けている。


 道としての体を成そうとすれば他に必要な要素は多いが、ただ道としての形を整えるならば難しくはない。

 だが、この街に広がる亀裂の数々を埋めるには必要量が多過ぎる。そもそもにして埋める為の材料すら発見出来ていないのだから、今は手を出す必要も無いだろう。

 他が回復し、それ以外に手を出す必要が無いと判断した時にこそ道路の補修は始まるのだ。

 車も取り敢えずは無事に通れる。だから然程問題視してはいないし、これは春日や村中殿も一緒だ。

 今注力するべきは皆が無事に過ごせるだけの環境作り。防衛用の壁を製作するのもその一環であり、崩れた分厚いコンクリートをワシズとシミズが運んで設置している。

 ただ、そのまま置いてしまっては不揃いのまま。穴が目立ち、無数に侵入出来るルートが出来てしまう。


「加工作業が多いよ~」


「無心、無心、仕方無し」


 どちらも文句を言いながらも明らかに巨大なコンクリートの山を軽く持ち上げている。

 何処からそんな力が出てくるのか、今更な感想を抱きつつも最初に決めていた通りの場所に二人は投げるように置いた。

 この街の全体図は衛星写真が存在しないので端末で収集出来なかったが、代わりにワシズが全力で飛び跳ねる事で無事に撮影に成功している。円形に近い形をしている街の周囲をコンクリートで囲い、壁の高さはデウスでなければ通り抜けられない程。

 必要となるコンクリートの数々は街だけでは足りず、周辺の廃墟からも回収している。

 お蔭で周辺に点在する廃墟群は粗方把握した。隠れるにしても何処で隠れれば良いのかは理解している。出来ればそんな場所を使いたくないのだが、把握しておくことは重要だ。


「お疲れ。 そろそろ休憩にしよう」


「疲れたー。 感じないけど、疲れたー」


 四十mの高さを誇る壁を用意するのは並大抵のものではない。しかもヘリを使えば一発で侵入されてしまい、実用性は陸路で来ている敵に対してのみしかないだろう。

 それでも、ヘリを保有していない犯罪者や武装集団を牽制する事は出来る。街に入るルートも限定してしまえば、そこを重点的に警備させて物資の流入を安定させる事も現実になっていくだろう。

 この活動は必要だ。必要だからこそ、彼女達に止めても良いだなんて言える筈も無い。

 だから休憩時間を設定し、その間は彼女達の自由にさせた。そして彼女達は大抵俺の所に甘えに来る。

 彩が常に周囲を監視しているからだろう。ワシズとシミズも周辺探知を広げているとはいえ、彼女の範囲に比べてはどうしても見劣りするのは否めない。

 だから自分が離れても問題無い、とは言えないものの多少は許していた。


「うぃー、この感触が良いの……」


「……ん」


 二人が休憩をする際は大抵の場合、俺との接触を絶対としている。

 ワシズが正面から抱き着くのに対し、シミズは背後から首に腕を回して抱き着いている。ワシズの方が積極的に甘え、シミズが若干遠慮をしながらの形だ。

 端から見れば兄に甘える妹のような形だが、本人達の行動は決してそんな生易しいものではない。

 俺の腰を足で抱き着くように掴み、全体で密着するワシズの目は妖しさを帯びている。この場では他に人間も居るのだが、どうやら本人にはまったく関係が無いらしい。

 逃げようと身体を背後に傾けても、背中にはシミズの身体がある。柔らかい感触は容易に理性を削り、しかもシミズが喋る時は毎回耳元だ。


「彩が居ないからこそ出来る贅沢。 この瞬間の為に仕事をしていると言っても過言ではないな~」


「俺で満足するとか、安いとか思われるぞ」


「そういう奴は転がしておくだけだよ。 潰すだけなら何でもないんだし」


「止めなさい。 そういう発言は怖がられるだけだからな」


「別に、構わない、し……」


「……耳元で囁かない。 そしてシミズも止めなさい」


 シミズの何処か険吞さも含んだ発言には遊びが一切感じられない。

 抱き締める圧も強まり、それはワシズも同じだ。どちらも離すつもりはないと余計に密着して、全身が柔らかくも暖かみに溢れる感触に包まれている。

 子供のような体温と表現するべきなのだろうか。どれだけ彼女達が積極性を出したとしても、そういった部分部分から彼女達の幼さを理解してしまう。

 人造の、ましてや何時頃完成された存在なのかは解らなくても、この二人はまだ子供らしさを抱えているのだ。

 常識的なものを持っていないのはデウスなら当たり前である。それを差し引いたとしても、この二人に対してどうしてか彩と同じ様に接する事は出来ない。

 恋愛感情なんて持てないのだ。それがデウスを次のステップに移行させるのだと理解していても、そんな理由で愛だの恋だのを語りたくは無い。

 

「あー、四人でぐうたら寝てるだけの生活を送りたいなー。 戦うのは興味が湧かないし、信次さんが死ぬかもしれない場所に行くなんて御免だよ」


「それは……俺も同じだよ」


 不意に呟くワシズの言葉に、俺も同意する。

 出来ることならば、誰にも干渉されない場所で四人全員平穏無事に過ごしたい。

 朝に挨拶を交わし、作物でも育て、家の中で横になる。皆でテーブルを囲んで笑い合える日常ならば、俺は何を捨ててでも欲しい。

 だが、現実にそんな場所は無い。戦い、勝ち取ることでしか今の生活は無いのだ。

 二人が俺に密着しているのを彩は気付いているだろう。常に此方に対して意識を向けているのだ。例え探知であろうとも、俺に関してだけは一切の手を抜かない。

 それでも何もせずに放置しているあたり、彼女も彼女で認めている。実際に口にはしなくとも、そうでなければ彼女は他者が俺と接触するのを激しく拒む。


「結婚式、話出てた」


「ああ、村中殿か。 今はあまり考えていないというか、正直に言えば村中殿に言われるまでは意識の何処にも無かったよ」


「するの?」


「さて、どうだろうな。 彩の気持ちも聞いてみないとなんとも」


 これは雑談だ。他愛も無い、直ぐに消えてしまうような話の数々に過ぎない。

 結婚なんて、俺達の生活の中では一切無縁だった。だが、したくないと言えば嘘になるのも事実。

 男女が正式に夫婦として認められるには結婚以外に方法があるものの、やはり結婚の方がメジャーだ。

 彩もその話を聞いていた。だが、今の所は話題に上らない。意識して此方と話していたようには思えなかったので、彼女にとっても結婚という単語は意識に無かったのだろう。

 互いに好いている自覚はある。だがその先に進むという意識がまったく無かった。

 だから、結婚をするのかどうかを聞かれても即答することは出来ない。これに関しては彩とも話し合いの場を設ける必要が出てくるだろう。

 だが、その結論に二人は別の何かを考えたようだ。目に見える範囲ではワシズが空を見上げ、直ぐに此方と視線を合わせる。


「私達って、人間じゃないから結婚って出来るのかな?」


「出来るだろ。 デウスは人間に歓迎されている。 軍のような差別的な意味じゃなくてな? 俺がお前達に出会わなかった頃なんて結婚したいなんて奴がごまんと居たさ」


「こんな見た目でも?」


「勿論。 そこら辺が男の業というか、変態の性というか、お前達くらいの見た目でも結婚に賛成する男は馬鹿みたいに多いよ」


「じゃあ、結婚、する……?」


「なんでそうなる」


 雑談は泡のようなもの。消えるだけでしかない会話に、しかし俺も彼女達も何処か楽しんでいた。

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