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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百六十九話 未来の敵

 新たに傭兵団が加わる事で俺達の戦力は一気に増強した。

 だが、それと同時に食料の必要量も増していき、女性陣達には早急に畑の拡張をお願いしている。

 暫くは傭兵団達が持っている食料でなんとかなるが、想定よりも早く食料が無くなる事は容易に想定された。

 傭兵団を率いる村中殿は独自のルートから食料の調達を可能としているそうだ。そうでなければ満足に活動出来ないだろうし、俺達の畑に頼るつもりは現在は無いらしい。

 それでも何が起こるかは不明だ。こうして此処に定住すると決めた以上、これまで通りの活動は難しくなる。

 彼等の役割は単純明快。この街の武力を司り、武器の管理や希望者への訓練を担当する。同時に、この街が襲撃された際における主戦力として活動してもらう予定だ。


 消費した物資を補充する資金は全て彼等が自前で用意する。此方では金を用意するだけの手段が無い以上、そうなってしまうのは必然だ。

 完全に彼等にとって利益となる事が無い。不利益ばかりであるが、村中殿はそもそも住める場所を探していたとのこと。普通の街では彼等全員を住まわせる事は出来ず、複数の街に分散して住まわせてはいざという時に集まれない。

 軍と契約するのは仕事以外では無しとのこと。一部を除いて軍は彼等を見下すそうで、その態度があまりにも村中殿の気に障ったようだ。

 軽く雑談をした傭兵達曰く、その時の村中殿は相当に危険な状態だったらしい。

 一歩間違えれば全面戦争になりかねず、故にこうして街としての機能が壊滅していても安定して住める場所を発見出来たのは有難いそうだ。


「これでもっと安定して作業が出来るな」


「ああ、此方の連中も友好的だ。 そちらが非常識な真似をしない限り、此方も馬鹿な真似はさせない」


「無論です。 我等の傭兵団は規律に厳しいですからな。 もしもそちらに迷惑を掛けるようであれば殺処分させていただきます」


「過激ですね、村中殿」


「過激ではありませんよ、只野様。 傭兵の仕事は信頼が命。 ましてや貴方様がいらっしゃる街です。 愚かな真似をした者達は殺しても何の問題もありません」


 村中殿はきっぱりと宣言した。

 あまりにも過激な言葉であり、その言葉を撤回するつもりは本人には一切無いだろう。もしも例外的に止めれるとしたら、それは俺達の直接的な言葉だけだ。

 何の誇張表現も無い事実だけに背筋には冷たいものが流れている。逃走から始まったこれまでの旅がまさかこんな出会いを引き寄せるとは想像出来ず、そして俺達の噂は他にも出回っているのだ。

 最初にこの街に来た時点では何も決めてはいなかったが、これからは荒くても組織としての役職を設ける必要がある。

 特に報酬の物資等も貰っている以上、自分達が何処に所属しているかを明確にする必要があった。

 これからは個人だけの活動で完結させられない。何をおいても組織としての生存を第一とし、俺達だけが生き残るなんて考える事も許されないのである。

  

「最初は三百人くらいからスタートして、此処で八百人くらいか。 一気に所帯が増えたな」


「この情報は全国に回るでしょう。 個人で活動している傭兵であれば此処に来るかもしれませんな」


「戦力が増えるのは大歓迎なんだが、余計な奴が混ざってくるのは勘弁願いたいな。 スパイの発見なんてやった事無いぞ?」


「その点も我々にお任せを」


 村中殿率いる傭兵団は到着した直後から活躍してみせた。

 実用的なバリケードの展開方法。物資の荷運び。その二つはただの民衆でしかなかった者達では全て運ぶのは難しく、時間が掛かるのは明白だった。

 彩達が居ても多くの時間が必要だったろう。それを僅かな時間で終わらせたのは、流石としか言いようがない。

 彼等は今後において重要な存在となる。そんな確信を抱かせ、だからこそ失望され過ぎる事だけは避けなければならない。

 俺の責任は非常に重い。その重圧は仕事をしていた時以上であり、出来ることならば誰かに押し付けたかった。

 その後も三人で幾つかの話し合いを済ませ、全員で廃墟から出る。

 村中殿の話をそのまま信じるのならば、軍もそろそろ落ち着きを見せ始めているそうだ。既に十人の指揮官が管轄する県に戦力と共に戻り始め、そのまま戦力の回復に力を注ぎ始めるだろう。

 

「この県に居る指揮官は決して人の良い人物ではありません。 この街の情報を知り、使えると判断すれば権力を行使して支配下に置こうとするでしょう」


「そうでしょうね。 ですが、彼等は一つ知らない事があります」


「それは――ッ、この気配は」


 廃墟から出た際の村中殿の懸念は確かに問題だ。だが、そう簡単にこの街を支配下に置くのは不可能である。

 俺達の前に屋上から周辺を監視していた彩が降り立つ。放つ気配は険吞そのもので、先程の村中殿の懸念を聞いていたのは想像に難くない。

 その気配を実際に肌に感じた村中殿は身体を震わせていた。

 無意識なのか足を一歩下がらせ、何時の間にか片手は腰のハンドガンに伸びている。


「その暴挙、許すとでも?」


「ですが、相手は軍です。 貴方様達の存在そのものを理由として介入するのは自然でありましょう」


「それが何だと言う。 武力、権力、何れも全て飲み込んでみせるとも。 邪魔する者は何であれ潰す。 それが私の道理だ」


 潰す、潰す、全てを潰す。

 彼女の敵に対する苛烈さは味方をも恐怖させる。真顔で目を見開いている彼女の様子からはデウスらしさを一切感じ取れず、故にこそその違いに村中殿は多少なりとも目に困惑を浮かばせていた。

 

「そこまで。 ……あまり威圧をするもんじゃないぞ、彩。 お前の殲滅力は確かだが、それだけで生きていける程世の中は甘くない。 今の言葉は油断だぞ」


「ッ、失礼しました。 理性的な行動に欠いていました」


「良いよ、それだけ彩が大事に思ってくれているって知っているから。 取り合えず彩は邪魔な建造物の掃除に参加してくれ。 彩しか加工は出来ないからな」


「了解しました。 では代わりにワシズをそちらの護衛に付けます」


 直ぐに彩は元に戻り、ワシズに連絡を取ってから清掃中の倒壊現場に向かった。

 一気に元の雰囲気へと戻った周囲を見て、村中殿は露骨に息を吐く。よくよく見れば既にハンドガンの安全装置は解除され、引き金にも指が当たっている。

 それだけ彼女の事を脅威だと身体は認識したのだろう。人間の武器では撃破は不可能だと知っているのに、それでも無意識に動く様は正しく戦に生きる人間だ。

 

「恐ろしい方、とここは敢えて言わせていただきます。 先程は油断だと貴方様は言いましたが、彼女はそれが出来ると確信している。 ……そういえば、北海道で不可解なエネルギー反応を感知していました。 そこには貴方様達がいらっしゃったとか」


「その話はそれ以上出来ません」


「畏まりました。 誰でも秘密を抱えるもの、それを深く詮索するつもりはありません」


「申し訳ありません。 ですが一つだけ言えることは、軍が此処に来るのは決してデウスが軍から脱走しているだけではないのです」


「――成程」


 村中殿は深くにまで足を踏み入れない。

 彼の保有する戦力をちらつかせれば幾らでも聞く事が出来るだろうに、それをしなかった。

 その好意に素直に甘えよう。俺は村中殿と別れ、途中で現れたワシズと共に再建現場に向かう。本当ならば彩にはあの能力を使わせたくなかったが、こうして傭兵団が仲間に加わり、北海道での時勢も聞く事が出来た。

 急がねばならない。彼女の能力をフルに活用してでも、再建を一気に加速させる。

 今度の相手は間違いなく軍だ。

 未来の敵を想像し、自分を取り巻く環境の急激な変化を認識し、頭には無視出来ない頭痛が発生し始めていた。

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