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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百六十六話 バリケード

 接近する存在は全て人間だ。

 複数人の反応にワシズとシミズは春日達を広場に集め、俺と彩は他の住人を呼びながら走る。

 集合場所は広場。今度はヘリではなく、人間ということで軍である線を真っ先に消していた。軍であれば車による移動もあるだろうし、ゆっくり進んでいる時点で大きな組織人ではないだろう。

 可能性としては小・中規模の組織。或いは、大規模な難民。

 金属反応も拾っただけに銃器の存在も匂っている。勿論ただの金属器の反応かもしれないが、このご時勢で警戒しないは選択肢として一切存在しない。

 ハンドガンの感触は酷く冷たかった。忘れてはならないと練習は欠かせていなかったが、これを引き抜く事は無いように胸の中だけで祈る。

 

「おいおい、なんだよ!」


「俺に聞くな。 ワシズが街の外で大人数の生命反応と金属反応を捉えた。 ワシズ、シミズ!」


「偵察行ってくるよ!」


「じゃ」


 二人は片手を挙げてさっさと偵察に向かった。

 不安気な皆の視線を他所に、俺と彩が先ず確認するのは武器の種類だ。

 彩の持つ既存の装備に、俺の持つハンドガン。後はワシズ達の持つ装備を含めると、全体の総数は決して多い訳では無い。

 かといってそれで負けが決まっていると言うつもりはない。量そのものでは負けていても、その質は異次元だ。

 俺の装備を除き、彩手製の非常識な武器は数など関係無く面制圧を行えるだろう。

 攻撃そのものに不安要素は無い。彩達の武装で不安要素が出るようならば、最早どの武器でも不安に感じてしまう。

 当たり前と言えば当たり前の道理。だからこそ、武装の確認が済めば次は防衛だ。

 この街に壁らしい壁は無い。そもそもそれを立てる余裕も無かったし、デウスという最上級のレーダーがこれまで様々な反応を拾ってきた。

 その殆どが野生動物だったが、街を横切る少数の人間や兵器の輸送をしている思われる大規模な金属反応もあったのである。

 だからこそ、こうして接近してくるというのはこれまでとは違うのだ。


「一先ず、ワシズ達の情報次第によるがデウスの線は薄い。 まったく無いとは言い切れないが、かといってそれに拘ってバリケードを作ろうとしても間に合わないのが関の山」


「相手はどれくらいの速度で来てるんだよ」


「ワシズのレーダーによれば、車やバイクを使った移動方法を使用していない。 多めに見て一日ってくらいだろうな」


「……じゃあその間にバリケードでも何でも作る必要があるってことか。 急ぐ必要があるな」


「その意見には賛成だ。 早速始めよう!」


 デウスを想定しない防壁を作ることが俺達の出来ることだ。

 ワシズ達がデウスの影を捕まえれば、街に到達される前に行動不能にまで追い込む事も不可能ではない。例え数が複数でも、人を守りながら戦う必要があるデウスは基本的に不利だ。

 最終ラインは彩が守るが、万が一突破された時の事も考えねばなるまい。これは決して彩を信用していないからではなく、如何に彼女でも失敗が発生する余地があるからだ。

 相手の位置は丁度隔離した者達とは真反対。つまり俺達は完全に挟まれた形となり、これ幸いと反対側から包丁で攻撃されれば混乱の元だ。

 嫌な位置に来られたものだと思うものの、此方の事情など相手は考えない。


 今は残りの時間の中でバリケードを構築すべきだと進行方向に瓦礫を置いて壁を構築していく。

 材料そのものは豊富なのだ。人の手では用意の出来ない代物でも、彩が居れば転がすだけは出来る。

 道を封鎖するように瓦礫を転がし、女子供は力になれないのでそのまま退避させた。なるべく奥にまで退避させたいが、位置としては中心寄りの廃墟の中になるべく一塊に入れておく。

 通信手段は一切無い。俺達が負けても彼女達は何も知らないまま脅威に晒されることになってしまう。

 負けない為に全力を尽くすしかないのだ。

 もしも敵だったらと考慮すれば、現状はまだまだ必要な機材が足りていなかった。……小型端末が震える。

 

「ワシズかッ。 どうだ、相手の姿は確認したか?」


『うん! でも、何か変な姿してるよ!』


「変な姿? 具体的には?」


『待って、今画像データで送るね』


 端末が再度震える。

 スピーカーモードに変え、送られた画像データを確認した。

 画像の枚数は三枚。一枚は正面から見たもので、二枚目は側面から見たもの。最後の一枚は拡大して見たものだろう。

 数は百人弱。全員私服姿であり、背中に武器を担いでいる。

 だが、その武器を担いでいる人間は前方と後方だけに集中していた。中間には俺のように大き目のリュックを背負った人間が見え、その顔は決して明るいものではない。

 重い物を持っているのだ。苦しくない筈も無い。そんな集団がどうして此処に向かっているのかは定かではないが、穏やかな雰囲気とはとても思えなかった。

 春日にもその画像を見せると、苦々し気な表情へと変わる。百人弱程の人数が此処に攻め込まれれば、流石にこの街の住人は区別無く殲滅させるだろう。


「会話内容は掴めたか?」


『あんまり。 いくつか世間話で言葉は拾えたけど、それだけだよ』


「一応教えてくれ。 何に役立つか解らないからな」


 ワシズから送られた情報は有益だが、言葉そのものに然程の価値は無かった。

 恐らくは荷物持ちが言っていたのだろう。愚痴ばかりを吐き、それを叱責する言葉もワシズは拾っていた。

 そこから見えるとしてもやはり彼等が組織だった行動をしていることくらい。最初から解っている行動以外、何も追加で手に入らないというのは不安を誘った。

 ワシズにはそのままの状態を維持してもらい、近くに居るであろうシミズに通話を繋げる。


「シミズ。 一端こっちに戻ってバリケードを作るのを手伝ってくれ」


『了解』


 こっちはこのままバリケードの作成だ。

 今更武器を渡したって出来る筈も無し。防御を硬め続け、最低でも三日は持たせる程度の壁を構築する。

 彩には大雑把に三重の壁を瓦礫によって構築してもらい、その隙間を男達で埋める形だ。倉庫内の食料も一週間分運んでもらい、さながら引き篭もりの如く殻に閉じこもるのだ。

 しかし、このまま女子供を廃墟に隠したままでは精神的圧迫が極めて多い。それで発狂でもされようものなら、余計な被害が生まれかねない。

 故に、彼女達には全力で罠を用意してもらう。残り時間の中で気にする余裕など与えない程に大量に作ってもらい、完成した直後にその罠を設置していく。

 

 引っ掛けの罠ばかりだが、相手の足止めには有効だろう。

 手間取っている間に男達が一斉に殴れば気絶程度は狙える筈である。それでも不安は大きいものの、かといって後は貴重な車特効くらいなものだ。

 命に比べれば軽いのは事実だが、かといってそれを切って生き残っても今後が辛くなるのも事実。

 戦いとはどれだけ余裕を持って終わらせられるかだ。今此処で多大な消費をして勝利を掴んでも、それで共倒れになっては何も意味はない。

 

「罠で引っ掛かった奴が出ても安易に突撃するなよ。 後方で撃たれたら御終いだ」


「解ってる。 持てるだけの工具を持って投げ付けるさ。 それで足りなけりゃ、石でも投げてやる」


「原始的だ」


「だが、有効だ」


 互いに頷き合い、そのまま俺達も作業に入っていく。

 金網を、棚を、罠を、それぞれ必死になって準備して備える。暫くするとシミズも到着し、彼女も一緒になってバリケード作成に精を出した。

 生き残る為には食い合いは発生する。俺達は俺達の範囲の中で、懸命に明日に向かって戦い続けなければならない。

 それが終わるのは果たして何時だろうかと、頭の片隅でそんな得体も無い思考が流れていった。

 

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