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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百六十一話 The・Deus

 最初に設定されていた時間である二時間後を迎え、本部は本隊の出撃を命じた。

 彩の攻撃によって海路への安全に気を回せるようになったデウス達は既に可能な限りの敵を潰しているが、それでも海である限り完全な駆逐は不可能。

 本隊が北海道に向かっている間もデウス達は海を警戒せねばならず、僅かなりとも反応を検知次第顔を出した瞬間に射殺する。勿論、本隊とて一切の攻撃を行わない訳では無い。

 現在陸で戦闘を行っているデウスを除き、その反応は全てのデウス達とリンクしている。

 敵を潰しながらも安全なルートを進み、なるべく全員が無事に上陸出来るように全力を注いでいる様は正に必死。

 乗り込んでいる船には人間も居る。デウス達の本能が稼働し、普段と比較すれば動作には僅かながらにブーストが掛かっていた。

 

 しかして、これ自体は最初に決められていた通り。

 誰もが何の違和感も無く、そのまま武器や弾薬などを持って北海道へと攻め入った。

 そうなれば、先発隊が受け持つ役目も徐々に減っていく。到着と同時に先発隊へと味方していくデウス達は頼もしく、損傷の度合いが大きい者達から順番に後方へと戻された。

 肉体の修理は戦場では出来ない。特に四肢の欠損やコアの露出が見られる損傷が起きていた場合、その者の復帰は不可能だ。

 動ける者は仮設指揮所を作る事に協力し、無事な者は続行して戦闘する。

 兵士達の役目は仮設所の製作と、各種補給物資の提供だ。デウスのみしか活躍出来ないが、人間でもサポートは出来る。


 弾薬と追加の装備一式を本隊が攻撃している間に戻ってきた先発隊に渡し、周辺のデータ採取や死体となった怪物達の身体を集めていく。

 怪物の身体は希少という程ではないが、かといって有り余っている程多い訳でもない。

 構成物質を調べ、それを元にして敵の弱点を調査することを主眼としているが、それ以外にも武器として活用可能な技術を模索している最中だ。

 最終目標はデウスに頼らない兵器開発。それは最初に怪物の死骸を回収した頃より始まっているものの、一定の成果を出してはいないので、軍の一部からは金食い虫と非難されている。

 生態情報は集まっているが、そこから成果を出せねば何の意味も無いだろう。

 

「――よし。 これで私の役目は終わったな」


 先発隊の八割は生存した。

 損傷の程度はあるものの、離脱者を可能な限り抑えられたのならば十分満足のいく結果となっただろう。

 人格データの破損も今の所は確認されていない。時間は掛かるが、全員の復帰も可能な範囲に留まっていた。

 結果は出した。この後の戦いも人類側に優位に動くだろう。

 ならばこれ以上の助太刀は無用である。只野に命令された内容を完遂した事に、彩は内心笑みを浮かべていた。

 戻ったら褒められるだろうか、それとも頭を撫でてくれるかもしれない。そんな乙女的な思考も働き、早くこの場を離れようとPM9達に通話を接続する。

 

『もう十分だろ? これで私は帰るぞ』


『あいあい、お疲れさん。 本隊が間に合った以上はこれでケリも付く。 軍もこっちに注力したいだろうから、逃げれる内に逃げとけよ。 何されるか解ったもんじゃない』


『解っているさ。 既にあちらからは何度もコールが来ている。 今は無視し続けているが、何れは捕まえに来るだろうな』


 彩が語った通り、既に本部が彼女との接触を図る為に何度も通信を送っている。

 その中には文章形式での物も存在し、彩はその内容を見ずに自動的に削除を選択していた。どうせまともな文面ではないだろうというのが彩の意見であり、デウス専用の強制通信回線も駆使して接触を図ろうとするその様は彼女にとって醜いと断じるものだった。

 これが同じ人類である只野と同種とは思えない。只野だけが一つ上の格の存在に登ったのではと考えてしまうくらい、彩はその人間達を怪物と同等に認識していた。

 話す道理は無し。このまま去るだけだとブースターに火を点火し――直後、彼女に向かって一つの弾丸が迫った。

 彩の周囲を漂っていた三分割されたシールドの一つが彼女を自動で守り、銃身を一体のデウスに向ける。


「何か用か、V1995」


 紺の髪を持った精悍な顔立ちの青年が、彩の視線の先に居る。

 他のデウス達とは異なり、その顔は隠されていない。ボディにも黒色の専用の物を使われ、手には愛用のハンドガンが握られていた。

 その表情は憤怒に染め上げられ、彩に対して何かを抱いているのは歴然だ。

 グリップを握り締め、なおも足りぬとばかりに力を込めている。身体は震え、今にも爆発しそうな感情を必死に抑え込んでいるのが見て取れた。

 

「なぁ、俺の事を覚えているか」


「勿論だ。 十席同盟の第十席、V1995」


 その男は、彩が以前にまで所属していた場所である十席同盟に座る者だった。

 彼女の淡々とした紹介に、V1995が怒りのみだった顔を歪める。まるで今にも泣きそうな子供の如き様子に、男を知るデウス達は何事かと顔を向けていた。

 場は自然と静まり返っていく。その流れを止めようとPM9やZ44が声を掛けて部隊を前線に移動させていくが、この二人だけは止める事が出来ない。

 踏み込んだとしてもV1995は話を聞かないだろう。見ただけでも感情の波に攫われそうになっていて、その部分はあまりにも人間らしい情緒に溢れていた。

 

「……俺は、アンタの事を尊敬していた。 初めて会った時からアンタの事を尊敬していたんだ!」


 V1995は叫ぶ。

 過去の記憶を引っ張り出して、彼はこの感情の源泉へと想いを伝える。

 彩という存在の事をV1995は尊敬していた。彼は以前、軍で十席同盟所属直後の彼女と一度会っている。

 当時の情勢は地獄も地獄であり、デウスが新しく生まれては死ぬ事が多かった。今でこそ対応方法等が判明している怪物が多く存在しているが、その当時は情報など無いも同然。

 アップデートされる前では新種だらけの環境で、それでもデウス達は勝利を握らねばならなかった。

 故に、十席同盟の存在は眩しかったのだ。

 彼では絶対に辿り着けないと思いつつ、それでも彩に会った事で彼の意識は劇的な変化を見せた。


「俺はあの時、何時居なくなっても良いと思っていた。 見知った連中がバックアップも出来ずに死んでいって、再会してもお前は誰だと言ってきたんだ。 オマケに軍務は地獄も地獄で、こうしてこの場に立っていられているのが今でも信じられない」


 少しでも仲が良くなっても、暫くすればその記憶を失う。

 それがV1995には耐えられなかった。以来、誰もを寄せ付けずに単独行動で仕事をすることが多くなり、それが指揮官達には不快に思われていたのだ。

 いい気味だと、当時のV1995は内心で嘲笑っていた。俺達をこんな目に合わせるからそんな思いを抱くのだと馬鹿にしていて、そんな頃に彩と会ったのである。

 V1995の最初の印象は、力強いというものだ。

 常に勝利を求める目。必ず生き残ろうとする強い炎が瞳に映り、他のデウスとはまったく異なる存在感に当時は十席同盟在籍者という肩書も含めて注目を集めていたのである。


 しかし、彩は軍に居た頃は一匹狼として活動していた。

 誰ともチームを組まず、しかし命令で組んだ者達はほぼ確実に生存させている。他のデウスでは出来なかった偉業を彼女は成し遂げたのだ。

 同じ単独行動をする者として、そんな彼女の事を尊敬するのは自然だった。

 会話そのものは一切無い。その頃は話し掛ける資格も無く、彩本人が拒絶のオーラを纏っていた事で会話など出来る筈も無かった。

 だがその存在を見て、肌で感じて、情報を集め、V1995は新しい可能性に目を輝かせていた。


「でも、アンタは違った。 俺と同じ単独行動をしていても、驚異的な結果を叩き出す。 ――――可能性を見せ付けられたんだ」


 デウスの可能性を知った。技術を極めれば、彩のような真似が出来るかもしれない。

 否、出来るのだ。そして、その力でもって今一度友となった者達を生き残らせ続ける。新たに構築された信念でもって、V1995は地獄の道を進み続けた。

 その努力は確かな成果として着実に積み上がる。最初は己、次は一人、最後には無数のデウス達を。

 一度でも繋がった者達を見捨てる事は出来ない。それがどれだけ無謀な事であれども、過去に出来た者が居たのだから否定するのは絶対に出来ない。

 その果てに彼は最新の十席同盟在籍者となり、こうして彩と再会した。


「……なぁ、アンタに何があったんだ。 どうして、そんな他人なんてどうでも良いなんて態度を見せるようになったんだ。 そりゃ、軍に居た時も歓迎ムード全開だったとは言わない。 脱走する事になった原因も知ってる。 それでも、誰かが死にかければ助けるくらいの情はあったじゃないか」


 V1995から見て、今の彩は最後に見た頃よりも強くなった。

 だがそれは同時に、デウスとしての大事なモノを置き去りにしたものだとも解ったのだ。

 

「そんなにあの男が良いのか? あの男が、アンタを変えちまったのか? ――――なら」


 只野・信次。

 その人間の名前をV1995が認識した瞬間、怒りで身が焦げそうになった。絶対に許してはならぬと、彼の信念が訴えている。

 彩の為にも。その思いに後押しされ、彼は殺意を抱いた。他ならない彩の前で。最も選択してはならない選択を。


「それ以上の言葉は、私への敵対と受け取って構わないな?」


 会ってはならない二人が会ってしまった。

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