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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百六十話 愛の御業

 燃えよ、燃えよ、何処までも。

 私の為に、あの人の為に――幸福な今を求めて、燃え続けよ。

 戦場が燃えていく。その言葉は本来当たり前のものであるが、その言葉の真実はそこではない。

 デウスの誰もが彼女の姿に戸惑いを隠せなかった。皮膚装甲の間から噴き出す蒼炎は彼女の身体を隠し、それは攻防一体の壁として作用する。

 彩が防具を纏っている様子は無い。普段のままで彼女は立ち、それがますますの違和感を抱かせた。

 十席同盟。それも殆ど欠番扱いも同然の彩の登場は、その方法も相まって衝撃を全体に与えた。しかし、彼女の事を知っていた者達からは苦笑が浮かぶ。

 主の為に。彩の行動理念はそれだけだ。自分の事を二の次にして、彼女は全力を発揮する事が出来る。


 他の方法では彼女は全力を出せない。最早そうなるように感情プログラムが変わってしまったから、彼女から主を奪い取ってしまえば二度と戦おうとはしないだろう。

 あまりにも不安定。だが、不安定であるからこそ今この瞬間は最高威力を叩き出せる。

 彩の隣へとPM9は駆けた。その背中に回し蹴りを放ち、彩はその攻撃を回るように回避する。

 炎に触れてしまってはデウスでも容易く溶けてしまう。今この瞬間もPM9の肌は炎によって炙られ、表面が徐々に溶けだしている。

 だが、そんな事はPM9にはどうでも良い。

 既に大局は征した。彩がこの場に居る時点で、そしてあの威力を容易に出せる事から勝利を掴むのは確実だ。

 けれども文句が無い訳でも無い。


「お前なぁ! 来るなら来るって事前に言っておけよ!!」


「私も予定には無かった。 お前達が不甲斐ない所為だぞ」


「お前さんが反則になっただけだっての。 それが無かったからお前だって厳しいだろうが」


「否定はしない。 が、なら別の手段を取っても良かった筈だ。 わざわざこの地点を橋頭堡にする必要も無いだろう」


 確かにと、PM9は頷く。

 本部が指示を下したからこそこうして防衛線を構築する事になってしまったが、そもそもこの地点にはまだ何も守るべき物が存在しない。

 慌てていたのもあるのだろうが、それでも逃げながらの撃破でも良かった筈だ。そうであればゴーレム型の行進を気にする必要も無いし、獣に食われる必要も無かった。

 反省点として考えるべきだと彩は告げ、それについてPM9は何も言えない。

 確かにそれは真実だ。此処を奪還すると決めている以上、PM9の提案を軍は無碍には出来ない。この状況と粘り強い説得があれば、流石に上陸箇所の変更くらいはあっても不思議ではないだろう。

 失念だ。だが、それを態々彩は責めたりはしない。――――既に自身は軍から抜けた身。それなのに一々文句を言ったとして何になるというのか。


「一先ず、私は私の仕事を完遂させる。 一部を海側に向け、残りは殲滅に走るぞ」


「解ってるって。 お前でも厳しくなったら教えろ。 そうなったら流石に戦闘エリアを変える」


 彩が大多数の怪物を撃破した事で僅かながらも余裕が生まれた。

 相手は彩に対しての怯えも感じている。彼女が意識を敵に向ければ露骨に身体を跳ねらせ、逃げる個体も居た。

 先程までの猛攻とは異なり、現場は停滞そのもの。今ならばいけると誰もが希望を胸に攻撃を再開し、一気に場の空気をデウスが握り始めていく。

 各々のリーダーであるデウス達が指示を下し、それに合わせて防衛線から飛び出るように彼等は身体を動かす。

 最初はあまりにもの数に誰が誰を倒していたのかは解らず、適当に乱射をしていた側面もあった。対象をロックしていても、一秒もしない内にその対象の前後が後退してしまう事もあるのだ。

 その際に強制的にロックが外れてしまい、弾の無駄遣いを誘発していた。

 この現場そのものは未だ敵が多く存在している。故に乱射が愚かであるとは誰も言わないが、傷を負わせるだけの攻撃に何の意味があるというのか。


『次弾装填。 二秒後に撃つぞ』


 全域通信で彩が告げる。

 それに合わせて全員がマップを確認し、彩の決めた攻撃範囲から離脱。その間も敵を倒し続け、新兵器を持つ者達も安心して新種に対して武器を振るう事が出来るようになった。

 彩の設定した範囲内に存在する敵の数は約三千。機械的に数えられた二秒後に再度白亜の銃身から火が噴出し、北海道という土地に火柱を発生させた。

 呑まれ、焼かれ、溶けていく。範囲内の生物の生存を認めないと全力の火力で燃やし続け、外殻が如何に硬い者でも一片の痕も残さず消滅させた。

 怒りを込めて、憎悪を込めて。彼女の行動原理をそのまま示すように、只野以外の他者を一切考えない無慈悲な一撃を叩き込む。

 火柱が出ていた時間は僅かに三十秒程度だった。しかしその時間はあまりにも長く、デウスにとっても迂闊に接近出来ない程度だ。

 

 その火力にZ44が羨望を覚えてしまう。

 純粋な火力は力とイコールで結ばれている。高過ぎれば確かに周囲へ配慮しなければならないが、それを無視して放てるだけの性格をしていれば関係など無いだろう。

 彩は正しく、只野に関係が無ければ一切の容赦が無い。今この場に居るのも只野が望んだからと結論を弾き出すのは容易で、それが無ければこの場の全員が死んでも何も感じなかっただろう。

 昔の同僚も、彩にとってはただの一デウスに過ぎないのだ。それに寂しさを覚えないと言えば嘘になるが、かといってそれを矯正出来る筈も無し。

 彩の攻撃に合わせて放熱を開始した為、今は攻撃を止めている。

 今は自身が受け持っているエリアで生き残っているデウスの確認であり、既に数百のデウスのボディが大破しているのを確認出来た。

 

『此方Z44。 彩、此方側の敵が多い。 次弾装填が済んだら今度はこっち側に攻撃してくれないか』


『攻撃するだけなら連射も可能だが?』


『……一応、五分後に頼むよ』


 Z44の言葉を軽く返す彩だが、その言葉に彼は口の端が引き攣った。

 それはつまり――あれだけの火力を何の代償も無く連射出来るということだ。範囲指定が出来ない事や弾薬の消費といった意味でのデメリットは存在するが、そんなものを代償とは誰も言わない。

 凶悪極まる。それだけの火力を持つ武装をどうやって用意したというのか。只の新発明でないのは解っているが、これがもしも彩だけでし(・・・・・)か用意出来ない(・・・・・・・)代物であれば、その価値は一気に高まる。

 金での取引程度では駄目だ。他の何をもってしてでも手にしたいとなれば、最悪の場合殺し合いにまで発展するだろう。

 あの武装は戦場の価値観を一転させるものだ。


 それを隠す為にZ44は告げるが、五分程度でも十分に驚異的だ。

 つくづく味方であって良かったと思う他に無い。こんな相手と敵対していたかもしれないと考えると、岐阜での出来事は単純に馬鹿でしかなかった。

 あの時はまだまだ解り切っていなかったが、今なら解る。

 彩は特別だ。その理由は未だ明確なものでないとしても、トップに君臨しても違和感が無い程度には彼女は特異な存在である。

 冷却の終了したガトリングを持ち上げ、再度の突撃を行う。

 ガトリングは敵が大量に居る現状では優位だ。移動そのものは難しくなるが、それはデウスの筋力で無理矢理解決させる事が出来る。


 時間は刻々とデウスの優位に傾きつつある。

 それを覆すには彩の能力を超える必要があり、その全てを怪物達は超える事が出来なかった。

 弱肉強食。その法則を体現する彼女が今は世界の中心だ。日本という世界を超え、やがては外国にまで彼女の情報は広がっていく。

 その時にどうなっていくのか。それを予想することは不可能だ。

 虐殺が続いていく。獣の血も残らない大地の上で、Z44は玉座に座る彩の姿を幻視した。

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