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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百五十三話 その名を刻め

 武器庫は巨大だ。

 量も多く、重量もあり、サイズも決して小さくはない物ばかりなので流石に管理も難しい。

 巨大な建物は布製ではあるものの、周囲を監視するデウスの数は他よりも遥かに多いのだ。此処が潰されてしまう可能性を考えての配置なのだろうが、それをするくらいであればデウスの内部メモリに収めてしまえとも考えてしまう。

 実際にそれをすれば管理が余計難しくなるのだろうが、安全性はそちらの方が高い。

 9Sは入り口に立っているデウスと話をし、俺達を通す。布製故にまともなセキュリティ対策は出来ておらず、布一枚を通れば直ぐに無数の銃器の山と対面する事になった。

 無造作に積まれている訳では無い。ステンレスの骨組みの上に木箱が乗せられ、箱の側面には武器の名称が書かれている。

 

 そこから武器を取りに来るのだろう。

 四階建てクラスの長方形の建物は、その巨大さに比べて遥かに狭かった。銃器ばかりの所為で心なしか鉄の匂いが充満しているようで、長居はしたくない場所である。

 早速目の前にある武器から手を伸ばす。デウス用の装備に触るのは初めてで、興味はある。

 だが実際に触ってみると解るのだが、既存の武器と大した差は無い。この辺は規格の統一が行われているからだろう。

 デウス用の専用装備とはいえ、大体の物は量産品の範疇だ。

 それを超える改造は各々の基地で独自に行われていると見るべきかもしれないが、一先ずはその部分に目を向ける必要はあるまい。

 次は持ってみようとして――その予想外の重量に目を見開く。


 まったく持ち上がらない。どれだけ全力で持ち上げてみようとしても、梃子でも動かぬとばかりに銃はまるで動かなかった。

 代わりに彩に持ち上げてみてもらったが、今度は軽々と銃が持ち上がる。

 無性に俺の心に敗北感が押し寄せてくるものの、それもそうだと自分に語り掛けて納得させた。

 最初からこの場には彩だけで良かったのだ。そう思えば、此処でも自分は完全に要らぬものであると再認識させる事が出来る。

 安易に口にすれば全員から否定されるだろうが、現実的に考えて今の俺は不要そのものだ。

 だから出来るとすれば、相手の注文通りの物が出来ているかを客観的に見るしかない。それもまた俺には必要の無い仕事であるが、何もせずに此処で立ち尽くす訳にはいかないだろう。


「んじゃ、早速やりますかね」

 

「取り敢えず一丁分をやってみます。 デザイン等は特に考えなくても良いでしょう?」


「まぁ、基本的にこれとそっくりで良いと思うけどな。 試しに一丁作ってみよう」


 完成品と分ける為に何故か空になっている箱を持ってくる。

 本来であれば全ての木箱に入っていると思うのだが、空の箱がある時点で少々ばかり闇を感じてしまう。

 死んだデウスが持っていたか、良い方に見ても巡回用に大量に持ち出しているか。俺としては後者を願うばかりだ。

 早速手にした彩はそのまま武器を内部に収める。

 俺達にその変化を確かめる事は出来ない。9Sは何処かへと連絡を取っているのか、今この武器庫に居るのは俺だけだ。

 流石に無防備が過ぎる。俺達が何もしないと信用しているのであれば、それは立場上看過すべきではないだろう。

 俺自身何かをしようとまでは考えていないものの、一応人を立てるべきだ。この場合は9Sに任せるべきであり、もしかすれば別の方法で監視しているのかもしれない。

 

 けれども、そうだとしても誰かが見ていると思わせるのは重要だ。

 彩のその特性上、誰かに見られたとしてもその情報の核となる部分は観測出来ないのだから。

 これはワシズとシミズが見ても一緒だ。現に二人は彩が武器を変化させていく過程を見ている筈なのに、その顔に理解の色が浮かばない。

 一切が不明であると言わんばかりに眉を寄せている様を見ていると、デウスの性能をもってしても彩の特性を解析するのは不可能であるのだ。

 結局五分が経過し、彩が内部から銃を取り出すまで俺達は待つことになった。

 取り出された銃の見た目はまったく変わらず、改造をしているとはとても見えない。


「要望通りの物を作りました。――加えて、私達にとっての安全装置も付いてます」


「私達にとって?」


「ええ。 これをこのまま自由に使えるようにするのは流石に問題なので」


 私達にとって。

 それはつまり俺達にとっての安全装置であるということ。他に対してはその機能は安全装置として動かず、考えられるとすれば俺達に銃が向かないといったものだろうか。

 俺の疑問混じりの目に、彩は微笑むだけ。話すつもりがないというのは、単に俺を驚かせたいからか。

 或いは話してしまう事そのものが不味いのか。――――彼女であれば前者であると思った方が良いだろう。

 今回の案件はあまりにも急であるし、世間に普及されれば俺達にとっても非常に不味い。その対策を講じるのは当然とも言えるし、逆に何もしないのは馬鹿を見るだけだ。

 その直後に9Sが入って来る。どうやら話が終わったみたいで、早速彩が完成した銃を渡してきた。


「もう出来たんですか!? 速いですね」


「変化そのものは私にとって然程難しい問題ではないですからね。 後はそっちが納得するかどうかでしょう」


「では早速、試し撃ちをしてきます! 紙面通りであれば海に撃った方が良いですかね?」


「ええ、一応指揮官にも見せた方が良いでしょう。 そっちの方が手っ取り早く修正案も出てくるでしょうし」


「了解です! では此処に別の者を呼んでおくので、試射が終了するまでは待っていてください」


 9Sは完成した装備に目を輝かせ、何処かへと連絡を飛ばしてから全速力で指揮官の居るテントへと向かった。

 代わりのデウスは直ぐに来てくれたものの、そちらの視線は何処か冷ややかだ。歓迎している素振りを見せず、あくまで俺達の事を監視の対象として定めているのだろう。

 そう見られてしまうのも既に慣れた。今更どんな風に見られても、我を貫く事を忘れなければ良い。

 試射も直ぐに終わるだろう。あちらは直ぐにでも戦力が欲しいところだろうから、満足してくれれば一気に量産せよと命じてくるのは解り切っていた。

 彼女が失敗をするとは考えてはいない。感情的な部分は兎も角として、能力的な部分は最上位だ。

 ――――だから突然、テントの外から轟音が聞こえたとしても俺の心に波風は立たなかった。周りのデウス達は騒然となったが、それが彩の武器によるものであるのは明々白々。


「どんだけ性能を引き上げたんだ?」


「対象が対象ですから。 確実に相手を削り取る程度の能力を付与させました。 希望通りです」


「お前のことだからそれ以上も考えているんだろ? 北海道の占拠はまだまだ長いだろうからな」


「ええ――これからも彼等には頑張ってもらわなければなりません」


 他人事のような口調に、俺は苦笑する。

 彼女にも関わりのある対象が対象だけに無視は出来ない筈だが、そんな事は彼女にとってどうでも良いのだ。

 結果は出した。ならば問題あるまい。

 そう言わんばかりの態度は、他のデウスから見れば厄介者として見られてしまうかもしれない。しかしそれすら、彼女の感情を揺さぶる事は無い。

 徹頭徹尾、己を貫く。正に今の彼女は止まらず、俺以外の全てを滅却する事も是と定める存在だ。

 だからこそ、テントに飛び込んできた9Sの表情を見ても一切揺るぐ気配が無い。


「あ、あの! これ本当にあのアサルトライフルなんですか!!」


「ええ、そうですが?」


「凄いですよッ、一発で海に居るサメが消し飛びました!! 普段なら何十発も撃ち込まないと倒せないのに……」


「今回の敵が敵ですからね。 相応の物を用意しなければ犬死にするだけですよ」


「ええ。 これなら、何とかなりそうです!」


 輝く笑みを見せる9Sはその少年らしい体格と合わさって非常に子供のような印象を受ける。

 勝てるぞと何度も呟く様子に、一先ず要望はこれで大丈夫だろうと早速彩に量産開始を告げた。後に司令官が様子を見てくる事があったが、それ以外は常に俺達は9Sと一緒に武器庫の中で過ごす事になる。

 武器庫の中で眠るのは俺只一人。食料は軍の支給品を分けてもらい、千にも及ぶ武器の量産が始まった。


「そういや、この武器の名前はどうする?」


「変更しなくとも良いと思いますが……」


「いやいや、一応これは表向きは新兵器だ。 違う名前じゃないと皆混乱するぞ」


「ですが、見た目は殆ど変化していません。 付けるにしても精々改と付けるくらいかと」

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