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人形狂想曲  作者: オーメル


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第十五話 凍結兵器

 予想に反して破壊されたドームの内部は綺麗なままだった。

 破壊されたのは特定の箇所だけで、全体的に見れば住める程には設備は充実しているままだ。

 電気が来ていないので自動ドアを発見した場合は彼女に破壊してもらっているが、その内部も今の一般人では高級な部類に入る居住スペースとなっている。

 試しにとベッドに座ってみれば、予想以上の快適さだ。このまま持っていきたい程の質の良さに思わず嫉妬してしまうも、直ぐに目的を思い出してハイエナ活動に精を出す。

 暫くの間調べた結果として、やはりこの破壊活動は突然の事態だったのではないかという予想が俺達の間に立った。

 根拠の一つとしては残された資料があまりにも多くあり、その情報の殆どが軍関係のモノであったということ。

 デウス関連の研究資料、人体実験の報告書、どれもこれも気分の良いモノではない。

 彼女曰く研究に関してはデウスを製造する研究機関のみしか許されておらず、本来であればこういった資料が存在すること自体が有り得ないモノだそうだ。

 その時点でこの施設が違法に触れているのは確か。加えて人体実験の報告書もあった事により、この施設自体がますます黒である事実が確定された。

 

「マップデータも入手しました。やはりこの施設は軍関係のもののようですね。デウスそのものの構造を理解する為にこの立地に建設されたようです。表向きの理由としては避難施設の一つにされています」


「そうか。……でも避難施設にしては面積の大部分が研究エリアだな?」


「はい。お察しの通りということでしょう」


 互いに頷き、歩を進める。

 道中の最中には争った形跡も見え、死体もあった。しかし死体を見るのはこれが初めてという訳でもない。

 それこそ五年前であれば死体の山なんて現象も多く発生していた。その頃は腐敗臭も当たり前だったもので、隣人が死体なんて出来事も普通にあったものだ。

 その死体は武装し、腰には拳銃が一つ差さっている。試しに引き抜いて彼女に状態を確かめてもらったが、どうやら殆ど使われた痕は無いようだ。

 護身用として使う分には十分だろう。一応残りのマガジンも回収し、ズボンのポケットに数本突っ込んでおく。

 いきなりは使えないだろうが、それでもやらねばならない場面も出てくるだろう。出来れば此処では使わず、彼女に少々手解きをしてもらってからの方が良い。

 

 そのまま更に奥に進む。居住スペースには食料らしい食料は無く、マップを見る限りでは保存食が倉庫に入っているらしい。その倉庫も外にある訳では無く、研究エリアの直ぐ横だ。

 周辺には隔壁が設けられており、最悪の場合は籠城戦を行うつもりだったというのが伝わってきた。

 しかしそれも使われた形跡は無く、この施設を破壊した者は事前に此処に潜入していたのではないかと二人で予想を話し合う。

 正義の味方と考えるにはこの時勢では少々難しい。可能性としては何らかの情報が欲しくて潜入し、不必要になったから自身の情報隠蔽を兼ねて纏めて破壊したといった感じだろうか。

 

  それにしては死体の数が尋常ではない。進めば進む程に死体の数が増え、同時に持っている装備も重々しくなっている。最後は彼女曰くデウス用の専用ARにバズーカやピンの抜かれていない手榴弾が転がっていたのだから、最早この施設を破壊してでも殺すつもりだったのだろう。

 恐ろしきは相手だ。そんな殺意満載の装備をしている者達を殺しているのだから、並の存在ではあるまい。

 最大でデウスに届きうる存在かもしれないと戦々恐々とした思いを抱きつつ、先ず最初にと研究エリア横の食糧庫に辿り着く。

 本来ならば固く施錠されている筈の扉はしかし、異常な程強引に開かれている。

 取っ手の部分が折れているのだ。鍵が掛かっている事など一切無視して破壊してでも開ける姿勢は最早同じ人間のしている事だとは思えない。

 そして内部であるが、倉庫の四分一が無くなっていた。この状況で兵士が持っていったとは考え難く、恐らくは破壊した者が持っていったのだろう。


「相手はデウスだったのか?」


「可能性としてはあります。そういった違反行為を働く者に対して秘密裏に処理する部隊も存在はしますので」


「……そういった処理は同じ人間にやらせろよ」


 思わず悪態を吐く。

 どんどん俺の中のデウスの生活イメージが変化していくのを感じながら食料の一部を頂き、今度は研究エリアに足を踏み込んだ。

 最初に見えたのはやはり設備群。何に使うのかも定かではない機械類が並び、照明の数も想像以上に少ない。その所為で全体的に薄暗い印象を覚えるのだが、レベル五以上の権限を持たない者の入室を禁止するという文字が入ったプレートが付けられた扉を発見した段階でそんな感想は吹き飛んだ。

 レベル五以上という権限に何処までの重要性があるかは定かではなくとも、入室制限を設けられている段階で普通の内容ではあるまい。

 それに此処は誰かが開けた形跡が存在しなかった。つまり破壊活動をした者達がまったく興味を示さなかった部屋である。

 何があるかは不明にせよ、警戒はしておくべきだろう。彼女の下がってくださいという指示に大人しく従い、十数歩の距離を空けた。

 

 電気は此処も通ってはいない。大概重要な設備がある場所は自家発電が可能な別電源を有しているものだが、この扉も何の反応も示さないままだ。

 それ故に彼女によって無理矢理扉を開けられる訳だが、今度の部屋は普通ではない。

 もしもに備えてさっき拾ったばかりの銃を両手で構える。当たるとはまったく思っていなくとも、そうするだけ安心感は違うものだ。

 金属の潰れる嫌な音を聞きながら、精神は集中を続ける。可能な限りの早撃ちを目指して、手には汗すら浮かんでいた。

 徐々に徐々にと開いた部屋の中は果たして、予想に反してセキュリティの反応は何も無かった。

 俺が工場で仕事をしていた際に見掛けた警備ロボットの影も無く、あるのは五つのポットだけだ。その内の二カ所は既に開かれ、中には何も無い。

 

「なんだこれ……」


「恐らくはデウスの製造用ポッドです。しかしどうして此処に……。本来ならば研究機関のみしかない筈です」


「再現したって事か?……ということは中には」


 唾を飲み込む。確かに資料の中にはデウスの構造についてが最も多かった。

 人体実験云々もあるにはあったが、それでも割合的にはデウス関連の方が遥かに上だ。それに人体実験に関してはまったくデウスとは関連性は認められなかった。

 しかし、それらが繋がっていたとしたらどうだろうか。デウスの製造に必要なのは機械パーツに生体パーツ。

 研究機関曰く生体パーツは培養によって新たに造られる物であり、他所から持ってきた物ではない。――ならば培養のノウハウの無い組織が他所から持ってきたとしても不思議は無い。

 足りない分は既に出来上がっている所から持ってくる。その方法に、俺は心底背筋が冷えた。

 残念ながら電源設備は生きていない。生きていれば彼女がデータを漁れたのだろうが、それをするには時間が無い。

 だからこそ、今この瞬間に有り得るかもしれないもしもはまだIFだ。


「状態を確認しましたところ……やはり製造用ポッドに似ています。そして三つの内二つからは生体反応があります」


 静かな彼女の言葉は少しばかりの震えを伴っていた。

 俺と同じ結論に辿り着いたのか、あるいは全く別の想像に辿り着いたのか。どちらにしても、並ぶポッドの内の二人は生きているのだ(・・・・・・・)

 誕生したばかりの赤子に罪は無いように、目の前で今も生きている子に罪は無い。

 だがそれでも、違法的な手段によって生み出されたこの子達は軍によって処理されてしまうのだろう。彼女との接触によって悪い意味で軍を知ったからこそ、容易に結論を弾き出せてしまった。

 そして一度知ってしまったからには、もう無視は出来ない。


「無茶を承知でお願いしても良いか」


「――大丈夫です。解っていますよ」


 俺は役立たずだ。戦力的な面でも、知略の面でも、まったく彼女に貢献出来ていない。

 それなのに更なる注文をしようとしている。しかも彼女は絶対に断らないだろうと解った上でだ。

 これを最低と言わずして何とする。余計な重荷を増やすだけで、彼女には何のメリットもありはしない。……それでもやはり、彼女は静かに月のように微笑むのだ。

 有難うと、心の底からの感謝を伝えてもまだ足りない。対価として差し出せる何かを思いつかず、そんな俺を彼女は静かに見つめていた。


「貴方は困っていたら助けるタイプの人です。なら、こうなっても不思議ではありません。寧ろ、そうなってくれて良かったと思っています。私を助けてくれた人(・・・・・・・・・)は、間違いなく素晴らしい方だと胸を張れますから」


 言葉の一つ一つが、どうしようもなく優しさに溢れている。

 悪意の一つも無く、彼女は今正に守護者として活動出来ているのだと俺に語ってくれた。それがただただ嬉しく、気付けば無意識の内に彼女の右腕を両手で握り締めていた。

 

「本当に、有難う」

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