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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百三十一話 帰還

 彩の尽力のお蔭で最終的な被害は当初に比べればマシになった。

 だが、マシになったというだけで決して軽い被害訳だった訳では無い。三百人の死者が生まれ、その倍以上の負傷者が各地の病院へと運ばれた。

 即座の発表のお蔭でデモの勢いも一気に沈静化されているものの、それでも未だ種火は残り続けている。

 この件はまだまだ始まりに過ぎない。この一件を契機にマキナは更なる結果を求めて行動を起こすだろうし、その度に被害は起こり続ける。

 未だ相手の拠点が判明していない以上は此方が後手になるのは確定だ。軍がどれだけ対策を練ろうにも、その組織の内部に敵が居れば相手に対策されてしまう。

 被害は結局起きるのだ。そうならないように動くには、最早街一つに大規模な警察機構が必要だろう。

 

 そして、日本にそれを設置するだけの余裕は無い。

 今回の被害も今の日本には決して無視出来ないものであり、伊藤指揮官を含めて実際に戦った者達は本部への出頭を既に命じられている。

 十席同盟もその点は一緒だ。PM9もZ44も各々の指揮官と共に出頭するので、岐阜基地では既に準備に追われていた。具体的に言えば提出用の書類に、戦場で入手した無数の画像や動画ファイルの選別である。

 今回の戦闘の規模が規模だけに量も尋常ではない。可能な限り戦闘に参加したデウス達にも協力してもらい、今日の午後には終了する予定となっている。

 そんな中で、無事に帰還した彩達を含んだデウス達はメンテナンスを行った。


 被害が大きければ修理に入り、微細であれば一先ずはそのまま。それを行うのは人間であり、追加で発生した大仕事に技術部の者達は盛大な悲鳴を上げたらしい。

 被害の大きさに合わせて修理の優先度は変わり、ワシズやシミズの被害はそこまで深刻なものではないそうだ。

 それ故に修理の順番も後になってしまい、今は俺達の部屋の中で全員が集まっている。

 四人が集まった現在の状況は、控え目に言って奇跡的だ。目を閉じて沈黙のまま直立している彩のお蔭で危機を脱し、その後の攻勢も非常にスムーズに進んだのである。

 捕獲された者達は今もなお尋問室であり、マキナに関する情報を提供してもらっていた。未だ有力な情報が無いものの、彩が一人程隊長クラスを捕まえている。

 そこから情報を入手出来れば、俺達にとっての突破口も生まれるだろう。


「で、彩。あれは結局なんだったんだ」


 様々な処理がされている中で、俺は邪魔にならない位置で待機する事しか出来なかった。

 そもそも俺はただの客人扱いなので仕事をさせられないというのもあり、彩達が無事に帰還するまでは自室で待機することになったのだ。

 故に、明確に突っ込んだ会話を行うのはこれが初めて。

 彩のあの現象は普通のものではない。それに、複数のデウス達が彼女の姿を見ていた。

 一般のデウスでは人間の命令には逆らえない。だから必然的に彼女のあの状態が軍に広まるのも明白であり、その方法について調べようとするのもまた自然な流れである。

 そうなる前に対策を考えたいのだが、技術的な面で言えばさっぱりの俺が出来る対策なんてたかが知れている。

 先ずは身内での情報の共有だ。その後に信頼出来る誰かが居れば相談するくらいだろう。


「あれはどうやら全デウスに最初から搭載されていた隠し機能です。特定の条件下でのみ発動する、デウスが真の意味でデウスとして活動した状態があれです」


「真の意味でデウスとして活動した状態……。それは一体どうやって見つけたんだ?」


「見つけたのではありません。機能の方が勝手にやってきたんです」


 彩の言葉に首を傾げ、そんな俺の様子を見た彼女が詳しい説明を開始する。

 その内容はにわかには信じ難く、しかして開発者であれば出来るだろうと納得も出来る話だ。

 デウスと人間が互いが互いに愛を持ち、その水準が一定を超えれば発動する機能。彩と俺が各々明確に愛を向け合い、意図しない協力によって動き出した歯車はあの時の彼女を構成したのだ。

 

「機能の詳細は、私の場合は炎と追加武装です。内部メモリに入っていた全ての武器や防具のデータを溶かして別の何かを作り上げる。炎は私が燃やすべきだと決めた対象を消滅するまで燃やす特性を持っています。その過程で、あらゆる法則は無視されます」


「……反則級だな、それ。一体どうやったらそんな事が出来るんだよ」


 パワードスーツが彩の熱線によって燃え尽きたのは彼女が対象として捉えたから。

 つまるところ、彼女が燃えろと思って攻撃すれば防御を無視して対象は燃え尽きるのだ。それは掠っただけでも命中するものであり、相手に防御の選択をさせない。

 回避を強制させる彩の特性は極めて強いものだ。しかも人間による操作を受け付けないのだから、彼女は名実共に災害として名乗れるだろう。

 

「ちなみになんだが、それを外部から人為的に起こす事は出来るのか?」


「出来る事は出来ると思います。全員が全員、持っている機能でしょうから。ブラックボックスの内部情報を未だに解析出来ていない以上は解除するのも不可能でしょう。――しかし、そのまま無理に開放しようとしてもデウスが耐え切れないでしょうが」


 確かに、あれ以降から彼女が速過ぎて視覚情報が上手く拾えなかった。

 戦闘中は手早く終わらせる為に彼女が全力だったのは俺には解っている。解っていて、それでもあの場で更に彼女は加速していた。

 限界を超えた稼働を行えば骨格や内部パーツに莫大な負荷を与えてしまう。そうなれば今此処に彩は居ないだろう。

 今頃はオーバーホール中になっていて、復活するのは随分先の話になっている筈だ。

 けれども、今の彩に負荷が掛かっている様子は無い。内部のスキャン結果は極めて良好を維持し、修理を行った時以上の結果を叩き出していた。

 驚きなのはその大分部に既存のパーツが使われていないことだ。全てのパーツ名がどの型番とも一致しない独自の物へと変化しており、ブラックボックスから吐き出される燃料も以前と比べて増している。


 彼女は最初に会った時と同じ姿をしている。

 けれども、それは姿形だけだ。内部は全て最初の頃から変わっており、それは最早別人とも言える状態である。

 彼女の記憶が無ければ正しく別人として認識しなければならないだろう。そういった意味では今俺は見た目だけ初対面の相手と話していると言っても過言ではない。

 当の本人はまるでそんな事を考えてないのだろうが、この辺は生物だからこそだ。

 記憶保持が出来ない生物では彩のような感性を抱けない。もしも生物が彩と似たような状況になった時、記憶を維持出来たかどうかは難しいだろう。


「しかし、今回はあの博士に感謝だな。あんな機能を隠しておいてくれなければ彩が死んでたよ」


「その点に関しては同感です。相手の超能力者が想定以上に凶悪に過ぎました。油断はしていないつもりだったのですが、どこかで慢心があったかもしれません」


「あんなの人間なら対応不可能だ。こう言っては何だが、彩がデウスで良かったと思うよ」


「只野さん……」


 相手は極めて厄介な力を持っていた。彩や他のデウスでなければ即死していた可能性は否めない。

 例え生きていたとしても、人間は満足に行動は出来ないのは確実だ。そのまま急所を撃ち抜かれて終わりである。

 本当に彩で良かったと、思わず溜息を吐いた。

 そんな俺の傍に彩が一歩近付き、そっと顔を寄せてくる。そのまま目を閉じて、僅かに唇突き出した。

 

「……あの、唐突にピンクな顔になってほしくないんですけど」


 そんな彩の雰囲気に、ワシズが静かにツッコミを入れるのだった。

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