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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百二十五話 前哨戦

 火の海から現れる鉄の塊。

 火災による温度上昇を透過によって防ぐ事で無傷で出現し、マシンガンの矛先は既に彩に向いている。

 燃え上がる火災現場は事故として極めて甚大な被害を周囲に発生するだろう。そんな真似をしたのがデウスである時点で市民の好感度は下がるが、それよりも更に酷い被害を起こす存在が健在のままだ。

 そして、出てくる対象はそのパワードスーツ二台だけではない。物陰から隠れていた者達が姿を現し、彩達の背後にもその姿はあった。

 数にしては多くはない。十数人の人間が武器を構えて彩達を注視する様は先程まで簡単に倒されていた私服の者達とは違い、デウスという存在を正確に知っている者達だ。

 着込んでいるチョッキにはデウスが普段用いている装甲板が内臓され、使用する銃器の類は完全なオリジナル。

 

 既存の物を幾つか重ねたような見た目の銃は一般に採用されている武器とは違い、その性能は軍で用いられる物よりも威力は遥かに向上している。

 それでもデウス用の装備に比べれば弱いものの、対人間であれば殺傷力は過剰な域だ。使うとすれば小型の怪物の討伐や逃げるデウスの時間稼ぎくらいなものだろう。

 破壊をするには足りない。けれども、相手にとってはそれくらいで丁度良いのだ。

 命の危機はあっても彼等はデウスを回収する仕事もある。それを行う為にも、態々破壊するのは避けた。

 全てが全て欲しい訳では無い。多過ぎても管理に困るだけであるし、予め数には指定が入っている。

 

 その頭上を今も閃光が輝いている。

 未だ陽が出ている中ではその光は発見され難く感じるかもしれないが、これは別に光によって味方に知らせるものではない。彩がそれを選択したのは熱であり、突如として熱源が発生すればデウスであれば誰でも気付く。

 現に既にPM9は気付いている。最速で現場に向かい、五分と掛からずに到着するだろう。

 その間に相手が動かない訳ではないだろうが、その後の行動は彩達の判断次第。生存を優先するのであれば会話等をして味方が到着するのを待つのが基本となるものの、それを相手が待つ道理は無い。


「貴様、例のデウスだな」


「ほう。知っている者が居るのか」


「無論。貴様と只野・信次は既にリストに載っている。排除しようと思っていたが、まさかこんな場所で出会うとはな」


 群れの中で唯一黒いフルフェイスのマスクを着け、目を同色のゴーグルで隠した男が一歩前に出る。

 彼の発した言葉は彩の耳を通って岐阜基地にも伝えられ、只野もまた彼等の一挙手一投足に目を離せない。

 

「あんな代物がマキナだとは思えんが、まさか金でも尽きたか?」


「貴様に教える必要は無い。お前は今此処で我々の目的の為の礎になれ」


 手を挙げた男に合わせ、全員が構える。

 三人の内の誰でも構わない。出来るならば彩を集中的に狙ってほしいが、少なくとも彼女も彼女の部下も一筋縄ではいかないだろうとマスクの男は思考している。

 男は手を下げ、同時に更地となっている場所に無数の銃撃音が鳴り響く。

 その中にはパワードスーツの物も含まれ、人間の持っている武器よりも凶悪な兵器が見た目は少女達に降り注ぐのだ。

 その絵面は悲惨に過ぎる。無慈悲に潰されるのは彼女達の方だと、何も知らない民衆は思うだろう。


「……ッ、散開!」


 彩の言葉に全員がその場から一斉に跳ねる。

 三方向に別れ、完全に一人になった彼女達は各々の装備を即座に敵に向かって引き金を押す。

 これまでの戦いにより、相手が透過するのはパワードスーツだけだ。人間には用いることをせず、そうなっているのは何らかの制限が掛かっているからだろう。

 何事においても万能は無い。何かに秀でているのなら、その分足りない部分がある。

 放った攻撃は正確に対象の首を打ち抜き、その場で倒れた。吹き出す血は本物にしか見えず、他に超能力者が居るとも思えない。

 であれば、攻略そのものは容易。ワシズは次への目標に照準を合わせ――――


「未熟」


「うっそぉ!?」


 ワシズの探知内で突然一人分の物体が移動した。

 移動先はワシズの背後。即座に回避を脳は選択するものの、既に背後に移動していた敵は目標に銃を合わせている。

 後は引き金を引くだけ。ワシズではワンテンポ遅れるのは確実であり、このままであればワシズに無視出来ない傷を付けることになる。

 そうなった状況を冷静に見ていた彩は敵に向けていた照準を止め、ワシズの背後に合わせた。

 発射された銃弾は一直線に背後を取った男に迫り、しかし命中することは無い。直前に男が頭を僅かに傾けた事で掠める結果に終わり、男はワシズの影に潜った。

 

「潜れるのって一人だけじゃないの! 複数人も居るとか反則だ!!」


「戦場に卑怯も何も無いだろう」


 土を蹴り、パワードスーツの攻撃を避けながら文句を叫ぶワシズに男は淡々と言葉を告げる。

 戦いの場において卑怯など何の意味も無い。勝てば官軍負ければ賊軍であるのは今も昔も変わらず、特に簡単に人体実験を行うような者達であれば外道な手段など幾らでも取るだろう。

 それを示すように、明らかに何の防備もしていない者達が居る場でワシズに狙いを定めている覆面の男は手榴弾のようなものを地面に叩きつける。

 楕円形の物体の上下から白いガスが流れ始め、その範囲はグラウンドの一部を容易に埋め尽くした。

 彩達はその成分を急いで解析。爆発物でも無く、ましてや只のスモークではないと考えた上での結果は解析不能(・・・・)の四文字。

 既存の如何なる成分とも合致せず、つまるところ世界で初めて精製された物質であるとデータベースは突き付けていた。


『また意味の解らぬものを……!』


『ワシズ、退避』


『解ってるって!』


 攻撃をしながら彩は怒りの眼差しで敵を撃ち抜く。

 パワードスーツだけでも不安の種を抱えているというのに、更に追加で誰も知らない物質が出現した。

 これに対応する時間は現時点ではない。加え、厄介な事に彩達が放つ銃弾を敵は避けている。余裕を持っての回避ではないが、足に装着しているプロテクターが電気を発した直後に一瞬だけ相手の動きが速くなった。

 その動作を短時間に複数回行う事で照準のブレを起こさせ、結果的に狙って撃とうとも直撃の寸前に避けられる可能性が非常に高い。

 ならばと碌に狙いも付けずにばら撒く形で乱射するものの、今度は銃弾の間を縫うような回避を見せる。

 ここまでくれば最早人間技ではない。銃弾が見え、尚且つ回避も可能にするなど人間では成し得ないのだから。

 改造されている。即座に行き着いた結論に、全員が眉を寄せた。


 その直後、無数に敵が居る場所で爆発が起きる。

 突然の視認外からの攻撃に数人が負傷するものの、全体で見れば僅か。それに負傷した者達もまるで痛がる素振りも見せずに立ち上がっている。

 腕に無数の金属片が刺さっているにも関わらずに冷静に立ち上がる様は、さながらデウスのようであった。


『彩!全員到着したんだが、あの相手は何だ!!』


『恐らくだが改造されている。それもかなりの部分をだ。直接急所を狙わない限り此方を攻撃し続けると思っておけ』


『マジかよ!これじゃあ捕獲は無理だな!!』


 通信内で大声をあげながら上空からPM9達が強襲を行う。

 周辺には背の高い建物が無数にある。そこからパラシュートも無しに落下し、手榴弾をお見舞いしたということだ。

 追加された味方の数は総勢で十人。これで十三名が総戦力となったものの、不安要素は依然として残ったまま。

 相手の数は最初の一人以降変わらない。負傷している相手を優先して狙えば数は減らせるだろうが、そうするにしても先ず当てなければならないという問題が付いて回る。

 戦いは始まったばかり。激しい戦闘が続く中で、パワードスーツは不穏な駆動音を鳴らし続けていた。

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