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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百二十三話 常識の裏

 撃ち込まれた弾丸が一発も逃す事無く目標に向かっていく。

 命中する筈のその弾丸は、しかし硬い装甲に吸い込まれ消えていった。さながらそれは水面の如く。

 揺れる陽炎を身に纏った鉄塊は、自身に浴びせられた数々の攻撃を悉く無視した。堂々たる立ち姿は敵に対して無駄だと伝えているようで、けれども今この物体に攻撃を仕掛ける面々は他とは違う。

 物体の足元に無数の手榴弾が投げ込まれる。直後発生した爆音は人間を容易く十数人は殺し切る程で、それでも投げ込んだ張本人達は一切油断しない。

 まだまだ、こんな程度で終わる筈が無い。そう断じる面々に証明するように、充満する煙を撃ち抜くように二門のガトリングが火を吹いた。

 人の視力では認識出来ない破壊の嵐。デウスでさえもそれが専用の弾であれば耐え切るのは不可能だ。


「離れろ!」


 デウス――PM9は砲門が向いているデウスに向かって叫ぶ。

 他よりも多少は性能が良い事。そして経験によって最初の数発を認識したPM9はそれが向いている先に声を掛け、全員で距離を取った。

 薙ぎ払うように撃たれた弾は一定の高さを守った機械的な攻撃であり、故に跳ねるだけでも回避は可能だ。

 背後の建築物や自動車といった物体は軒並み破壊され、酷いものは微塵となって使い物にならない。持ち主にとっては悪夢のような光景であるが、それでも命があるだけ有難いだろう。

 煙が晴れた先には無傷の姿。装甲には僅かながらに歪みがあるものの、それは最初から付いていた傷だ。

 つまりは実質的な損害は皆無。爆発による攻撃も、普通の攻撃も有効打にはなり得ない。

 

「あー、クソ。やっぱまともな方法じゃぶっ壊せないか」


 頬に付いた煤もそのままに、眼光鋭く今も稼働を続けるパワードスーツを見る。

 動きは鈍る様子は無い。原動力は未だ不明であり、しかし長時間動き続けてまったく衰えない時点でデウスと同様に無尽蔵に近いと考える方が利口だ。

 相手側の攻撃が続く度、全員が別々の場所へと回避を続けていく。

 その間にも解析を進めているものの、そのパワードスーツをどれだけ調べても既存の物と変化は見られない。

 装甲の成分分析もデウスに用いている装甲と同じだ。その技術は軍のみである筈だが、マキナが絡んでいる以上は流用されていても不思議ではない。

 PM9は通信を吉崎指揮官に繋げる。

 数人のデウスには攻撃を仕掛けるように命令し、彼女だけは現場を上から見ながら言葉を交わした。


「おいッ、もう少し強力な武器とかねぇか!この際周辺を全部蒸発させても良い!!」


『無茶言うな。それをするには上からの許可が必要だ。迂闊には使えねぇし、何よりも相手に通用するとは思えん。……既存の兵器を全て貫通するとは思わんが、少なくともこの場に居る者達の武器じゃ貫通するだけだな』


「なら飽和攻撃だ。どんな手段で自分を透過させているのかは解らんが、一秒でも奴が居る場所を埋め尽くすくらいの弾を撃ち込んでやるッ」


『そうしたいのは山々だが、どうやら向こうもかなり解っているみたいだぜ。このままじゃそっちに戦力を回すのはかなり厳しいな』


 PM9に吉崎指揮官は橋頭堡となった現場で発生している異常事態をリアルタイム映像で送る。

 そこには物理的に影に沈む男の姿が有り、その人物が人間を一人一人殺していた。明らかに尋常ではない現場に、PM9は即座に相手が当初の想定にあった超能力者であると見抜く。

 映像の中に居る男はかなり超能力を鍛えたのだろう。縦横無尽に影を行き来する様は初めてとは思えず、即ちずっと前からこの日に備えて鍛えていたのだ。

 そして、その姿を見てPM9の目はパワードスーツに向く。

 相手は決して鉄塊である訳では無い。中には脳味噌が存在し、高速で処理を可能にしている。

 

 その速度はデウスに匹敵する程であり、ただの機械では柔軟に学習していくのは不可能だ。 

 フィードバックをリアルタイムに行い、対応策を考える。今はガトリングをばら撒くだけであるが、これからは攻撃以外の行動も行うだろう。

 使っているのは人の脳。であれば、そこまで考えて敵の砲門がPM9に向く。

 速度はこれまで以上。通信を行うPM9から何か厄介な事が起きると思考したのか、他に攻撃する者達を全て捨て置いて彼女にだけ武器を向けた。

 

「……ッ、最初から解ってれば!」


 弾丸が彼女に叩き込まれる前にその場から即座に移動する。

 建物から建物へ。軽業師のように軽快に移動し、攻撃はそんな彼女の後ろを追いかけるだけ。

 未だ偏差を行うまでには至っていないのだろう。であれば、付け入るチャンスは残されている。特に一度気付けばなんて事はないのだ。

 PM9が集中砲火をされている所為で満足に会話をするのは難しい。

 デウス達は攻撃をするものの、その全ては透過されて無効化されている。ならばと視覚を遮る為にECMとスモークグレネードを投げるが、まるで気にせず攻撃が止む気配が無い。

 

「隊長!この範囲からの離脱を!」


「悪い!一分耐えてくれ!!」


 相手が完全に対応される前に、此方が逆に対応する。

 まともに攻撃が通用しない以上はそうするより他に無い。まだデウスの脚力なら逃げ切れるのだから、最善を選んだ行動をするべきである。

 追い掛ける銃弾を背にPM9は屋上から屋上へと逃走を開始。その直後にパワードスーツはゆっくりと行動を開始するものの、明らかにPM9が離脱する方が速い。

 僅かに数秒。それだけの時間で逃げ切れる辺り完璧でも何でもないと解る。

 

「――彩、私だ。聞こえているか」


『何だ、こっちは今二台くらいに追われている真っ最中だが』


「相手が此方の攻撃を透過させる理由が恐らくだが解った」


『超能力者だろ?橋頭堡で起きている戦闘を見せられて考えついたよ』


「気付いたのは同タイミングか」


 彩はワシズとシミズを引き連れ、既に別地点でパワードスーツとの交戦を開始していた。

 現在は歩兵の存在は見当たらず、居るのはパワードスーツが三台。双方共に能力は均一であり、完全に量産品のような性能を見せるのみだ。

 最初の攻撃でそれに気付いた三人は移動しながら検証を重ね、伊藤指揮官から送られたリアルタイム映像でそれに行きついた。

 今回の一件はこれまで通りのものではない。人間対人間の構図は総じて軍が必ず勝ってきたが、それはまだ常識の範囲内だったからだ。

 超能力者による軍への反逆は管理を怠らなかった結果としてまったく起こらず、これまでも優遇していたお蔭で未だに好印象を維持している者も多い。


 例え反逆されようとも、超能力者の能力内容は全て軍に記録されている。

 対処可能な範囲の者ばかりであったのでこれまでは特に問題視されていなかったが、それが今回は大問題に繋がってしまったのである。

 相手は超能力者。それは事実だろう。

 だが、相手は。まともな状態(・・・・・・)の超能力ではない(・・・・・・・・)

 

『最初に可能性を示唆したのはシミズだがな』


「へぇ、そいつは優秀だな」


『あの人が助けたデウスだ。普通の基準以上でなければ私が認めんよ。――と、少々ズレた』


「ああ。……今回の相手は超能力者と見て間違いない。正確には脳味噌、だがな」


 超能力者を複数人用意するのは難しい。

 ならば、複数に影響を及ぼす超能力者を用意すれば良いのだ。透過を担当する者と、拡散を担当する者。

 二人居て、その上で街全体にまで広がるシステムを構築すれば十分に影響を与える事が出来る。


『確認されたパワードスーツは今の所四。であれば残り二台か、最低でも一台』


「一番離れている場所で、かつ私達が探していない場所を探るべきだ。そこに他の歩兵も集まっているだろうよ」


 種を明かせば何て事は無い。

 固定観念を崩して考えればそうなっても不思議ではなく、二人は即座に全部隊と基地に文面だけのデータを送り付けた。

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