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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百十六話 戦火に向けて

 話すべき内容の全て。それをそのまま吐き出した只野は、静かに二人の反応を待つ。

 ワシズもシミズも彼と彩の最初の接触を知ったのはこれが初だ。只野の仕事が思っていたよりも一般的なものであった事と、彩との出会い方が酷く普通のものではなかった事を知り、頭にはついつい別の可能性を考えてしまう。

 只野が彩に対して優先的に愛を注いでいるのはこの基地内において周知の事実である。当人が否定したとしても、彼等の距離は一般的な範囲よりも遥かに狭い。

 何時でもキスを出来る距離と言えばロマンチックなものであり、同時に周囲のデウスの嫉妬心を煽る事も出来てしまう距離だ。

 デウスによっては彩に向ける感情の類が決して良いものではなくなるのも自然だろう。


 そうならなかったのはデウスそのものの憧れが勝っているのと、彩がこれまで残した実績があったればこそ。

 これがもしも何の成果も出していないワシズやシミズであれば、表では肯定しても裏では陰口を叩かれても不思議ではない。

 それでも、ワシズとシミズは各々考えてしまう。

 もしも最初に只野に拾われたのが自分達であればと。そうであれば一番の愛を受けられたのは自分だったかもしれない。理由が理由だけに前提が狂っているのだが、それでも考えてしまうのは他のデウスよりも近くに居たからだ。

 人間だから彼女達は無条件に只野を求めている訳では無い。只野であったからこそ、彼女達は彼を求めたのだ。

 これが只野でなければワシズ達は見向きもしなかっただろう。家族として虐げる真似をせず、一切の上下を付けずに接したからこそデウスの常識から彼女達は脱する事が出来た。


「話は聞きました。まぁ、これで全部納得って感じですね」


「右に同じ」


 腕を組んだワシズは瞼を閉じて首肯する。シミズは無の顔で彩を見て、同じく理解した事を告げた。

 どちらも互いに同じ顔。けれども、決して同じ見た目である訳ではない。伸ばし放題の髪は輪ゴムによって纏められているが、それは左右に別れている。

 ワシズは右に、シミズは左に。ワシズの瞳には何時の間にか光が灯り、シミズは尚も光が無い。

 単純な比較だけでも違いはある。それに口調も両者によって対極とも言える程の差が出来上がっていた。

 昔日の彼女達の姿は最早存在しない。違法研究所で生まれたワシズとシミズは存在せず、彼女達は今を生きる他のデウスと同じとなった。


 まだまだ不足した分の常識はある。

 男女の境を人間として見る事は難しいし、感情の機微についても明瞭であるとは言い難い。

 知識としての情報は数多くあれども、言語化出来ない情報の数々は彼女達にとっては酷く難しいものである。

 されど、彼の申し訳なさそうな顔をしている理由はワシズ達には解っていた。それが自分達を巻き込まないようにする為であり、最早それを避けられない事を。

 今更と言えば今更な話だ。既に逃げられる環境ではなく、それにワシズ達は彼と離れるつもりは毛頭無い。

 例え離そうとしてもワシズもシミズも無理矢理付いてくる。その壁としてデウスが立ち塞がっても、彼女達は止まらず壁を粉砕するだろう。


「これから益々被害は拡大する。例の敵がこうして前面に出てきた以上、俺も彩も関わらない選択は取れない」


 元凶が暴れているのだ。明確に軍に対しても民衆に対しても敵対行動をしてきたのならば、対処をするのは当然。

 只野達も逃げ続けるだけの生活はもう出来ない。軍が巻き込まれた以上、情報を提供した側である彼等もまた戦火の中に身を投じる必要が出る。

 その戦いにおいて、只野と彩が参加するのは絶対だ。しかし、ワシズとシミズは絶対ではない。

 参加しようとしなかろうとワシズ達は自由である。参加をしないデメリットとして多数のデウスや只野の関係者に睨まれる事になるが、それを認識した上で断固として否を突き付ければ逃げる事も十分に可能である。


「なら、私達の選択も一緒だよ」


「元より選択の余地無し」


 そんな諸々をワシズ達は考え、全てをどうでもいいと一蹴した。

 逃げるつもりは毛頭無し。死ぬのならば彼の腕の中で。例えそれが叶わずとも、彼の役に立った上での死であれば後悔することはない。

 元気に、快活に、明朗に、ワシズは口角を吊り上げて笑みを形作る。そこに無理をしている部分は無く、隠す事のない素の表情を見せていた。

 まさしく太陽が如く。明るく全てを照らしてみせると言わんばかりの態度は、只野の胸に暖かいものを湧き上がらせる。そして、ワシズとシミズは常に一緒だ。

 シミズの断固退かぬ姿勢は最早女性的とは言えない。男らしさを感じさせる少女は珍しく口に緩やかな弧を描かせ、その静けさはさながら月のようだ。

 

 矛盾した二つの要素が混じったシミズの姿は、されど魅力を損なってはいない。

 寧ろ普段から感情を見せない彼女の生の想いが表面化したことで只野は再度の安心感を抱いた。

 目の前の少女達も確りと己というものを獲得し、唯々諾々だけではない様子を見せている。今此処で無理矢理彼が彼女達の選択を否定しても、本人達は一切聞かずに付いてくるだろう。

 それが解るだけの姿を見せてくれた。であればこそ、余計な言葉は無粋の極みだ。

 解ったと只野は続け、次に今後の予定についての何時もの話し合いが始まる。普段であれば道程の相談であるが、今回はそれについては一切話さない。


「よし、それじゃあ次だ。今の段階では何も行動は起こせず、岡山辺りからの情報待ちになっている。敵の総数は極端に少なく、とてもではないが街を攻撃しても破壊はしきれない」


「歩兵については今は除外しましょう。考えるべきは、先ずはマキナかと」


 歩兵の総数は二桁程度。今後増減が起きる可能性は否めないものの、現時点での情報から推測を立てる他に無い。

 パワードスーツ五台は改造を施され、更に内部に人間の脳を使われていると見るべきだ。マキナの実験の段階で人間の要素は極力排除したいだろうという只野の考えに、集まった全員が首肯する。

 打ち破るべき予想は思いの外少ない。監視からの成分調査によれば、構成される全ての要素が既存の金属と一致している。

 デウスにも用いられる内部骨格用の金属も各所に見受けられ、それがパワードスーツの全体を支える柱になっているのは少し考えれば解るだろう。

 

「装甲そのものに問題は無いんですね。専用装備で撃ち抜けそうです」


「予測される厚さも無い。……うん、いける」


 実際、この外見だけのスペックを見るならばあまり脅威には見えない。

 武装がガトリングである事だけが唯一恐ろしいだけで、それだけならば決して苦戦はしないだろう。

 それでも問題なのは、これがマキナ計画から生まれた物だからだ。一体どのような方法でデウスを撃退し、尚且つ街や村を破壊したのかを俺達は考えなければならない。

 

「可能性として挙げるなら、やはりスペックを抑えていることでしょうか」


 彩の言葉は一番最初に思い付く内容だ。平常時にはスペックを抑え、戦闘時に限定して抑えを解放する。

 当たり前と言えば当たり前の行動だが、しかし何の情報も無い中では非常に有効だ。警戒するという行為が逆に相手にとって優位に進み、時間を稼がせるという結果を招く。

 それが相手の本来の目的であればそれは成功していると見て良い。現に何処の県も警戒し、威力偵察を行う部隊からの情報を待ち続けているのだから。

 だが、時間を稼ぐのならば露骨に姿を見せる必要は無い。例えバレるにしても、森の中にでも隠れれば捜索が途端に難しくなる。

 

「歩兵の方に何かある可能性は?全員psychicerであれば理不尽祭りも出来るんじゃない?」


「二桁とはいえ、それだけの人数を用意するのは絶望的だ。あまり可能性としては高くないな。精々一人か二人程度が関の山だろうな」


 ワシズの挙げた内容は只野にとってはあまり考えられる事ではあった。

 歩兵全員がpsychicerであるならば、確かに不可思議な状況を作り出す事も可能になる。どの超能力を持っているかは解らなくとも、最初から選別していれば使える者で構成されているだろう。

 だが、生まれる確率が酷く低い。二桁の人数を揃えようとすれば最早誘拐する他に無く、大人数となれば当然世間を騒がせてしまう。

 故に無しと断じたが――続けたシミズの言葉に只野は否定の声を入れられなかった。


「人工的に造るのは?」

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