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人形狂想曲  作者: オーメル


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第百十五話 夢の守り人

 ――その情報が届いた時には、既に被害は無視出来るものではなかった。

 村五つ、街二つが壊滅状態。死傷者の人数は二万に登り、警官も甚大な被害を被っている。壊滅した街や村のある県は発展の乏しく、更に主戦力を北海道に移した所為で戦力が極端に落ちた広島だ。

 担当指揮官からは既に情報が回っているようで、俺に話が回ってきた段階で殆どの軍の人間が解っているらしい。 

 執務室内は重苦しい空気に満たされ、事の詳細が記載された書類を俺は読み進めている。

 相手の戦力は少ない。軍の使っている物と同タイプのジープが十数台に、兵の数は二桁程度。爆発物や銃器の数も目立つ程ある訳では無く、とてもではないが村を五つも滅ぼせる戦力数ではない。

 

 その程度の人数であれば何れ軍が到着する方が速く、街にまでは被害は届いていなかっただろう。

 そうなったのは六台の巨大な鉄塊。工業用の物を改造したパワードスーツが原因だ。そして、その存在について俺達は当然理解している。

 十中八九、実験によって内部に人が入れられてしまったパワードスーツの筈だ。

 デウスを超える為に作られた試作型とも言うべき存在は、やはりそれに見合うだけの結果を叩き出している。

 なにせ被害の中にはデウスもあるのだ。完全な破壊にまでは至っていないものの、本人達の技量不足によって戦闘の続行が不可能な状態にまではなっている。

 

「現在、目標の部隊は岡山へと向かっている。しかし付近の街や村を襲わず、そのまま通過するようだ。恐らくは連中の目的はもっと明確な戦果だろう」


「となると、東京方面ですかね」


「だろうな。此方の監視の目も全て無視だ。かなり近い距離で見ているにも関わらず、まったく意に介した様子が無い。それだけ此方を舐め切っていると見えるな」


 ドローンを用いた空中からの監視は依然として妨害されていない。

 機械的な側面のみを重視したパワードスーツであれば撃ち抜いたとしても不思議ではないのだが、相手側は見られても構わないと放置している。舐め切っているという伊藤指揮官の予想は確かに納得であるものの、しかしそれだけであるとも考えられない。

 そんな俺の考えている素振りを見透かしたのか、どうしたと伊藤指揮官は尋ねる。

 今回は此方が反発する訳にはいかない。これまでまったく表だって行動してこなかった存在が遂に公の場所で暴れ出したのだから、個人の感情を優先する訳にもいかないだろう。


「いえ、単に此方を舐めているだけでしょうか?他にも何か理由があると思いますが」


「……具体的には?」


「ぱっと思い付くのはデウスの撃破方法です。書類を見る限り、現在移動中のパワードスーツのスピードはかなり遅い。俺が走っても追い付く速度ではデウスのスピードには付いてこれないでしょう」


 書類内容には撃破されたデウスからの情報提供もあるにはあるが、その情報は極めて曖昧だ。

 視認外から撃たれ、射線を辿った結果パワードスーツを発見した。デウスの探知機能がまったく働かず、どうやら相手はあの探知を回避する技術を持っているらしい。

 俺も幾つかの回避方法は彩から教わっている。だが、そのどれもが只のパワードスーツには出来ない芸当だ。

 改造内容が何処まで及んでいるかは定かではなく、故にこそ監視を続けるだけでは何の成果もあげられまい。

 出来るのならば一度何処かの部隊が激突すること。それによって情報を集められたなら、改めて対策を練るのが無難だろう。

 

「見ているだけでは無駄。確かにな」


「はい。今後も被害が拡大するのは確実。そうなる前に早急に処理した方が良いでしょう」


「本部もそう判断しているようだ。既に岡山を先頭に鳥取、兵庫、京都が協力姿勢を取っている。だが、第一線で活躍するデウスは皆北海道だ。劣勢になる可能性は否定しきれん」


 今回の相手の戦力は然程多くは無い。

 数で押し切る事も不可能ではない筈だが、かといってそれで慢心するなど論外。特にパワードスーツの性能の如何によっては全滅を考慮しなければなるまい。それによって軍そのものが揺れる事態となれば、正に相手にとって都合が良い展開となる。

 俺達も介入出来れば良いのだが、生憎と繋がりらしい繋がりが無い。

 彩達の修理も終わってはおらず、仮に直って向かったとしても関係性が無いので犯罪者として追われるだけだ。

 下手をすればパワードスーツの味方と誤認されかねない。そうなるのだけは勘弁願いたいことである。

 

「今は他の県では警戒状態だ。此方に何かしらの縁が無い限り、今直ぐ手を出すのは難しい。他もそれは一緒だ。残念ながらこのまま座して待つしか方法は無い」


「そう、ですね。彩達も万全の状態とは言い難いですし、今は待つしかないでしょう」


「ああ。暫くの間は北よりも南に関して情報収集に力を入れよう。この状態では続報も次々入る筈だ。それらを見極めながら、割り込めるタイミングで割り込む」


「十席同盟にもこの話を?」


「勿論だ。彼等にも関係が無い話ではないし、北海道に行かない者は必ず声が掛かるだろうさ」


 断定口調のそれはしかし、事実だ。

 PM9のように今後の予定が明確になっていないのならば呼ばれる可能性は極めて高い。というよりかはほぼ確定になる。他のメンバーを知っている訳では無いので普段の活動内容が不明のままだが、それでも一人か二人程度は構えていると見て間違いない。

 これはデウスとしての都合ではなく、軍としての都合だ。

 本人がやりたくなくともやらねばならない。つまりは、そういう事である。

 向かい合って会話を終えた俺はその足でそのまま部屋へと向かう。何時の間にか付いた二人のデウスの護衛によって何かをしようとするのも難しいが、一応は味方側の基地だ。

 

 何も手を出さず、軽い雑談だけして自室内に入る。

 待機させられていた彩達は俺が入って来たと同時に顔を向け、言葉を待つ。誰にも聞かせないように配慮されただけに、今この情報を持っているのは基地内で俺と伊藤指揮官ぐらいなものだ。

 他にZ44ならば事前に知っていても不思議ではないが、今は彼についてどうでも良い。それよりも考えるべきは、俺達が逃げる相手が盛大に暴れ出した事実そのものである。

 

「連中が動いた。それも盛大にだ」


「具体的には」


「これは俺と集まった指揮官達、それと一部のデウスしか知らない情報だ。――マキナの試作品が表で暴れ出した」


 俺の言葉に、彩は一瞬目を見開いた。

 流石に彼女も覚悟はしている。こうなる可能性は低くはなく、遠からずそうなると。

 それでも実際に起きれば動揺するのはデウスも人間も変わらない。ワシズ達には事情を詳しく説明してはいなかったので、俺の言葉と彩の様子に困惑顔をしていた。

 今までも碌な説明はしていない。こうなった経緯の説明を、俺と彩の始まりを。

 これまではそれでも良かった。あまりする必要も無かったし、これからも機会が巡ってくるとは思っていなかった。

 

 だが、もう説明は必要だ。

 これはマキナの情報だけではない。俺達が彼等に関わる事になった切っ掛けも話さなければならないのである。

 どうしてそれを今まで話さなかったのか。単純に話をする余裕が自分の中に無かったのもそうだが、もしもワシズ達が誰かに捕まって内部データを見られた際に漏洩する事を防ぎたかった。

 それはつまり、ワシズ達を信用していなかった事にも繋がる。精神的に生まれたばかりの彼女達にいきなり話をしては、人間の闇が全てと思いかねない。

 だが、最早そんな心配は無いのだろう。ワシズもシミズも、もう十分に自我を獲得した。

 であれば、全てを話しても構わない。


「こっから先は全員で情報共有だ。一発で全てを覚えてくれ」


 久方振りに取り出した小型端末は、短い期間でありながらも年代物のように細かい傷がついていた。

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