プルートゥ 2
プルートゥは昂る闘志を抑えながら冷静に観察していた。
オタルの装備、同じ籠手だが、自分の装備と違い、拳に拳具がついていない、黒い包帯のみだ、特殊な包帯なのか、よほど拳に自信があるのか
確かめてみたい、試してみたい。
プルートゥは合図と同時に前へと出た。
セトの使節達、フレイヤ一行、観客の殆どが固唾を飲んでそれを見守った。
ただ一人、クリフォードは笑みを零していた。
その笑みをみながらアルテミシアも戦闘に目を移した。
プルートゥの拳が放たれる。
激しい打撃音がなる。
プルートォの拳がオタルに当たり、
掌で受けたオタルは脚の引き摺った後を残しながら後方に大きく後退する。
プルートゥの拳と、オタルの手の掌から熱気が登る。
再び突撃を開始するプルートゥ、腕を後方から振り上げるように地面を破壊する。土煙がオタルを襲う。オタルは怯むことなくプルートゥをみる。
真正面からプルートゥが現れ上から下へ拳を振り落とした。
オタルは横に躱す。再び地面が割れる。
ヴァンヘルトの大楯の壁も冷や汗をかく。
飛んで躱したオタルをさらに襲撃する。
追撃の一撃、
プルートゥの拳を避けると同時にオタルの反撃の右速拳。プルートゥは予想したかのように顔面にに向かってくる拳を籠手で受けた。
その衝撃でオタルの時と同様に地面を削り後退した。
次はオタルの拳と、プルートゥの籠手から熱気が揺らぐ。
プルートゥが右手を上げ拳を作る。
察したようにオタルと人差し指からゆっくりと拳を作る。
オタルはゆっくりと速度を上げプルートゥに直進する。
遅れてプルートゥは地面を蹴り、一気に加速する。
二人の距離が縮まりオタルとプルートゥは右の拳を振りかぶった。
お互い突き出した拳が丁度当たる位置。
お互いの拳比べ
二人の鉄拳が真正面からぶつかる。
ゴォオオオンと鎚が落とされたような音が、闘技場の外までその轟音を響かせた。
何事かとヴァンヘルトの住人は闘技場の方向を見た。
そして闘技場の中の目撃者達は驚愕した。
プルートゥが右手を弾かれ、大楯のヴァンヘルトの戦士達巻き込むように撃ち飛ばされて激突する。
ベル「嘘だろ」
ベルから笑みが消えた。
クリフォード「素晴らしい」
クリフォードは目を輝かせた。
マリーは何かを確信した。
クリスは畏怖を覚えた
フレイヤは違和感を覚えた
悠然と立つオタル、拳は灼熱に燃えたように熱気を揺らめかす。
吹き飛ばされたプルートゥは起き上がり右拳を見る。
辛うじて壊されてはいない拳だったが、
重厚な拳具が拳の型を作られ変形していた。
大楯のヴァンヘルトの戦士は間近で見たその光景にただただ驚愕し立ちすくむ。
プルートゥ「っはは、」
プルートゥは笑う、歓喜かそれとも鼓舞するための虚勢か、
プルートゥは変形した拳具を無理矢理に壊して外す。
巻き込んで倒れたヴァンヘルトの大楯のオークに手を貸し立たせる。
プルートゥ「皆を引かせてくれ」
オークは首を縦に振ると、大楯の壁兵たちが後退し、2人の土俵を広げる。
そして再び両者が構える。
プルートゥとオタルが同時に動く、拳がお互いの顔を通り過ぎる。
そして次の攻撃、避けては打ち、徐々に、その場に踏みとどまり、攻撃と回避から攻撃と防御に変わる。二人の連打と防御が続く。
そして徐々に形勢が変わっていく。
プルートゥの拳が塞がれ、
逆にオタルの拳は
プルートゥの胴体、顔に直撃し始め、鮮血が見えていく。
プルートゥの右拳を左で弾き、同時に右拳を直撃させ、
怯まずに放ったプルートゥの左拳を右で弾き左拳を直撃させる。
それでもプルートゥは怯まない、攻撃を諦めない
次はオタルの右拳の相打ちを狙った。
しかしプルートゥの攻撃は空を切る。
罠撃、拳を撃たず、下に避けたオタルは同時にプルートゥの膝に左拳を当てる。支えを失った顔が下がり、その顎をオタルの右の昇撃が打ち上げた。
ガシ
振り上げたオタルの拳をプルートゥの左手が捕らえた。
絶対に離すまいと全身全霊で握り、引き寄せながら右拳を当てる、はずだった。
浮遊感がプルートゥを襲った。
プルートゥがオタルの右腕を掴み引き寄せる。その力を利用された。
引き寄せる力を使いオタルは身体を反転させながらの背負い投げ。
プルートゥの攻撃の勢いをそのままに地面に頭から叩きつけた。
プルートゥは即座に身を起こした。
しかし、もう彼の目の焦点は合ってない。
それでも彼は前にでる。
ヴァンヘルトの誰もが認める鍛錬した拳をオタル目掛け振る。
オタルも一歩脚を前に踏み込む。
プルートゥよりも早い右拳がプルートゥ顔面を撃ち抜いた。
オタルの拳に撥ねられ飛ばされたプルートゥの巨体が地面を激しく転がり、身体をうちつけながら勢いを失い、力なく横たわった。
勝負あり。
圧倒的な勝利
オタルは満足気に鼻息を鳴らした。。
ーーーーーーー
クリフォード「、、、素晴らしい」
クリフォードを、目を輝かせながらつぶやいた
力なく横たわるプルートゥ
闘技場の外から、数人のアマゾネスがプルートゥに駆け寄る。
アマゾネス「プルートゥ様!」
アマゾネス「プルートゥ様!」
オタルはプルートゥに背を向けて仲間の元へと歩き出す。盾の壁が道を開ける。戦士達の目は畏怖か恐怖か憧れを表していた。
オタルが横切る姿、その存在感に息を呑んだ
オタルはフレイヤ達に手を振る
呆気に取られながらフレイヤは手を振り返す
フレイヤ「フルド、、あれって、、、」
フルド「ああ、、、、プルートゥ、マジでモテんだな」
フレイヤ「、、、、」
その言葉を聞いてフレイヤがフルドを見る。
フレイヤ「黙ってろ」
フルド「」
フレイヤ「いくよ」
フルド「ヘイボース」
フレイヤとフルドは立ち上がりオタルの元へとクリフォードの前を横切る
闘技場へ降りていく、
闘技場の端でフレイヤとフルド、オタルが合流する
オタル「勝ったよフレイヤ!」
フレイヤ「お疲れ様、本当になんともない?」
オタル「うん!」
フルド「お、生きてるみたいだな」
フルドがオタルの後ろをを確認する。
プルートゥが数人のアマゾネスとオークに身体を支えられ立ち上がっている。
フレイヤ「、、、、、、」
フルド「タフだったな」
オタル「うん、あ、プルートゥさん、ベルさんの弟さんだって」
フルド「ああ、俺も聞いた、
この国のオークじゃかなり偉いんだってよ」
オタル「そうなんだ、うん、とっても強かったな」
フルド「圧勝してたじゃん」
オタル「ギリギリだったよ。次戦ったらわからないくらい」
フルド「マジかよ」
フレイヤ「どうかした?」
フレイヤ「いや、本当にどうもないの?」
オタル「うん、多分だけど元通りになってる。ありがとうフレイヤ」
フレイヤ「、、、、」
フレイヤだけは懸念な顔をしている。
オタルの魔力を変質させる荒治療、
慣らし程度の探り探りの変質化
たった一回それだけで、オタルは一晩の間に変質化を成功させた。
まるで池に墨を一滴たらした。
次の日には池が真っ黒になったような驚きをフレイヤは感じていた。
半年もオタルの魔力を循環させ治療していたフレイヤだから痛いほどわかる。
戦っていたオタルの魔力が、自分の魔力にそっくりだったのだ。
フルド「、、、、、、フレイヤ、戻ろうぜ」
フレイヤ「ええ」
クリフォード「見事だオタルハッシュドア」
客席から闘技場へと降りてくるクリフォードと数人のオークとアマゾネス。
賞賛の言葉、見ながらクリフォードは目を光らせた。
クリフォード「素晴らしい腕だ。」
オタル「、、、ありがとうございます。」
オタルの視線に嬉しさはない。警戒一色。
クリフォード「怖いな、まるで敵を見るような目だ。無事か?プルートゥ」
プルートゥ「生きてはいるみたいだ」
クリフォード「そうか」
身体を支えられながらプルートゥがオタルの前で立ち止まる。
プルートゥ「オタルハッシュドア、完敗だ。戦えて良かった。礼を言う」
オタル「い、いえ、こちらこそ、ありがとございました」
プルートゥ「その言葉遣いはやめてくれ、貴方は勝者だ、それに歳も上だ」
オタル「、、、うん、わかった」
フルド「え?いくつだよ」
プルートゥ「14だ」
フルド「発育えぐ」
フレイヤ「クリフォード様、親善試合はこれで終わり?席に戻っても?」
クリフォード「ああ、、、」
歩き出すフレイヤの後をオタルとフルドが歩く。
クリフォード「一つ、オタルハッシュドア、我が国に来る気はないか?」
フレイヤとフルドが予想していた提案だった。
オタル「、、、いえ、お断りします」
クリフォード「理由を聞いても?」
オタル「、、、、、」
沈黙が続く。
フレイヤ「抑えて、お願い」
何かを察したのかフレイヤはオタルにだけ聞こえるように囁いた。
クリフォード「もう一度聞かせてくれ、この国に来ないか、女も、地位も「無理です」
オタルはクリフォードがいい終わる前に断った。
クリフォード「、、、そうか、それは残念だ」
空気が変わる。
ピリピリと空気が揺れる。
クリフォードの周りの十指のアマゾネス4人、オークの2人が再び武器に手を付ける。
オタル、フルドとフレイヤも構える。
闘技場を覆う程の敵意、客席のクリスたちも勘づき立ち上がる。
クリフォード「やめろ」
その言葉は十指達に驚く。
クリフォード「会食は終わりだ、ベル!客人を宿に案内してくれ、アルテミシア、セトと会合を始める」
ベル「はい」
アルテミシア「、、、、、はい」
クリフォードはそう言って踵を返し客席へ向かう。
遅れて十指達もクリフォードの後を追った。
1人のアマゾネス、シャズアは舌打ちをする。
クリフォードから離れたベルが3人に声をかける
ベル「危なかったな」
空気を読まずに発言したベルをフレイヤとふるどが睨む。オタルはクリフォードの後ろ姿を睨んだままだ。
ベル「まさか、こんなことになるなんてなー、いやー何事もなくて良かった良かった」
流石のベルも苦笑いをする。
フルド「はぁ、、、とりあえず宿に戻ろうぜ」
ーーーーーーーー
ーーー宿屋ーーーー
生きた心地のしない一軒から俺たちは宿に戻る。
一旦別れフレイヤの使いでアマゾネス
フルド「んだよ」
止まっていた部屋とは別の部屋
フレイヤに呼ばれてないけど入ったフルドは
フレイヤ以外の人物を確認する。
ベルと闘技場でも戦っていたエルバ・アドリースだ。
エルバはフルドを確認すると頭を下げる。
真似て頭を下げる
フレイヤ「オタルは?」
フルド「チヨ達の面倒みてる」
フレイヤ「そ」
フルド「話ってなんだ?」
フレイヤ「さっき捕虜の返還が終わった」
フルド「お疲れさん」
エルバ「調査隊のエルバアドリースだ、遠路遥々申し訳ない」
フルド「フルドだ、別に、金はたらふく貰ってる。んで、話し合いは終わったのか?」
フレイヤ「うん、とりあえずね」
ベル「じゃ、私は失礼しますね、フルド、また明日」
フルド「、、、、、」
俺は応えなかった。
そんな俺をみて笑みをこぼしながらベルは部屋を後にした。
フルド「、、んで?」
フレイヤ「明日調査隊の半分がガノリアに帰る、ヴァンヘルトの人を留学交流として10人ほど同行。そんでガノリアからも10人こさせろって」
フルド「人質の交換ってか、半分?」
フレイヤ「本人たちがここに残ることを望んでるの」
フルド「は??、なんで!?色仕掛けでもされたのかよ」
エルバ「それもあるが、調査隊の中には学者がいる。大層ここに興味があるようだ」
フルド「それもあるって」
フレイヤ「これが名簿よ」
フルド「ああん、えぇと、クルクセス、、、、ベル、プルートぅ??マジか
ブロス、アマゾネス
ソル、オーク
イリーナ、、エルフ?」
フレイヤ「この国で生まれたエルフみたい」
フルド「へぇ、」
他数人はもう読まずに名簿を閉じた。
フルド「んで受けるのか?受けなくても調査隊は返してくれるんだろ?」
フレイヤ「信用できるとおもう?」
フルド「できたら苦労してねーよ、、、、、エルバさん、あんたここにけっこういたんだろ?話を聞きたい」
エルバ「彼らの目的は傭兵の国を作ることだ。
戦士たちを各国に派遣する」
フルド「待てよじゃあなんでセトとガノリアなんだよ、西の方が小競り合いしてんじゃねーか、普通そっちだろ」
エルバ「理由は簡単だ、仲が悪い」
フルド「、、、、、」
エルバ「もし、最終的に同盟を、組んだとしても、セトの属国になったとしても、組めば南と東は盤石となる。西諸国も無駄に手が出せなくなる。狙いはそれだと思う。おそらくだが」
フルド「んー、そんで、俺呼んだ理由は?政治なんてわからんぞ」
フレイヤ「あんたがクリフォードならどうする?」
フルド「、、、、オタルの親がクリフォードの知り合いかもしれねぇってのは言ったよな?」
フレイヤ「ええ」
フルド「ガノリアにやった連中が何かの事件に遭う。責任問題になって、代わりにオタルをこちらに迎えたい、もしくは賠償金、最悪戦争の口実にできるか?」
フレイヤ「私もそうかもって思う」
フルド「俺をそんな理由でよんだのか?」
フレイヤ「、、、エルバ隊長、すみませんが席を外してもらっても?」
エルバ「はい、」
フレイヤ「すみません、」
エルバ「いえ、明日の準備もあるので」
エルバが部屋を後にした。
フルド「知り合いか?」
フレイヤ「小さい頃、護衛だったことあるから」
フルド「救出に躍起になってたのは、それも理由か」
フレイヤ「ごめんなさい、あの人の奥さんも娘も知ってたから」
フルド「どうでもいい、仕事だろこれは、オタルも気にしねーよ」
フレイヤ「、、、、」
フルド「んで、用は?」
フレイヤ「闘技場でオタルを縛ったときなんだけど」
フルド「おん」
フレイヤ「私の黒布が、オタルに吸われてた」
フルド「ん??」
フレイヤ「今のところ私の魔力だけだど、吸収してた、私の体質言ったでしょ?」
フルド「そういや忘れてた、、おい同じ部屋で寝てたろ、チヨとマリーさん大丈夫だったのか?」
フレイヤ「制御できるし、寝るときは先生の護符で抑えてるから、、、それにダメだったにしてもあの人らの魔力はえげつないから」
フルド「そうか、そんで、オタルもそのサクバス体質なるかもってか?」
フレイヤ「わかんない、、」
フルド「マリーさんに聞かないのか?」
フレイヤ「後で聞く、あんたはこのまま変化させるべきだと思う?」
なんでそんなこと俺に聞く?と言おうと思ったがやめた。
フルド「しろよ、あのばあさんは信用していいかわからんが、少なくともあいつは力取り戻したんだろ?」
フレイヤ「それ以上になると思う」
フルド「お前の色に近づくんだろ?回復もできるようになるんじゃねーのか?」
フレイヤ「うん、そうはそう」
フルド「ケイオスの器なんて気にするこたねーだろ。濃いお前もお前の親父も経験したことないんだろ?きにすんな」
フレイヤ「だからそっちは気にしてないって」
フルド「考えすぎんだよ」
フレイヤ「違うの、、、、マリー様と同じこと思っちゃった」
フルド「??」
フレイヤ「私の魔力と調和したら、どんな実力になるんだろうって」
フルド「なんだ?好奇心??」
フレイヤ「、、、うん、そうね、そう、ほとんどない症例だから、でもちょっと罪悪感というか」
フルド「ははははは!!んなこと気にしてたのかよ」
フレイヤ「うるさい、」
フルド「あいつがこれ以上強くなんのか?それは見てみてぇな」
フレイヤ「怖くないの?」
フルド「全然、お前は?」
フレイヤ「稀なことだから、事例が少なすぎる」
フルド「どんな後遺症があるんだ?」
フレイヤ「マリー様の話じゃ、性格が変わったとか、魔法ができなくなるとかあるみたい」
フルド「変わったか?」
フレイヤ「今のところは、」
フルド「じゃあいいじゃん、やれよ、オタルが望むんならな、部屋戻るぞ俺は寝る」
フレイヤ「うん、、、後で行く、」
フルド「うい」
俺が部屋を出て扉を閉める前に
フレイヤ「、、、、、ありがと」
とボソリと聞こえた。