ヨルムンガンド
奴隷解放の日、
オタルの仲間たちは解放されて市民権を得て奴隷区を離れた。
オークであるオタルは解放されなかった。
一人で奴隷区で鉱石を掘りトロッコ用のレールを建設していく作業を淡々とこなしていった。
しかしそこに寂しさはなかった。
奴隷区の仲間たちが毎日と会っていたからだ。
奴隷区の仲間たちにはそこの担当であった。ザックスから仕事を依頼されていた。
奴隷区の整備、後の観測史上最大となるかもしれないダンジョンとなるこの奴隷区をギルドを建てるための魔物の駆除や建設を総出で行った。その金を元手にゲラルドワーカーズは創業する資金を得たのだ。
仕事として毎日顔を合わせられていた。
同時にリカードとレオンはオタルを地上に出すためにザックスと共に国に願書を出していた。
オタルの解放が目前に迫った中、
ある事件が起きた。
調査と試験を兼ねたダンジョン攻略、
ダンジョン経験者の冒険者いくつかのパーティを作りダンジョンの奥を目指す。
案内役に、長年奴隷区で働き、詳しく、実力も兼ね備えたレオンやその仲間がが当てられた。
そしてオタルもその中に加えられた。
案の定、初めて会ったオークを信用するわけがない。後にこのメンバーだった人間と仕事をしたこともあるが、それはまた別の話。
このメンバーの一人がオタルの指示を無視した。
これが原因でオタルは死の滝壁に落ちることになる。
死の滝壁、ダンジョン中層から下層にある巨大な滝。どこまで繋がっているかはオタルの情報が入るまでは誰も知らなかった。
オタルは奇跡的に助かり、深層まで落ちてしまったのだった。
深層、
深層の先にはもう一つの世界があった。
広大な地下世界がそこにあった。
そこでオタルは深層の濃い魔力に苦しみながら、生死を世界を彷徨った。
生まれた頃から奴隷区で生きていたオタルだからこそ、命辛辛その魔力に適応できたのだ。
適応していきながらオタルはそこで生き延びた。
小さな文明、オタルより前に深層に誰かが居た形跡もみつかった。
オタルはその誰かが樹木の上に作った小屋で数年を過ごした。
オタルの凄まじい戦闘力はそこで培われた。
そこで数え切れない程の死線をくぐり抜けたオタル。
身体中の傷がその凄まじさを物語っていた。
そして数年の後、準備を整え、帰還したオタルの情報は、ダンジョン研究に多大なる功績を残した。
魔物、植物、地図、オタルに市民権を与えるには十分だった。
しかし周りの目は冷ややか、オークがいることでゲラルドワーカーズにいい影響はなかった。
おそらくだが、オーガのヤマト家の嫌がらせもあったのだと思う。
そして、オタルはゲラルドワーカーズに迷惑をかけまいと旅に出た。
そしてクリフォードの情報を掴み、フレイヤや俺と出会ったということだ。
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「あんたの魔術回路がガバガバなのもそのおかげね」
フレイヤはオタルの昔話を聞いたあとにそう呟いた。
「ガバガバ」
「あんたは魔力の供給が半端ないのよ、ついでに深層の魔素に慣れているもんだから、濃い魔力だろうが構わず吸ってんのよ、まあそうね、深層に慣れてんなら地上の魔素なんて薄いでしょ」
「うん、最初は調子出なかったかも」
「それに、私の魔力の件もあるし」
「大丈夫だよ!今は慣れたから全然!!」
フレイヤの言葉にオタルは気にしていないように返した。
「でも見てみたいわな、深層にいたオタル」
「・・・・・・」
フルドの言葉に、ビンゼルは勇都での事を思い出した。
勇王アルフレドと話していた記憶を、
ーーー王室ーーー
「オタルハッシュドア?しってるよ良く覚えている」
「はい、フレイヤ様も気が合うようで良く遊びに行っているようです」
「そうか、、君から見てどうだった彼は?」
「・・・・・そうですね」
ビンゼルは最初にオタルと会った事を思い出す。
「失礼であったら申し訳ありませんが、貴方やジーク様、勇者千兵の豪傑達と重なりました。」
「ああ、私もそう感じた。・・・・いや、どちらかというと彼と重なったかな」
「彼?」
「魔王」
「・・・・貴方がいうのでしたらそうなのでしょう」
「私の半分にも満たない歳の彼が、最強と言われた魔王に重なった。それ程までに重い魔力を感じたよ。・・・・少し嫉妬した」
「貴方程の方がですか?」
「王になって身体も鈍りに鈍ってしまった。歳には勝てん、みろ髪ももう少しで真っ白になるぞ」
「そんなことは、私は貴方の年にはもう真っ白でしたよ」
「お前は気苦労が多いからな、フレイヤの隠密は疲れるだろう」
「エルダで慣れてますから」
「・・・・ありがとう、またオタルハッシュドアにもあってみたいものだ」
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「しかし、船もなかなか快適だな、もっと揺れるかと思ってた。」
船の広場、フルドはポツリとつぶやいた。
「うん、でもちょっと怖いね」
「わかる。怪物が出ないっていっても100パーじゃないんだろ?」
オタルは未だ怯えているようだ。
この世界の海は巨大な海洋の魔物が蔓延っている。この世界で海路の開拓が繁栄していていないのもそのせいだ。数々の事故、噂話、伝説、が後を立たない。
船が通れる沖のルートは数えるほどしかない。
基本的には浅瀬のルートになる。
数え切れないほどの冒険家が海の嵐や怪物たちによって命を落とした。
オタルやフルド同様、海とは未知と恐怖の対象になっている。
「なに大の男が何ビビってんの。このルートは10年以上死者は出てないから安心して」
「おまえそれ、フラグ」
フルドはフレイヤの言葉にお決まりの不安を感じる。
ふとオタルが疑問に思う。
「でもなんで、怪物がでないんだろ、ここって結構深そうだけど」
「さあ、知らない」
オタルの疑問に即答するフレイヤ
「ヨルムンガンドの加護だろ?」
フルドは冗談混じりに口にした。
「それ迷信だから」
「証明できてないないならそれぐらいしか理由ねぇだろ?」
「まあねー」
「ヨルムンガンドの加護って?」
オタルはヨルムンガンドの加護という言葉に興味を持った。
「ヨルムンガンドは知ってるでしょ?」
「うん、世界ヘビ」
「神話じゃヨルムンガンドが地面を削り、ヨルムンガンドの尿が海になって、糞が山になった。神話じゃね」
「きったね」
フレイヤの説明にフルドは海を見つめて感想を漏らした。
「だから海ってしょっぱいんだね」
オタルの感想にフルドとフレイヤは少し笑う。
「でも、今の学者の見解は違うの、元々この世界は海だったんだって、、そして、最初に生まれたのがヨルムンガンド。ヨルムンガンドが地面を削り海が深くなる。すると海面がさがって、現れたのが今の陸地ってのが今の有力な説、まあ火山活動ってのもあるけど」
「んで、ここに怪物が現れない理由は?」
「学者達の予想ではこの下にヨルムンガンドの亡骸、もしくは生きてる」
「まっさかー」
「調べてもないのに否定できる?」
「海流は引力や温度差で起きてるのが有力だけど、未だヨルムンガンドの移動による海流説が否定されない、いろんな学者が調べた結果、ヨルムンガンドの存在も確実、確認が少なすぎるだけ」
「いいねぇ、ロマン、そういうの好きだぜ」
フルドはフレイヤの話を聞きながら、この世界の未知にロマンを感じ、海を見渡した。
「一回でもいいから見てみたいな世界ヘビ」
オタルも同様にまだ見ぬヨルムンガンドを想像する
「ヨルムンガンドって、天鯨とかとちがって海の中だからほとんど情報がないのよねぇ」
「???」
3人は船が上昇する感覚に襲われた。
海を見回した3人はかすかに自分達のいる海面が盛り上がっているように感じた。
フレイヤは船からのりだし海の底を見る。微かに見えたのは、この船よりも大きな鱗達がゆっくりと船の下を通過していた光景だった。
船の船員達の慌ただしい声が聞こえる。
遅れてフレイヤと同じ光景を目にしたオタルとフルドもそれを見て固まる。
数分後、鱗が沈み見えなくなり、海面は元に戻った。
遅れて波が強くなり船が揺れる。
それもすぐに治ったが
顔面蒼白になったフルドとフレイヤは、唖然として固まっていた。
一方オタルはというと嬉々として子供用にはしゃぐ
「ねえ!みた?あれってヨルムンガンド!?すごい世界ヘビだよ!・・・?フレイヤ?フルド?」
先程の光景に感動していた。唖然としている二人を見て、自分の反応がおかしいことに気づく。
そしてフルドが叫びだす
「おい!!!陸!!!船長!!!陸!陸!!!おろしてくれ!!!」
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