レオンの記憶
後に友人となるゲラルドと出逢ったのは戦争の最前線だった。
私の率いる獅子部隊の新米の父親だ。
こんなにも鎧が似合わない男はいないのではないか?印象はそんなものだった。
息子の遺品を手に彼は戦場を駆けた。
訓練もしたことのないような者を部隊に入れる事は出来ず雑用をやらせていた。
不思議と皆彼を慕った。
話がうまく、飯も美味くなった、部隊の喧嘩の仲裁も上手い、
そして何より彼には軍師の才があった。
いつしか、会議に参加するようになり、わたしと彼は友となった。
そしてしばらくし、魔王国は敗れた。
私たちは捕虜となり奴隷区で暮らす事になった。
粗悪で危険だった捕虜区をまとめられたのはゲラルドの功績が大きい。
ティアラと添い遂げることができたのもゲラルドのおかげだ。
戦いしか知らない私を随分と人らしくしてくれた。
捕虜区の暮らしに慣れた頃、
とあるオーガの娘が大怪我をして倒れているのを見つけた。
妊娠していた。
意識が戻り事情を聞いた。
ホムル側の何故オーガ族がこのような捕虜区に逃げてきたのかと。
内容は驚くべきものだった。
彼女の腹の子はオークとの子。
しかし彼女は堕ろす事はせず彼を産みたいと願っていた。
オーガ族は一族の恥だと、腹の子を殺す気らしい。だから逃げてきたと。
そしてゲラルドはそれに感化されたらしい。
どうしようもないお人好しだと呆れ果てた。
昨日まで降っていた雨、おそらくだが彼女は川に落ちたのではないだろうか。
あちこちに打撲痕と切り傷がみえ、そして体温は低く衰弱していた。
私たちが保護してすぐに彼女は産気付いた。
魔物の子を産みたいのか、何人か説得はした。しかし彼女はこの子は違うと、この子は人だと言って譲らなかった。
この衰弱の中、出産をすれば死ぬのは目に見えていた。
しかし彼女は決して譲らなかった。
ゲラルドだけが彼女の決意を受け入れ、誓った。
そしてティアラまでもがそれに感化され、
ティアラにぞっこんだった私は従うしかなかった。
そして長い苦しみの中、彼が生まれた。取り上げたのはティアラだった。
私は、、、赤子を見て身震いをした。
ティアラも恐れを感じてしまったと私に打ち明けてくれた。
ただオーガの娘だけはその子を愛おしそうに抱きしめ、産声を上げる前にオークの子は彼女の母乳を吸った。
幾何の死線を経験した私が、
怪物の誕生に怖気付いた。
恐怖と気持ち悪さを感じたのを覚えている。
「この子をお願いします。どうか、どうか、この子を幸せに・・・・ごめんなさい、ごめんなさい」
オークの子の幸せと願い、産んでしまった謝罪を繰り返した。
「安心しなさい、必ずこの子を立派に育てます」
「・・・・ありがとう」
「名前を付けてやりなさい、立派な名を」
「・・・・・」
乳を吸うオークの子を抱きながら、彼女は名前もつけずに彼女はこの世を去った。
死んでもなお乳を吸うオークに忌まわしさと気持ち悪さをを感じたのを今でも覚えてる
彼女の遺体は火葬するべきか埋葬するべきか決めかねている頃、
兵と共にオーガ族のタケルという者が訪ねてきた。
私とゲラルドだけで対応すると、ゲラルドは言った。
あの時のゲラルドには畏怖を感じた。
みなが早老のゴブリンに逆らうことができぬほどの、あのようなゲラルドを見るのはこの一回きりだった。
オークの子を隠し、俺とゲラルドが対応した。
「ここにオーガの娘が来なかったか?」
彼はそう言った、十中八九あの娘のことだ。
「妹だ、オークの子を孕んでいる」
「ああ、ここにきた」
「今どこに?」
「こちらの質問にいくつか答えていただく」
「捕虜の分際で、取引するつもりか」
「娘には怪我をしていた。貴方がやったのか」
その言葉を聞いたタケルは俯いた。
「・・・・・・おそらく、父の使者だ。私はただ・・・・・」
人しばらくの沈黙のあと
「頼む、もう絶対に妹をこんな目には」
「一族の恥では?」
「恥だとも!、、、けれど妹だ、家族なのだ。」
強い葛藤を感じた。
彼女の遺体を渡すべきだと思った。
「・・・・・お気の毒に」
少なくともタケルは彼女は大事に思っていたようだ。
私が手を挙げると
元部下、今では同じ捕虜区の仲間が、彼女の遺体を丁重にタケルの元で運ぶ。
「彼女は・・・」
「私が話そう」
私の言葉を遮ってゲラルドが話し出した。
「川辺の近くで倒れていた。骨折の後から河に流されてきたのではないかと思う。看病はしたが、申し訳ない」
悲壮感に染まった妹の遺体を見つめながらタケルはぽつりと言う。
「何か言っていたか?」
「兄と母に申し訳ないと」
「そうか、、、、腹のオークは」
言ってしまおうかと思った。
しかしゲラルドは間髪入れずに言葉を発した。
「殺したよ、彼女が亡くなった後に、埋めようか考えたが、魔物だ、申し訳ないが、洞窟の穴に投げ込んだ。今頃は魔物の腹の中だろう。生かしておくべきだったか?」
「いや、感謝する。手間が省けた」
「そうか、それなら良かった」
「妹の最後を看取っていただき感謝する」
「奴隷に頭を下げるものではない、貴方の地位が堕ちてしまう」
「その娘の遺体をどうするのか聞いてもよろしいかな」
「母の好きだった場所に埋める。同じ墓には入れてもらんだろうから」
「そうですか、ならその娘も安らかに眠れましょう」
「・・・・はい」
オーガの男はその場を後にした。
聞けばオーガ族の頭目の跡取りらしい、
強いと手を合さずして感じる程のものだった。
その後、ゲラルドはオークの子にオタルと名付けた。
驚いた。オタルをよく知る俺や、部隊の仲間たちも耳を疑った。
それから数年、ゲラルドは全てをオタルに吹き込むかのように育てた。
私たちの嫌悪とは反対にオタルは心優しく育った。善悪の区別つけ、
オークの成長は早くすくすくと育っていった。
気づいた頃には、オタルに対する嫌悪などは消えていた。
彼は優しく育っていった。
「戦いを教えてやってはくれんか?」
ゲラルドは私にそう頼んだ。
いやいや教えてはみたが、懸命に修練するオタルを見ていつのまにか楽しさを感じていた。
あの頃から、オタルを息子のように思っていたのかもしれない。
そして捕虜解放の日、
私は解放されなかったオタルと共に奴隷区残ろうかとも思った。
しかし、ティアラや子供達
俺を慕ってくれる仲間たち、
そしてオタル自身に背中押されたことを言い訳に私は捕虜区をでた。
幸運なことに、兵士長はオタルに対して好意的だった。
限定的に、俺たちが逢いに来ることも許してくれた。
そして捕虜区がダンジョンと呼ばれ始めた時、
オタルが深層で行方不明となった。
腕のある仲間たちと決死の捜索をした。
数々のモンスターの遭遇で捜索は熾烈を極めた。
そうして1年が経っても彼を見つける事はできなかった
そして私は深く潜り過ぎた影響で高濃度魔力中毒になり、魔力操作が困難になってしまった。
オタルが行方不明となり3年が経った頃。
ダンジョンはすっかりと冒険者、交易の場となった。
ダンジョンに詳しい私達はサポーター、案内人、ダンジョン内警護、整備、仕事には困らなかった。
その資金を元手にゲラルドワーカーズを設立した。
そして、とある情報が舞い込んだ。
ダンジョンでオークが発見された。
オタルだった。
私達が到着した頃には、沢山の冒険者がオタルを襲い、返り討ちにあっていた。
死者はいなかった。大怪我もない。オタルにとっては子供あやすよりも簡単だったのかもしれない。
一瞬、遠目で見た彼をオタルとは思えなかった。
恐怖を感じるほどの強さを感じた。
私の教えた武術が見事に昇華され、
速さも力も、桁違いの魔力も、技も、
あの時のオタルは見事に完璧だった。
ある者がそう言った。
ダンジョンの主
そして彼は私達が保護した。
獣のような仕草とは裏腹に、昔と変わらぬ優しい心を失ってはいなかった。
深層の情報という元手、
エルダと言う公明な魔女様や、兵士長のザックスのお陰で彼は市民権を得られた。
私達と暮らすうちに獣の彼は消え去り元のオタルへと戻りつつあった。
嬉しくある一方、惜しくも感じた。
オタルはダンジョンサポーターとして働くことになった。
しかし上手くはいかなかった。
風評被害、オタルがあしらった冒険者の中には高名な貴族も新しい。
嫌がらせや妨害、
ゲラルドワーカーズはサポーターだけではなく、建築やその他事業の仕事まで激減した。
お前のせいじゃない
そんな言葉しかかけてあげれなかった。
そして、彼はこの国からいなくなった。
兵士長ザックス。ホルム人
いい奴、顔が聞く
陰が薄い、頭も薄い
タケル
妹を供養した後、オーガ族の頭目となる
強い、オークに恨みあり




