ヴィンセントとフィル
ヴィンセント オカマ
フィル 犬型の獣人
「はいこれ」
ハフの村からウランダを超え再びパルミアに戻ってきたとオタル・フルド・フレイヤ、パルミア付近の小川でキャンプを張っていた。
準備を任せ、先にパルミアに入ったフレイヤが、
猛獣用の首輪を手にキャンプに戻ってきた。
「お前それ、うわぁ、」
フルドの声を無視してフレイヤ続ける。
「オタルつけて、多分合うと思うけど」
「いやさ、俺も考えなかったわけちゃうけどさ、えー、ちっとは抵抗感とかないのかよ」
オタルの返事より先にフルドが口を出す。
「うっさい、いちいちめんどくさいでしょ」
オタルに渡された首輪、オタルは不思議そうにそれを見つめた。
「えーと、」
「魔物用の首輪だよ、えーとな、まあ簡単に言えばそれつけてフレイヤのペットになるってことだよ」
「言い方、まあそんなとこ」
「別に構わないけど、どうして?」
別にどうでもいいかのようにオタルは聞く
「街に入れる」
フルドが答える
「ホント!?」
「まあ色々手順あんだけどよ」
「すごい」
オタルは嬉々として手にもった首輪を自分につける。
「あー付けちゃったか」
「別に気にしないよ、だって僕魔物だし」
「お前もちっとは申し訳なさそうにしろよ」
フルドの心配をよそにオタルはなにも気にしてないようだ
「本人がいいならいいでしょ」
フレイヤはオタルが首輪の留め具の固定に苦戦してるのを見計らって、後ろから留め具を留める
「苦しくない?」
「うん、どんなことするの?」
「まあ、言うこと聞くかとか、暴れたりしないとか、簡単なテストするだけ」
フレイヤがオタルの返事をする。
「詳しいのな」
「クリシアの時立ち会ったから」
「あ、そっか、え?クリシアって、一応許可いんのか」
クリシアにも許可がいることを知ってフルドは驚く。
「クリシアが?」
オタルも意外だったようだ、
「ほらクリシアって一応、力強いし、暴れたらかなり危ないランクだし、街中入るには許可いんのよ」
「そうなんだ、、あれ?でもそれならもっとまえにフルドのペットになっても良かったんじゃ」
「無理無理、俺銀等級だぜ?あー、オークなら金等級?」
「もし仮にアンタが暴れたとして、それを抑える力がないと被害がでるでしょ?」
「あーそういうことなんだ」
「檻も申請も明日に予約したから」
「お前そゆこと相談しろよマジで」
「オタルがいいならいいでしょ?ね?オタル」
「う、うん」
「なに?すすまない?」
「そんなことないよ、大丈夫、、、いや、ちょっと怖くなってきたかも、街にはいるの・・・」
「大丈夫大丈夫、白銀級がついてんだから、そんな無下にはされねーよ、多分」
「・・・・多分」
フルドの言葉に不安が消えないオタルだった。
ーーーーーー
翌日、パルミアの関所、
「オークか・・・・うん、問題ないだろ」
「フレイヤ様の使役ですね、問題ありません、御通り下さい」
関所の兵士が檻に入ったオタルと、フルド、フレイヤ、そして、オタルの入った檻の荷車を押すクリシアが門を通る。
なにも問題はなかったようだ。
「一応、布かけとくな、我慢してくれ」
「うん」
フルドがオタルの檻に布を被せてパルミアの住民の目線からオタルを隠す。
「もう目の前だから」
関所のすぐそば、とあるギルドをフレイヤ達はおとずれた。
国営のテイマーズギルド、主に街に入る魔物の許可や申請などを行うギルドだ。
ここ許可や資格を得れば魔物でも街中を条件付きで歩くことができる。
大きな門をから中に入る。
クリシアの引く檻に入ったオタルも後を追う。
「いらっしゃい!昨日ぶり」
出迎えたのは褐色の肌をした男、
犬の女獣人静かに褐色の後ろに立っている。
「ヴィンセントさん、今日はよろしく」
「もちろん、この子がオタルくん?」
褐色の肌の男ヴィンセントは、フレイヤと挨拶を介しながら檻の中を覗く。
布の中にいるオタルと目が合う。
「あ、こ、こんにちは」
「こんにちは!オタルくんね、今日は宜しくね」
「は、はい!」
ヴィンセントは笑顔でオタルに挨拶をする。
「大丈夫そうね、もうここで出ちゃっていいから」
「そ?オタルもう出ていいって、フルドあけて」
「へいへい」
話を聞いたフルドが檻の鍵を開ける。
ゆっくりとオタルが檻の中から出る。
「あらあらすごい、こんなオーク初めて、今まで見たオークの中で一番理性的」
目をキラキラと輝かせながらオタルを観察する。
少し緊張しているオタル。
「フィル、すぐ試験するわ」
「はい」
後ろの女獣人フィルは返事をするとギルドの中へと戻っていく。
「まあ、ある程度はもう聞いてるけど、自己紹介してもらっていいかしら?」
「は、はい、オタル・ハッシュドアです。
え、えーと、オークです」
「母親は?」
「え、いえ、知りません」
「まあ見た感じ母体はオーガ族かしらね、おいくつ?」
「・・・16歳です」
「いいわ、武術が得意なそうね」
「は、はい、ちょっとですけど、奴隷区にいた頃に獣人族の人に教えてもらいました。」
「あらあら、本当にオーク?まあいいわ、さ、中に入って試験するから」
「は、はい」
クリシアを係に預けて、
オタル達はギルドの中に入る。
数人のギルド員と、ちらほら魔物の姿が見える
中のギルド員が珍しそうにオタルを見た。
その好奇の目にオタルは少し居心地が悪そうだ。
中を歩くと小さな闘技場を模した中庭に出る。
闘技場の中央には先程の獣人フィルが軽装の防具を装備して立っていた。
「さ、オタルくん、あの子と試合して頂戴」
「え、それが試験?」
フレイヤは試験の内容が予想外のようだ。
「この子、普通の試験は意味ないでしょ?オタルくん、あの子に勝ったら試験合格よ、言っとくけどつんよいからねあの子」
「え、は、はい」
オタルは困ったようにフルドとフレイヤに目を向ける。
「はあ、、、大丈夫、真面目に戦えばいいから」
「やったれやったれ」
オタルは不安げに頷くと、渡された革の腕具を装着する。
「あ、上は脱いでね」
「え、ど、どうしてですか?」
「趣味」
「・・・・・ははは」
ヴィンセントの答えにオタルは苦笑いした。
上着を脱ぎ、上半身をあらわにする。
ヴィンセント含めたギルド員が驚く声が聞こえる。
引き締まった上半身、無数の傷、特にヴィンセントはうっとりと吐息を吐いた。
そんなヴィンセントをみてフルドは思った。
(こいつ変態だ)
闘技場に出るオタル、軽く準備運動をし、フィルはそれを静かに待つ。
オタルがひとしきり身体をほぐすと、目の前のフィルは静かに構えた。
オタルやフルドは少し目を見開いた。
そしてオタルの顔が真剣になり、オタルも同様に構えた。
すると次はギルド員達の声が上がる。
二人の構えはほとんど一緒だったのだ。
フィルも予想外だったのか、目が動く。
ヴィンセントが声をかける。
「じゃあ、お互いいい?・・・・はい、はじめ」
フィルは動かない、
しばらくの硬直のあと、先に動いたのはオタルだった。
静かに一瞬でフィルとの距離を詰めた。
ーーーーーー
「おおぉ」
フルドは声を漏らした。
フィルはオタルの攻撃を華麗にいなし、反撃を出す。
オタルと素手で対等以上に渡り合りあっている。
フィルは小柄ではないがオタルに比べれば、明らかに小さい。力に関しても明らかにオタルの方が上だ。
フレイヤの回復の件でうまく魔力が練れないオタルだが、それでも素手では負けることはないだろうと、フルドは思っていたのだ。
しかしながらフィルは徐々に押し始める。
オタル攻撃の頻度が明らかに減って、防御が多くなってきている。
「あらあら、オタル君凄いじゃない、びっくり」
「俺からしたらあっちの方がびっくりだけどな、で、これはなんの試験なんだ?」
「最初見た時から理性的なのはわかったから、ボコボコになって命の危険を感じた時時どう反応するか、見たかったんだけど、、、」
「思ったより強くて予想外?」
「ええ、いやほんと凄いわ、フィルも楽しそう」
「楽しそう?てかこれどっちかがボコボコにされるまで終わんないのか?」
「どうしましょう、二人とも楽しそうだし・・・」
「あんたがやめって言えば済む話じゃね?」
「えぇ、そんな野暮なことできないわよー」
攻撃を避けたオタルの拳がフィルに当たる。
両手で防御はされたがフィルは後方に弾き飛ばされる。
闘技場を囲む柱に着地、地面に降りる間も無くオタル追撃、拳を振る。
紙一重、空中で風のようにオタルの拳を避けたフィル。オタルとの距離を取る。
オタルの拳は石材と木材の混合した柱に当たる。ガン!メキ!と拳が当たった周辺はひび割れ、瓦礫が飛ぶ、ビキっと壊れ柱に亀裂が走った。
ギルド内の見物人たちから驚きの声が広がる。
「あ、、、、ご、ごめんなさい」
建物を破損して、我に帰ったオタルが恐る恐る周りを見渡しなごら謝る。
「気にしないで下さい。続けましょう」
フィルが構えながらそう言う。まるで遊んでいるように笑顔だ。
その顔を見たオタルもかすかに笑みを浮かべる。
「はい」
オタルが返事をして構える、そして互いに砂煙を上げながら距離を詰める。
激しい攻防、周りのギルド員やフルド達は卓越した武術の戦いに目を見張った。
そして決着の時が来た。
オタルの拳は流されフィルの反撃に足を捕られ体勢を崩す。
地面に背を向けながらも拳を振るオタル。同時にフィルも拳を振る。
オタルの拳は微かに外れ、フィルの頬を皮膚を削り切る。
フィルの龍頭拳はオタルの喉に当たる寸前で止められていた。
そして、ふっと力を抜いたオタルが、拳を地面に下ろした。
「・・・・参りました」
オタルは目を瞑り降参した。
「良い試合でした。」
その場に拳を緩め立ち上がるフィル。
「あの頬、すみません」
オタルがフィルに声をかける。フィルの頬からは血が滲み垂れている。
「お優しいんですね。大丈夫ですよ、気にしないで下さい」
先程の鋭い眼光は消え去り、優しい表情でそう答えた。そして、稽古場の場外にいるヴィンセントのもとへと歩み寄る。
「お疲れ様、楽しかった?」
「はい、ともて、でもびっくりです。武術とは聞いてましたが、まさか同じだとは、腕も一流です。」
「ほんと私も驚いたわ、、それで、、、問題はないようね」
「はい、人並み以上の忍耐がなければあそこまでの技量にはたどり着けないでしょうし、それに・・・・」
「それに??」
「彼、殺し合いだったら、私より強いと思いますよ」
「あらあら、貴方がそこまで言うなんてねー」
闘技場の中で仰向けになったままのオタルにフルドが声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「うん。すごいな、強かった」
「そうだな、あれ、牙獣だよな?」
「うん」
「結構互角にやってたじゃん、」
「あの人、そこまで本気じゃなかったし」
「え、マジで?」
「うん」
オタルはフルドと話しながら立ち上がる。
そこにヴィンセントが拍手しながら近づいてくる。
「合格合格!!待っててね、一番上の許可証作ってあげるから」
「おー、良かったじゃんオタル」
「あ、ありがとうございます」
そこに、フレイヤが現れる。
「終わった?」
「お前どこに行ってたんだよ」
「2階ににカフェがあったから寄ってた、このチーズケーキかなりイける」
「え、なにそれうまそ」
フレイヤの感想とフルドの反応の後にヴィンセントが手をぱちっとたたく。
「ここのチーズケーキは絶品よ、許可証作ってる間にお茶してきたら?20分くらいでできるから、
あ、オタル君は私と一緒ね、ちょっと測る事あるから」
「あ、はい、」
ーーーーーーーーーー
オタルがヴィンセントに連れられている間、フレイヤは2階であらゆる甘菓子を貪りながら本を読み時間を潰していた。
かなり時間が経っていた。
フルドは先にポストギルドへ行くと街に出て行った。
「フレイヤちゃん!お待たせ」
ヴィンセントとオタルが作業を終えて戻ってきた。
「終わったの?」
「うん、完了!あとは署名ぐらいね」
フレイヤは気付き、疑問に思った。
オタルが俯いている。
どうしたのだろうと、
「ねえ、オタルに何かした?」
「えー何も?」
ヴィンセントはとぼけたように笑う。
「・・・オタル、何かされたでしょ」
「え、えーと、その」
オタルはモジモジと言うに言えないようだ。
答えないオタル、再びヴィンセントに目を向ける。
「ヴィンセントさん?」
「ごめんなさい、ちょっと、丸裸にしただけよ?
まさかこんなに恥ずかしがるなんて思わなくて」
「なんで裸にする必要ある?」
「だってこんなに引き締まったオークなんてもう会えないかもしれないじゃない?ちゃんと記録しとかなきゃ」
「記録って、」
そこにオタルがボソリと言う
「絵、書かれて」
普段から赤い顔がさらに赤くなったようだ。
「フレイヤちゃんもみる?」
「ダメですよ!やめて下さい!」
オタルが焦りふた喚く、ヴィンセントに揶揄われているようだ。
「ね?可愛いわねー、ねぇフレイヤちゃん」
「シュミ悪い」
談笑の後、フルドがいないことにオタルが問いかける
「あれ?フルドは?」
「街に行ってる」
「じゃあ、フレイヤちゃん私の部屋までいい?何枚か書類があるから」
「わかった。」
「フィル、オタルちゃん見ててね」
「はい」
「一緒じゃダメなの?」
「ごめんなさい、わたしは問題ないんだけど、規則上入れないのよ、ほんとごめんなさい」
「そ、なら仕方ないか、じゃあオタル待っててね」
「うん、いってらっしゃい」
そう言ってフレイヤとヴィンセントはヴィンセントの応接間へと移動する。
廊下でヴィンセントが話しかける。
「どこであの子と?」
「色々とね」
「ちなみに聞くけどあの子の見たことある?」
「オタルの?・・・・・あるわけないでしょ」
「もったいない、すっごくご立派よ」
「やめて、」
「まあまあ、スケッチみる?」
「・・・・・見るわけないでしょ」
「・・・・・あら、なにその間」
「やーめーて」
「貴方あーいう子がタイプなの?」
「そう言うのじゃないから、仕事の一環で一緒にいるだけ」
「あらあら、貴方が仕事で?・・・・そお、あの子のこと気に入ってるのね」
「ちょっと何か勘違いしてない?」
「そお?そうだったらいいけどね」
ーーーーーーーーー
「ここだよな?」
用事を終えたフルドは一足先にフレイヤの指定していた宿にたどり着いていた。
かなり大きめの宿だ。
「デッカ、いくらすんだこれ」
扉を開け中にはいる。
「いらっしゃいませ」
受付の獣人がフルドを迎える。
「すんません、エルダって人の客ですけど」
「はい、承っております。ご案内します。お荷物をお持ちしましょうか?」
「あ、はい、ありがとうございます」
受付のテキパキとした対応に慣れてないのか、
自分で持ちます。なんてことは言えずに荷物を渡す。
そのまま案内され2階の部屋の前に到着する。
受付が扉をノックする。
少し間を置いて扉が開く。
開いた扉の間から見えたのは老人の姿だった。
「エルダ様のお客様です」
受付がそう言った。
「ああ、フルドさんだったね?」
「あ、ああ、そうです」
「フレイヤ様は?」
「ギルドでオタルの許可証取ってるとこだと思います。寄り道してなけりゃすぐ来ると思いますけど」
「そうか・・・・入りなさい」
あたりを警戒しながら老人がそういうと受付は荷物をフルドに返しその場を去った。
「ビンゼルだ、よろしく。」
「あ、よ、よろしく」
「すまないが、荷物を確認してもよろしいかな?」
「・・・・・ああ、そうだよな、」
察したようにオタルはビンゼルに荷物を手渡す。
中をあらかた調べると丁寧にフルドに荷物を返す。
「すまなかった、ありがとう」
「いえいえ」
老人に招かれ部屋に入る。
広い廊下を進んだ先の扉を開く。
扉の向こうには広い部屋が広がる。
「こりゃすげえ」
自分一人では一生泊まることのない部屋を見て、フルドは息を吐いた。
その中央のソファにエルフの女性がいた。
「あれ?フレイヤオタルくんは?」
「後で来るそうだ」
「そ、フルドくん?」
「は、はい」
あまりの美貌のエルダに少しばかり緊張するフルド。
(うっわ、えげつねえ美人)
「ちょうどよかった、貴方個人にも聞きたいことあったのよ」