フーの選択
カタリナは驚いていた。
カタリナの使った毒は貴重な物だ、
アマゾネスの狩人が代々受け継いできた毒、体に入れば麻痺を起こし、量が 量ならば死亡する。
先祖が古代の大蛇から手に入れたものだ。
あのオークは確実にあの毒を受けた。
しかしどうだ、彼は少なくとも動いてた。
今そこで寝ている、魔物化したような黒髪の女魔法使いがが治療したのか。
そんな高度な解毒魔法が使える物が都合よくいるわけがない。
その可能性を捨てれば、問題はオタル自身だ。
「抗体があるのか、、」
コランは刺された短剣を疼くまり必死に保持していた。
ブジマに持たせないために、
うずくまったコランにブジマは拳を何度も振り落とす。
脇でオタルが立ち上がる。ブジマは短剣を諦めオタルに攻撃を仕掛ける。
オタルのナイフも雪の中に埋もれていた。
素手同士の戦い。
ブジマがオタルに特攻する。
振られた拳がオタルに直撃する。
いや、したはずだった。
ブジマの拳は、まるでオタルを貫通したかと錯覚するように空を切った。
何かがおかしい。ブジマはすぐさま距離を取ろうと足に力を入れる。しかし恐ろしく早いオタルの拳がブジマの胴体を打った。
かろうじて後ろに飛んだブジマだが、その痛みに顔をよがませる。
「違う、全然ダメだ」
ボソリとオタルはつぶやいた。
バンズはオタルから湯気が出ているのを目視する。
オタルの目は野獣のような眼光に変わる。
その目で深く姿勢を落としブジマを見た。
ーーーーーーー
ブジマの拳が流れる、それと同時にブジマの顎にオタルの掌底があたり脳をゆらす。
バンズ達は逃げることなく、オタルの死闘をを見守る。
徐々に形勢が逆転していく。
だが、オタルの動きは未だ頼りなく。
ブジマに斬られた腕や体の傷からは出血、
そして、毒の影響で未だ力は微力、しかし徐々に蓄積されたダメージがブジマの膝を落とした。
そこにオタルの拳が顔面に直撃、雪煙を上げながらブジマは倒れた。
オタルも限界に達していた。
その場でガクリと膝を崩した。ブジマに切られた傷からは動いた影響で出血も激しくなっている。
体力の消耗、毒、加えての出血、視界が朦朧とする。
オタルが限界の中、ブジマはまだ起きあがろうと身体を返す。
オタルの剛腕といえど、弱りきった拳では倒しきれなかった。
口から血を垂らし、足をフラつけさせながらも、オタルに近づく、応戦しようとするオタルだが、立ち上がろうと瞬間に力が入らずに前のめりに倒れる。腕も使うも立ち上がれない。
ブジマはオタルの髪根っこを掴む。オタル満身創痍で対抗するも、腕が追いつかず殴られ、意識が消えかかる。そしてブジマは、トドメを一撃を振り下ろそうと、片方の腕を振り上げた。
ドス
ブジマは視線を下に向ける。
剣の切先が胸から飛び出していた。
コランが後ろから自分の腕に刺さった短剣を抜きブジマに突き刺したのだ。
オタルの髪を離し、後ろのコランに肘打ちそして拳を入れる。
自分の胸からでたナイフの切先を見つめなが、膝を崩して、そのまま雪の中にうつ伏せに倒れる。
こひゅーこひゅーとか細い息をしながら再び起きあがろうとするが力が入らず、その場に崩れた。
オタルもコランも満身創痍、立ち上がれない。
そんな二人の姿をみて、バンズが覚悟を決めてブジマ近づく、自分のナイフを抜き、ブジマにトドメを刺しにいく。
「すまんな、言い残すことはあるか?」
バンズはブジマにそう聞いた。うつ伏せになりながら横目でバンズを見つめるブジマは息を吸った。
「・・・・殺せ」
か細い息でブジマはそう言った。
ザク、ザク、ザク
雪を歩く音にバンズは目を向けた。
そこにいたのは初めて見るアマゾネスの姿だった。
「・・・・フー」
カタリナが静かにそのアマゾネスの名前を読んだ。
フー、アマゾネスの中で一番下の階級の娘、
旅の間ブジマの慰め者にされていた女だ。
フーは静かにブジマの側に立ち、顔のそばに膝を置いた。
「・・・・・もう死ぬ・・・・」
ブジマは消えそうな声で彼女にそう言った。
「そうみたいですね」
「良かったな」
「・・・・→・バカな人ですね。貴方はオークの中じゃ優しい方なんですよ?、クリフォードに忠実すぎるだけ」
ブジマの頬に手を置く
「すみません、ナイフお借りできますか?」
フーはバンズに柔らかな表情で尋ねる。
バンズは迷いながらも、手に持ったナイフを手渡した。
その様子を遠目に見ていたミルは何かを感じた
「渡しちゃダメ!!!」
ミルが声を出した時には、もう遅かった。
サッ、と音がしてブジマの顔の前の雪に血がコボ落ち、雪を溶かした。
ブジマは目を見開いた。
フーは自分で己の首を切ったのだ。
倒れるフーの身体をブジマは限界の体を起こし受け止めた。
ブジマはその手をフーの首に当てるが、その指の隙間からフーの血が溢れ流れる。
フーは微笑みながらブジマの頬を撫でる。
皆がフーの行動に目を疑う。
ミルはクリシアから降りてフーの元に走り寄った。
深く切られた首の傷からの血が止まらない。
「フー!!!」
ミルが声を挙げる。フーのそばに駆け寄りすぐに血を止めようとする。
「・・・・・ミル」
「バカ!!何してるの!!」
「・・・・お願いがあるの・・・・この人と一緒に埋めて」
「なんで!!こんなこと!!」
「・・・・貴方ならわかるでしょ?」
ミルの止血は報われず、血は止まらない。
その姿をブジマは静かにフーを抱き、見ていた。
「・・・・ホムル・・・・サブス(亜人)か」
バンズは自分が呼ばれたと気づく
「すまないが、・・・・こいつだけでも埋めてくれないか?」
ブジマは消えいる声でそうバンズに言った。
「わかった・・・・・お前と一緒に埋めてやる」
「・・・・・・有難い」
そして、ブジマの頬を撫でる。しばらくしてフーの手が落ちる。
それを見届けたブジマは静かに目を閉じ、フーを抱えたまま、息を引き取った。
力の失った腕が静かに落ちる。
地面に転がりそうになるフーの遺体をミルは受け止め、涙を流した。
こうして雪山の激闘は静かに終わりを告げた。