アーノルド・ゲインズ
「おっすただいま」
「おかえり」
普段と変わりなく帰ってきたフルドにオタルは挨拶を返す。
「なあオタル、たしか荷物の中に石鹸あったよな」
「あ、うん、たしか、、、」
「いいって、飯食ってろよ、どこらへん?」
「たしか、右端の箱に入ってたと思う」
帰ってきたわいいが、こちらに近づいてこない、距離が遠い、声が大きい、もっと近づけば、そんな声もあげずに済むのに、
そのまま石鹸を見つけ、また森の中へとフルドは消えていった。
遅れて私は彼の気遣いに気づいた。
「あ、ああ血を落としにいったのか」
「うん、多分気を使ってくれたんだと思う、血の匂いすごかったから」
フルドの気遣いもオタルの鼻の良さの前では意味がなかったようだ。
しばらくして、フルドはほぼ裸で戻ってきた
「あんた服洗ったの?」
「まあな、結構汚れたからな」
「そ、で、殺ったの?」
「いや、・・・・あー、いや、殺ったのには変わりねーか」
「大丈夫なの?」
「分からん、森の神さんの意思次第だろうな」
「はあ、バカね」
それ以上は聞く気になれなかった。
とりあえず、再び、美味しいオタルの料理に意識を向けた。
フルドはバッシュに視線を移す
「おう坊主、仇、勝手にとらせてもらったぞ」
「あうあーぶぶぶーー」
ーーーーーーー
「なあこいつどうする?」
バッシュの家族の復讐を終えた翌日の朝、フルド商人の処遇をフレイヤ・オタルに問いた。
直接は何もしていないにしても、片棒を担いだのは確かな事実だ。
「お願いします!命!命だけは!!」
商人は必死に懇願する。それに対してフレイヤとフルドの視線は冷たい
オタルは後ろでバッシュの面倒を見ていた。
「だってよ、どうします?フレイヤさぁん」
「うざい・・・さあ、ウランダか、ハフの村にいくか」
「ハフの村ってよ、オーク1体にクエスト出すところだぞ、そもそも憲兵とかいんのか?」
「・・・・流石に憲兵ぐらいいるとは思うけど・・・・はあ、今更戻るってのも・・・」
フレイヤは悩む、せっかく数日かけてきた道を戻るのか、それとも憲兵がいるかもわからないど田舎のハフの村に連れて行くのか、第1指名手配でもないこいつを渡して報酬なんてあるのか、報酬なしに村人がこの商人をを捕まえておくというのも信用し難い、なにより村人にとっても迷惑だろう。
どうしたものかとフレイヤとフルドは悩んだ。
するとオタルが後ろから声をかけてきた。
「ねえ、フルド、フレイヤ・・・これ」
商人の服を暇つぶしに綺麗に畳んでいたオタルがその服の中からいくつかの物を見つけたのだ。
フレイヤとフルドはそれを確認した。
「・・・・・・まじかよ」
とフルドはつぶやき、フレイヤは深くため息をついた。
ーーーーーーーーーー
「いいのか?」
商人が乗る馬車の後ろ姿を見ながら、俺はフレイヤにそう聞いた。
「しょうがないじゃない、あんなの見たら」
「保険で作ったもんかもしれねーぞ」
「・・・・・」
そう、結論を言うとあの商人は逃した。理由は商人の服から出てきた物だ。
ブローチと結婚指輪、ブローチにはなんと商人と妻、そして娘の姿が描かれていたのだ。
革財布の中にはお守りのように娘の旅の安全を願う手紙が描かれていたのだ。
「俺ら、まんまと同情を買わされたのかもしんねーぞこれ」
「特定のできる方法なんてないでしょ」
「そうだけどよ」
「罰は与えたし」
「なんか、俺らが悪モンになった気分だな」
ジャラリと銭貨袋を確認する。商人から貰った、いや、押収した?いやカツアゲした・・・・言い方なんてどうでもいい、
商人の金を頂いた。逃がしてやる代金だ。
商人はこっぴどくフレイヤに怒られた。
娘がいるのに犯罪を犯したのか、
こんな汚い金で娘を育てるのか、
フレイヤは意外と人情派らしい。
罪を償う為に真っ当に家族の為に働くと誓わせた。商人は思うことがあるのか涙を流しながら、しっかりと怒られたのだった。
この後商人がどうなるかはわからない、また悪に手を染めるかもしれない。
第一に指輪やブローチと手紙はただの同情を引くために作られた嘘の品かもしれない。
ウランダに戻るの煩わしい中、殺しても目覚めが悪いし、憲兵に差し出しにしても気持ちよくない俺達は、結局この商人を見逃すことにしたのだ。
商人は泣きながら謝罪と礼をいい、真っ当に働くと誓い、ウランダの方角へと馬車を引いたのだった。
遠ざかる馬車を見送りながら呟く。
「これでよかったのかねー」
「僕はよかったと思うよ」
呟くフルドにオタルは自信満々にそう返した。
「なんでい?」
「あの手紙もブローチも沢山臭いがついてたから、多分、いつも見てるんだと思うよ。悪いことしたのには変わりないけど、多分家族のためにお金を貯めたかったんだと思う」
「絵だけど奥さん美人だったもんなー。あんな小デブが、・・・・ムカつく」
フルドが文句を呟く中フレイヤがクリシアに跨り北に向かって歩き出す。
「終わったことはもういいでしょ、早く行きましょ」
「せやな」「うん!」
3人と一人の赤子はハフの村に向かい足を踏み出し旅を再開した。
ーーーーーーーー
「あら、なかなかいいところじゃない」
緑髪を風に揺らしながらエルフの美女はそう呟いた。
眼前にあるのは港町の風景、アルタイル国との交易を結ぶ街オルマリン
フレイヤの師エルダ・クロニクルと隠密ビンゼル・トゥーラーはある目的のためにオルマリンの港街に足を運んでいた。
「賑やかねー、お、いい男はっけーん」
「遊びで来たんじゃないぞ」
「もービンゼル硬ーい、息抜きしないと身がもたないわよ、もうおじいちゃんなんだから」
「いってろ」
常時仏頂面のビンゼルにエルダは御構い無しにトークを続けながら二人はオルマリンの街を歩く。
道行く人がエルダの美貌に見とれて目線を置いていくなか、同時に多くの人の目に触れるビンゼルは居心地の悪さを感じていた。
「どうも、お前と二人きりは好かん」
「どうして?」
「人目が多い」
「そう言わないでよ、私だって傷つくのよ」
と面白そうにエルダは答える。
「・・・楽しそうだな」
「40年ぶりの旅よ?楽しまなくちゃ」
「・・・・・」
ビンゼルの沈黙、険しい表情を見て、エルダの笑顔もきえる。
「ねえ、もしかしてリリスと関係あると思ってる?」
「・・・・わからん、27年も前だ」
「ないことを祈るしかないわね」
「ああ」
ーーーーーーー
「ここがあんたの知り合いのとこ?」
「ああ」
「まさかあんたが印刷屋の創始者と知り合いとはね」
「その跡取りだがな」
「跡取り?」
「これから合うのは創始者の孫だ」
「ああ、そういうこと」
二人が訪れたのはあるギルドだった。
ゲインズギルド、30年前、活版印刷など印刷技術の大量生産の飛躍をもたらしたフライシュ・ゲインズが創始者の書籍や紙の製造まで幅広く行うポストギルドに並ぶ大手のギルド。
二人はそのオルマリン支社の門前に立っていた。身分を確認し警備兵が門を開ける。
受付嬢に案内され2階の奥の一際豪華な扉の前に案内された。
受付嬢は2回扉をノックする。
「エルダ・クロニクル様、ビンゼルトゥーラー様をお連れしました」
受付嬢が頭を下げながら業務的に2人を名を言う。
「どうぞ、エルダ・クロニクル様、ビンゼル・トゥーラー様どうぞ奥に」
受付嬢は中の返答も聞かずに扉をあける。
部屋の雰囲気は打って変わった、無駄なものがない、他の綺麗な部屋や廊下と比べて明らかにこの部屋は散らかっていた。
おびただしい書物と書類が無造作に積み重なり棚や床を埋め尽くしていた。
その中を歩くエルダとビンゼル、書類を避けて歩くエルダの足が積み重なった書類に当たり倒してしまう。
「あ、ごめーん」
「お気にならさらず」
そして部屋の奥、書類と本の壁に埋もれるように青年が机に向かいペンを走らせていた。
彼が創始者の息子アーノルドゲインズ。
ペンを止めてこちらに振り返る。
「どうもはじめまして、アーノルドゲインズです!」
「時間を取らせてしまいすみません、この度は・・・・」
「敬語はおやめください、貴方のような有名な方に使われては、私まで恐縮してしまいます。もし、よろしければ普段の話し方でお話しができないでしょうか?」
「・・・・・わかった」
「ありがとうございます、ではこちらに、ささっ、おすわりください」
ビンゼルとエルダは案内され、奥のソファーに座る。この周りだけは少しは片付けてあり、書類が倒れてくる心配はなさそうだ。
アーノルドが向かいのソファに座ったタイミングで扉が開き、メイドがトレンチを手に慣れたように書類を避けながらアーノルド達のいる席に到着した。
「こちら、東の島から買い付けた清酒というものです。エルダ様は三度の飯よりお酒がお好きと聞いたので、この場には相応しくないかもしれませんが、よろしければ。
もし、ここでお飲みになるのが心苦しいのであればお持ち帰って頂いても構いません」
「まーーー素敵、私好きよ清酒、ありがとう!」
「おい、お前、こんな時に飲む気か」
「いいじゃない、これ一本くらいなら余裕よ余裕」
目を輝かせるエルダにため息をつくビンゼル。
「申し訳ありません、ビンゼル様な好みは私の力不足で知ることができず、とりあえず、東の島国な緑茶というものをご用意させていただきました。お口に合わずご所望のものがあればおっしゃって下さい、すぐに用意させて頂きます」
「お気遣い申し訳ない、こちらを頂こう、茶は好きだ」
「それは良かった、では、早速ですが本題に入らせて頂きたい」
つり目の青年アーノルドは子供のように目を輝かせながら、その本題映る。
ーーーーーーーー
「・・・・成る程、オークの軍勢、そしてクリフォードですか」
「お主は情報を集めることに関しては世界一だとな」
「世界一とは言い過ぎだとは思いますが、・・・・私も父から貴方のことは聞いておりますよ、床についてからよく貴方のことを話していましたから」
「・・・・そうか」
「話を戻しましょう、申し訳ありませんが私もそのクリフォードに関してはまだ調査中でして、お二人の望むような情報はまだ入手しておりません、幻のオークの群れを率いる何者か、としか・・・・」
「どんな小さいことでもいい、」
アーノルドはアゴに指を添えて考える。
「・・・・そうですね。お役に立てるかわかりませんが、私の見解をお話ししてもよろしいですか?」
「ああ」
「クリフォードとは人ではなくオークでないかと私は思っています」
「どうして?オークにそんな群れを管理できる能力がある?」
アーノルドの見解にエルダは酒を飲む手を止める。
「普通はあるとは思えません。しかしそれは別の誰かが考えればいい、部下にヒュムや亜人種がいてもおかしくはありません。」
「オークの部下になるような奴がいる?」
「オタルハッシュドアならばどうですか?」
オタルの名が出た瞬間、ビンゼル、フレイヤの目がアーノルドに集中する。
「・・・・あの子のことまで把握済みってことね」
「はい、とても興味をそそられる存在でしたので、できうる限りで情報を集めております」
笑顔が固定されたようなアーノルドの顔がさらに嬉々とした表情になる。
「そうです。オタルハッシュドアの存在を知ればオークにオーク以外の部下がいてもなんらおかしくない。むしろ、オタルハッシュドアのような強さと人柄であれば喜んで着く者もいるでしょう。
クリフォードと名乗るオークの頭目は、カリスマ性のあるオーク、若くは、部下に知恵の回る亜人、魔族、もしくはヒュムがいる・・・・・私としてはクリフォードというオーク自身に高い知能がある。・・・・と見解・・・いえ、そうであってほしいと、まあ少なくとも私はそう予想しています」
「そうあってほしい?」
「はい、そちらの方が、楽しそう、盛り上がりがあるとでも言っておきましょうか」
エルダはなんとなくこのアーノルドという人間を理解した、ような気がした。
「・・・・・そ、他には?」
「そうですね、私もその群れを調べておりましたので、大体の検討は出来ております。まあ、あくまで予想ですが、南、アマゾネスの森と呼ばれている付近、具体的に言えばテトの遺跡の更に南の未開拓地域、
オタルハッシュドアが討伐したオークのほとんどが、その地位、まあ欲求ですね、それ目当てのオークか、逆に群れから逃げてきたオークでしょう。
驚くべき事です。目先ではなく、更に先の目標に向かって行動するということは、私達と変わりないと言うことになります。
オークは進化している。
おそらくですが、ここ最近になって知性の強いオークが沢山出てきている。
そしてアマゾネスの森、
さて、この予想が正しければ、知性の強いオークの母体はどこから仕入れるのでしょうかね?
アマゾネス、数少ない片性種、面白いですね。
片性種のオークとアマゾネス、生まれてくるのはオークかアマゾネスか、、それとも違う新個体か、、実に興味深い」
これは、、なんとも興味をそそられます」
アーノルドは長いセリフを噛まず早く、そして楽しむように饒舌に話す。
「クリフォードはオークの国でも作ろうとしているのでしょうかね?」
アーノルドは細い目を開きながらニコリと楽しそうに話した。
オークの国を作る、その単語にビンゼルは不安を覚えた。
ビンゼルの表情を見てニコリと笑うアーノルドは再び話をし始める。
「ビンゼル様には父の恩を返さなければいけません。他に知りたい情報はございませんか?
無料で提供させていただきます」
ビンゼルは考え込み知りたい情報を選ぶ。
するとアーノルドの口から予想もしなかった名前が出た。
「例えばフルドキャンセムについてでも」
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