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鉄腕オーク   作者: 利
オークと魔女と異世界人
17/70

バッシュの形見

「・・・・・・そうか、ダメだったか」


泥だらけになって帰ってきたフルドがポツリと呟いた。


空気が重い。感の悪いフルドでもすぐに察することができた。


目を腫らしたオタルが赤子をあやし、後ろでフレイヤが母親の汚れた体を綺麗に吹いてあげている。


「・・・・お帰りフルド」


最初にフルドに声をかけたのはオタルだった。

今にも、泣き出しそうな声だ。


「ああ」


「スープ美味しかったって言ってた」


「・・・・そうか」


フルドは母親のために作ったスープをひと掬いし、口に入れた。


「・・・・まあ食えるがけど、美味いかよこれ・・・・」


空笑い。

フルドのスープの定評に誰も何も答えない沈黙の中再びフルドが呟いた。


「・・・・こうなるならもっと、美味いの作ってやればよかったな・・・・」


その言葉にオタルはフルドに目を向ける。


「・・・・・嘘じゃないと思う。本当に美味しかったんだと思う」


「・・・・そうですかい」


よっこらしょと再び立ち上がったフルドは帰ってきた道に体の向きを向け、歩みだした。


「フルド、どうしたの?」


「母親の墓掘ってくるわ、まあ一人ぐらいなら問題ねーよ」


「ぼ、僕が行くよ、フルドは休んでて」


「いいって赤ちゃん頼むわ、俺世話したことねーし」


背中を向けたまま手を振りフルドはオタルに答えると、そのまま、森の暗闇に消えていった。


残されたオタルとフレイヤと赤子、しばらくの沈黙の後、母親の身体を汚れを拭き終えたフレイヤが焚き火に戻る。


「・・・ねえ、お腹減った」


「ああ、はい、すみません、今作りますから」


「それやめて」


「え、えーと」


キョトンとオタルは目を開いた。

何か悪いことをしたかと不安がよぎる


「敬語、使えないのも嫌だけど、ずーと使われるのもいや」


「・・・・・う、うん・・・わかった」


「手伝うことある?」


「・・・いいよ、疲れてるだろうし休んでて・・・」


「何かして気を紛らわせたいの」


「・・・・じゃあ、僕が切るからそれを炒めてもらってても、」


「わかった、赤ちゃん頂戴、片手じゃ切れないでしょ?私は片手でできるから」


「あー、うん、その・・・」


「なに?」


「バッシュ・ハントって言うんだ、この子の名前」


「・・・・うん、わかった」


フレイヤは悲しく笑みを浮かべながら、オタルの腕から赤子を抱き上げた。



ーーーーーーー



翌朝4人は、襲撃にあった場所、そしてフルドとフレイヤが掘った墓に集まっていた。


「バッシュ・ハントね・・・よかったな奥さん、旦那の隣に埋めてやれて」


「旦那わかるの?」


「ああ、ハントってのは猟師によくある名前(苗字)なんだよ、で、この奥さんの隣が猟師の墓だ、ほぼ間違いねーよ」


「わかるの?」


「手見りゃな」


「そ、それじゃ、早く埋めてあげましょ」


「せやな、・・・バッシュ、お別れ言っとくか?」


そう言ってフルドは後ろにいるオタルとバッシュに視線を向ける。


オタルは墓穴に入った母親の亡骸にバッシュを近づけた。するとバッシュはペタペタと母親の頬を触る。



こんな歳の子が死を理解できる訳がないとわかっていても、その光景に三人の心を動かされた


「・・・・・・」


フレイヤは見てられずに目を瞑り、顔をそらした。


オタルは、子と母を見つめながら、再び静かに涙を流した。

そして、ある匂いに気づく。


「・・・あ」


「どした?オタル」


「・・・・・・・うんこしてる」



ーーーーーー



オタルがバッシュのオシメを変え、

フルドとフレイヤが丁重に母親を埋葬し終え。


早めの昼食を作り始めた。


「ねえオタル、こんな感じ?」


フレイヤが茹でた芋と人参を潰していく。


「うん、そんな感じ、ドロドロになるまで」


バッシュをあやしながら、オタルはスープを作る。


「了解、てか塩とか入れないんだっけ?」


「うん、入れない方がいいと思う」


食卓じみた光景、今では普通の光景だ。

オタルも敬語を使わないことにいつのまにか慣れていた。


このような光景は他の一般人からすれば異質なものだろう。


と、フレイヤは感じながらも、自然と違和感なく作業を続けた。


しかし、そこにはフルドの姿がない、

母親の埋葬が終えた後に、


「ちょっと予備の肉狩ってくるわ」


と、そう言い残し森の中に消えていた。


オタル、フレイヤ、バッシュが、食事を終えた頃。ようやくフルドが森の奥から姿を現した。


「よ!ただいま」


森から帰還したフルドにオタルが「おかえり」と残していた料理をフルドに渡した。


スープのズズズと飲んでいるフルドにフレイヤが睨みを効かせた。


「肉を獲りに行ったんじゃなかったっけ?何もないみたいだけど」


「えーとな、まあちょっとねー」


「無能??それとも何かあった?」


フルドはスープをもう一口飲み干して余韻に浸る。


「先に質問だ、お前らはどうしたい?」


「どうしたいって?」


オタルはフルドの質問がイマイチわかってなかった。


「すぐに追いつけるの?」


それに対してフレイヤはフルドの質問の意味を理解していた。


「え、どういう」


「オタル、お前はこれからどうしたい?バッシュのことだよ」


「え、うん、この子を安全なところに引き取って・・・・・」


オタルは口が止まった。バッシュの寝顔を見ながらしばらく考え込んだ。


フルドとフレイヤはそんなオタルが言葉を発するのを静かにまった。


「・・・・・ここを襲った人たちを追いたい。

償わせたい」


「よし決まりだな」


フルドがぐっとスープを飲み干す。そして素早く片付けを始める。


「じゃあ、フレイヤその子頼むで」


「え?何言ってんの?バカなの?」


「はあ?次の町にお前が連れてくにきまってんだろ。お前ならその魔法かなんで、その子守るの楽勝だろ?ウランダに行ってこいよ」


「はあ?なにそれ私もいくに決まってんでしょ」


「ばーか、俺は世話できねーし、オタルは街町入れねーだろが、それともその子も一緒に連れていくのか?」


「ええ、そうよ」


「え、バカなんですか?危険でしょ?」


「バカな上にアホね、私にかかればこの子を盗賊から守るくらい簡単!」


「おい、オタルさんオタルさん、この人こんなこと言っちゃってるんですけど、」


「え、えっと、じゃあまず子を町まで連れて行ってそれから追うのは・・・・」


「そりゃダメだ」


オタルの提案にフルドは即答で拒否した。


「・・・・どうして?」


「バッシュの親の形見だよ、その母親の指輪、多分結婚指輪だろ?父親は持ってなかった。盗られたんだと思う。猟師ってのは子が生まれたらナイフと弓を作ってやるんだ、鞘に家族全員で彫刻してな、弓も同じように作る。最低限でも弓、ナイフ、指輪を取り返す!


どっかに売られたら足がわからなくなる。

その前に急ぎたいだろ」


「・・・・・・・」


猟師に育てられたからこそ知っている情報。

バッシュに親の遺物を残してやりたい。

それはオタルもフレイヤも同じ思いだった。


「でも私は行くから、もうこのまま追うしか残ってないからね、急ぎたいんでしょ?それにウランダみたいなところで孤児がまともに育つ訳ないでしょ」


「おい、聞き分けなさすぎだろ、オタルいいのか?」


フルドの言葉にオタルはどちらが最善か分からずキョトンと困り果てる。


「え、で、でも、僕が決めていいの?」


「俺は世話できねーし、責任取れないしな、お前が連れて行くっていうなら、2対1でそうするしかねーしな」


「・・・・・・」


考え込むオタル、バッシュの安全とバッシュの両親の形見の奪還に天秤が揺れる。

そんな中フレイヤがそっと、オタルからバッシュを取り上げた。


そして、オタルとフルドが言葉を発するまもなく馬のクリシアに軽々と跨った。


「なにしてんの?急ぐんでしょ?どっちか教えて」


もう答えは決まったかのようにフレイヤとバッシュとクリシアは歩き出した。


オタルとフルドは顔を見合わせる。

オタルは決心し、フルドが深くため息をして、後に続いた。


「なあオタル、頼んでいいか?」


「ん?」


「俺を背負って言った方が早いよな?」


「うん、まあ多分」


「じゃあ、すまん今回は頼むわ」


「うん、わかった」


オタルの太く長い腕が、フルドをバックごと脇に抱える。その光景を見たフレイヤがプクリと笑う


「ダッサ」


「うるせぇ、こんまま北西だ」


「うん!」


オタルに抱えられたままのフルドはしかめっ面で返す。


オタルは強く頷くとクリシアと共に力強く走り出した。















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