2話 ロボットは動かない
青は小さいころから近所に住んでいて、ずっと仲良くしてきた親友だった。
「青?」
『その声は……唯? 良かった! 唯だけいないからどうしたのかと思ってた』
「青こそ大丈夫?」
『元気いっぱいだよ!』
「相変わらずだな」
モニターいっぱいにVサインが映される。唯は笑いこそしなかったが、頬の筋肉のゆるみを感じた。青を見ると元気になる。
お互いの安否を確認したところで情報を交換し合った。彼女もその他のクラスメートも、知らない間に広い部屋に閉じ込められていたという。唯と状況は同じだ。
『どこの誰だか知らないけれど、唯をこんな目に合わせたやつは許せない。見つけて殺す』
青は拳を勢いよく掌に打ち付けた。パンと小気味良い音が鳴る。空手部で鳴らしている筋肉は伊達ではないようだ。
「そんなに目を吊り上げたら美人が台無しだ。男子が怖がってるよ」
『あたしが唯のためなら鬼になることを知ってるだろ』
「やりすぎることもね」
『それって、愛じゃね?』
「まあほどほどに」
青は、ばつが悪そうにウインクして舌を出した。彼女にはこういうところがある。唯に向ける惜しみない愛情と、唯の敵だと認識したものに向ける鋭い殺意。その切り替えが早すぎて二つの人格があるのではないかと疑ってしまうときがあるくらいだ。
「まとめると、39人のクラスメートが校庭のグラウンドくらいの広さの部屋に閉じ込められているってことか」
『そう。天井も床も壁も金属。叩いたり蹴ったりしたけど壊れなかった』
モニターの奥で男子たちがうなずいている。本当に試したようだ。青に不可能なら彼らには到底破壊できまい。
「他に何かないか?」
『一番目立ったのは、これだったな』
青は唯を指さした。
『ロボットが部屋の中心にあったんだ。最初はみんな怖がってたけど、特になにもしないって分かってからはいろいろ調べてみた。結局、収穫はなかったけど……唯の声以外は』
青と勇気ある男子数人がロボットをいじっていると、突然に目が光り出したという。おそらくこれは40番のモニターが映されたときに一致するだろう。そしてしばらく呼びかけていると唯と会話ができるようになったらしい。
ロボットと40番がつながっているという話は興味深かった。どうにかしてロボットを動かす方法があるのか、もしくはロボットが生徒を部屋へ連れてきたのか、疑問はつきない。
『もう一つ、まったく使い道の分からないものを見つけたんだけど、見る?』
「見ない」
『見ろよ!』
「見るか……」
モニターいっぱいに4桁の数字が書かれたプレートが映された。彼女によると、このプレートとロボットの他には部屋に何もなく、数字が何を意味しているのかもまったく分からなかったらしい。
この数字の使い道には一つ思い当たる節があった。モニタールームの扉の横には、暗証番号を入力するためのキーが埋め込まれていたのだ。