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そらのそこのくに せかいのおわり 〈Vol,04 / Chapter 04〉

 そこは青い世界だった。しかし、予想に反して浜辺ではない。深い、深い、海の底。水面からの光も届かぬ、ディープブルーの空間である。

(……なんだ? ここはいったい……?)

 どのような場所であれ、光が届かなければ、普通は闇に覆われるものである。それなのに、ここでは目が効く。透明度の高い水は空気のように、何の苦もなく、はるか遠くを見通せる。

 見渡す限り、何もない。

 魚も、海藻も、そのほかの生き物も、構造物も――何一つ見当たらない。

 誰もいない青い海と、どこまでも続く砂地の海底。

 ここは、ただそれだけの世界だった。

(息はできるが……だが、抵抗はあるのか……?)

 海底を蹴って前へ進もうとすると、手足に水の重みを感じる。

 ある程度の浮力があり、地を蹴った瞬間、何とも表現しがたい感覚とともに体が浮き上がる。

 ふわりと着地すると、足元の砂は柔らかく巻き上がる。

 ゆっくり、ゆっくり落ちてゆく砂粒。それらがすべて落ち切ると、世界は再び、青一色の静けさに包まれる。

 水を伝わって響く、ザザーン、ザザーンという波音。それははるか彼方から運ばれる、『外』の音のようだった。

「……お招き有難うございます。あの……貴方は、どこにいらっしゃるのですか?」

 マルコの声は、空中とは若干異なる響き方をした。

 空気以上に音を伝える水の振動。それはマルコの視界には入らない遠方――途方もなく遠い場所にまで届けられる。

 だがその『遠方』に誰もいなければ、すべては無駄な呼びかけである。

(……ああ、そうか。だから、名前を手放したのか……)

 確かにここは美しい。穢れ無き水、曇り無き青、純白の砂――しかし、誰もいない。


 光も闇もない、孤独な波の底。


 鳥肌が止まらない。

 こんな世界で、何年も、何十年も、何百年も――時の流れを忘れるほどに何千年も、たった一人で存在し続ける。『心』を持つ者に、そんなことが可能なのだろうか。

 自分だったら、三日ともたずに発狂してしまう。

 マルコはそう思い、不安に駆られた。

「あ、あの! どこですか⁉ 貴方は、どこにいらっしゃるのですか⁉」

 返事はない。

 それから何回も、どれだけ大声で呼びかけても、どこからも答えは返ってこなかった。

 マルコは泣き出す寸前だった。

 必死にこらえているが、もしも泣いてしまったら、自分を保っていられないと思った。

(これは……玄武の闇とは違う。この世界に闇はない。闇はないけれど、でも……)

 決して、光がさすことも無いのだろう。

 玄武の心の世界は、夜明け前のような薄明るい闇だった。誰かが手を差し伸べて、彼の心に寄り添う。ただそれだけで、長い夜は明けたのだ。

 けれども、この世界は違う。明ける夜も、暮れる日もない水の底。声を届ける手段はあるのに、受け取ってくれる人がいない。何をしても、何を言っても、見てくれる人も、聞いてくれる人もいない。


 寄り添うべき相手すら見つからない、途轍もない大きさの孤独。

 ただそれだけが存在していた。


 名前の無い相手に、マルコは、呼びかける術を持たない。

 途方に暮れて座り込む。

 どうしたら、この世界の主に会えるのか。いくら考えても、良いアイディアなど一つも思い浮かばなかった。

「……誰でもいいから、誰か……」

 握り締めた砂粒は、指の間をすり抜けて、ゆっくりと落ちていった。


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