そらのそこのくに せかいのおわり 〈Vol,04 / Chapter 01〉
六月十三日、金曜日。
十三という数字と金曜日が重なると、何か悪いことが起こるらしい。
数十年前に異界から持ち込まれた一冊の本によれば、著者はその日野犬に追われ、必死に逃げていたらドブに片足がハマり、ほうほうの体で大学にたどり着いたところ、意中の女性に『なんかドブ臭いから寄らないで』と言われてしまったらしい。
実際に悪いことが起こっているのだから、不吉な日であることは確かなようだ。
手書きで記されたその本は、当初はただの日記と思われていた。しかし分析が進められるうち、次第にそれが日記などではないということが判明する。
当時の地球、日本という国の年号は昭和。
昭和四十四年一月一日から書きはじめられたその本には、東京大学生二年生、二階堂階二のごくありふれた日常の様子が綴られていた。
寮母さんの料理が美味しかったこと、通学途中に猫に餌をやったこと、友人に貸した五百円がなかなか返ってこないこと――本当に他愛ない、なんのとりとめもない文章だった。
一日につき三~四文。細かい文字で隙間なく書き込まれた、読み返しづらい日記帳。
そんな文章が延々と続くこと百年分。本当に延々と、ただ延々と――二階堂階二の私生活の様子が続く。
大学二年から書き始めて、その先百年分。
そう、おかしいのだ。
こちらの世界に持ち込まれた時点で、あちらは昭和六十年。西暦ならば1985年だ。1969年から百年分の日記など、存在するはずがない。
ネーディルランドに持ち込まれた日付ははっきりしている。これは当時の特務部隊長が任務の一環として地球に赴き、その他の書籍類とともに持ち帰った品である。
〈地球・日本標準時1985年8月12日18時20分。
相模湾上に構築したゲートから本国に帰還。
これにて地球偵察任務を完了する。〉
特務部隊の活動日誌に、確かにそう記されている。
そして二階堂も、その日を境に、生活の場を地球からネーディルランドに移している。
〈八月十三日、火曜日。
この世界は本当に不思議だ。
人間のようでいて、少し異なる人々が生活している。
このジョージという人は、人間ではないのだろうか?
時折、瞳の色が茶から青に変化する。〉
日記を読む限り、二階堂は当時の特務部隊長、ジョージ・メイソンとともにあらゆる現場に赴いている。
もちろん、そんな男はいなかった。誰の記憶にも存在しないし、どんな事象にも介入した形跡はない。
謎の男、二階堂階二。彼の日記は西暦2069年まで、一日も休むことなく書き続けられている。
いつのころからか『予言書』と呼ばれるこの日記、今は王立騎士団の旧本部庁舎で厳重に保管されている。幾重にも施された結界の内側で、誰の手に触れることもないように。
それでも本は予言し続ける。
たとえば今日、六月十三日の日記はこうだ。
〈六月十三日、金曜日。
今日は朝からひどい雨。
足を滑らせて王子が怪我をした。
玄武の加護は、こういうことには適用されないらしい。
もっと大怪我しそうなら、助けてくれるのだろうか?〉