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作品案内人

作者: 風白狼
掲載日:2014/07/31

 いらっしゃいませ。遠路はるばるようこそおいでくださいました。(わたくし)、今回あなたをおもてなしさせていただく作品案内人でございます。この屋敷の作者、と申し上げた方がわかりよいかもしれませんね。

 おや、ずいぶんと怪訝な顔をなされましたね。作者自らがこんな場所に出てよいのか、と。何をおっしゃいます。この屋敷を創り上げたのは私。であるならば、構造を知っている私自らがあなた様を導くのは当然のことでございましょう。もっとも、作者(われわれ)というものは普段はあなた方から見えない場所でこっそりそのお役目を務めさせていただいてますがね。

 ああ、私ですか? 私めは今回、こうして読者(あなた)様の前で案内するのも良いかと思いまして、こうして現れた次第にございます。



 さあ、いつまでも入り口で話し込んでいる訳にも参りませんし、どうぞお上がりください。私めが誠意の限りを尽くしてご案内いたします。ああ、それから、入り口の扉は閉めませんので、私の案内に飽きましたら、どうぞご自由に退出なさってください。進むのは少々時間がかかりますが、帰るのはあっという間ですよ。その辺はご心配なさらず。

 足を止めて、どうされました? ああ、このお屋敷が暗すぎて何も見えない、明かりといえば私の持つランプだけで心許ない、そうおっしゃるんですね。客人をもてなすのに不相応だと。お気持ちお察しいたします。ですが、全てを明るくする訳には参りませんのです。

 あなた方は仕掛けまで全部記された地図を持って、お化け屋敷に入るのですか? 違うでしょう。何があるのかわからないまま行くからこそ、楽しいというものです。いえ、ここがお化け屋敷だとは申しませんが、感覚は同じでございましょう。

 もちろん、暗いままでは危のうございます。ですがご安心ください。私達は少しずつこの屋敷(さくひん)を照らすことができるのです。ほら、足下に光を灯し、壁のろうそくに灯を付けることもできます。このようにあなた方がこの屋敷で道に迷わないよう案内するのが、作者(わたくし)の最大の務めであります。



 では参りましょう。足下にお気を付けてください。そこに段差がございますよ。靴ですか? 履いたままで構いませんよ。裸足では何を踏んでしまうかわかりませんし、ね。

 さて、ただ道順を示すだけでは面白くないでしょう。ですのでこちらをご覧ください。今明かりを灯した場所に、何が見えますか? その通り。竜を模した石像にございます。あれは私が手間をかけて作り込んだ装飾でして、私としても気に入っているのですよ。どうぞ飽くまで眺めてください。私はここでお待ちしますから。

 お次はこちらの回廊です。見ての通り、いくつかの絵画と花を飾ってあります。どれも私が作り上げ、育て上げた物にございます。アイディア自体は余所から借りてきたこともありますが、こと創作物においては私自らが作りました。それは自信を持って言えることです。


 回廊はまだ続きますよ。こちらです。……どうされました? ああ、私の灯す光が弱くて全体的に暗いのが気になる、と。申し訳ありません。これは私の“趣味”でして。最低限の弱い光でもって全ては見せない、それが私の流儀なのです。

 皆が皆、こうというわけではありませんよ。煌々と照らすのがお好きな方も当然いらっしゃいます。明かりの間隔も作者次第です。どのように読者(あなた)方を案内するか、それはこちらに委ねられているということです。

 とは言っても、好き勝手にやり過ぎればあなた方を混乱させてしまうことになりますから、それだけは留意してご案内させていただいております。それがわからずに明かりを灯してしまうような方は、残念ながら考え方を改めていただく必要があるでしょうねえ。読者というのは我々にとって、もてなすべき客人でございます。客人を困らせてしまう主催者ではいけないのですよ。


 長々と話し込んでしまいましたが、こちらが広間になります。何も見えない? そう事を急いてはいけませんよ。先ほどお話ししたことを説明しながら、ゆっくりと案内しますから。

 先ほどから何度も申し上げている通り、作者はこの真っ暗な屋敷に明かりを灯し、読者様を案内するのが一つの重大な役目でございます。あなた方を困らせることがないよう気を配りながら、いかにあなた方を楽しませることができるか。それこそが我々作者の腕の見せ所というわけです。

 では広間をご覧ください。石像やテーブル、チェストや飾り皿が見えるでしょう。ですが断片的な明かりで、どう進めば良いのかわからないことと存じます。明かりの近くに行くこともできましょうが、暗闇の中に落とし穴がないとは限りません。もしくは、ワニが寝そべっていることもあります。ああ、そんなに怖がらないでくださいな。あのワニはあくまでも剥製、動くことはありません。光加減で本物に見せかけることはできますが、あなたを食べてしまうことはないのでどうぞご安心を。

 それからあちらをご覧ください。柵で区切られた向こう側に、小さな池が見えるでしょう。落ち着いた和風の池を、色とりどりのスポットライトとミラーボールで派手に演出しております。ええ、なんとも意味不明で悪趣味な装飾でしょう。なんでこんなものを見せるんだと、そういうお顔をなさってますね。私めもこんなものは見せたくなかったのですが、今回は説明のためにあえてやらせていただきました。おそらくあなた様も、このように意味不明な装飾を見たときはさっさと屋敷から出て行ったのではないでしょうか。

 ともかく、読者様の混乱を避けるため、私どもは筋道だった道案内をさせていただいているのであります。歩いて欲しい場所を綺麗に繋いでやれば、あなた方が迷うことはありませんからね。もしくは、この広間全体を明るくしてやり、読者(あなた)の好きなようにたどってもらう、というのも一つの選択ですね。その辺は作者の趣味でもあるでしょう。

 しかし暗いか明るいかで印象がずいぶん違うということは、ご想像に難くないことと存じます。例えばこの飾り皿。明るく照らしてやれば細かい装飾に気付き、じっくりと鑑賞することができます。作者として気に入っている部分を読者様と共有するのであれば、明るい方がよりよいでしょうね。

 では暗いのはどうかと言いますと、あなた方に想像してもらいたいときに有利となります。あちらの石像をご覧ください。今は足下だけを照らしていますが、あなたはそこからどんな人物であるかをおぼろげにも想像できることでしょう。どんな服を着ているのか、どんなポーズをしているのか、どんな顔をしているのか――あなたは自由に想像できてしまいます。私が特に説明せずとも、あの暗闇の中にある物が何か、捉えることができるでしょう。まあ、実際に照らしてみれば実は首がありませんでした、なーんてことはしょっちゅうあるのですがね。



 さあ、こちらが階段でございます。足下には十分お気を付けてくださいませ。ここからは急展開、二階のお部屋を案内しようと思っております。

 そうそう、一つ言い忘れておりました。あなたが見ている物は、必ずしも作者が作った物であるとは限りません。最初の説明と矛盾している? いえいえ、そんなことはございませんよ。あなたの見た物はあなたが見た物でしかない、ということです。私が全く同じ屋敷に招き、全く同じ案内をしたとしても、あなた方がこの屋敷をどう捉え、どう考えるかは人それぞれでございましょう。全てにおいて全く同じ考えを持っている訳でも、趣味嗜好が完全一致する訳でもありませんから。

 先ほどの広間におかれましても、どの内装がお気に召したか、それを見て何を思ったかはあなたの自由です。さすがに道順に影響を及ぼすほどの勘違いをされると困りますが、そうでない以上はお好きに遊んでくださって構いません。


 さて、先ほどから私は白い光であなた様をここまで案内してきましたが、実は親切ご丁寧に白色灯のみで照らしてやる必要性はないんですよ。必要に応じて赤でも青でも緑でも、様々な光を駆使して案内することもできます。

 そうですね、まずは青い光で照らされたあちらの籠をご覧ください。籠の中にはたくさんの丸い物体が入っているでしょう。そして、それは黒色に見えているはずです。では今度は赤い光で照らしてみました。どうです、黒かった物体が赤色に見えたでしょう。最後に白い光で照らしますと――もうおわかりですね? 籠の中にあったのはリンゴでした。ですが、光の色で印象が変わったことでしょう。

 おや、教えてくれるのなら最初から白い光で照らして欲しかったと、そうおっしゃるのですか。しかしそういう訳には参りません。先ほどの遊戯はミスリードの一つ。最初から犯人とトリックのわかったミステリなんてつまらないではありませんか。作者は読者を騙してこそ、作品をより魅力的に仕上げることができるのです。

 何を怒っていらっしゃるのですか。騙したなって、あなたも騙されること覚悟でこのお屋敷に訪れたのでしょう? むしろ、騙されるのを楽しみにしていたはずですよ。見え透いた罠だけあったところで、あなたはつまらないと一蹴してしまうでしょう。それよりは、どっぷりとはめられてしまう方がお好きなんじゃないですか?

 意地が悪い? それはそれは、お褒めいただき光栄に存じます。ええ、私めはあなた方が騙されてくれることを期待して、屋敷を作り案内しておりますゆえ。せっかく読者(あなた)様を驚かせ楽しませるのですから、少しくらい意地悪な方が都合が良いではありませんか。



 もう少しで二階に着きますよ。おや、息を切らしておいでだ。ふむ、少々この階段を長く作りすぎましたかね。あるいは段差が急だったか。ともかく、作り直しを検討した方が良いかもしれませんねえ。ああいえ、こちらの話ですので、お気になさらず。

 おっと、そちらではありませんよ。階段が続いてるから行ってみたいのですか? 残念ながら、そこから行くことはできません。なぜなら、この階段はそこで途切れているからです。それでも行きたいというのなら止めませんが、あなた様の安全は一切保証できません。私は忠告しましたよ。それでも行きますか?

 道が途切れているとはけしからんとおっしゃるのですか。ふふ、まあ今のままではそう見えるでしょうが。ともかく、こちらにいらしてください。一見何の変哲もないこの鏡。これに手をついてください。行きますよ? せいっ!

 ……驚きましたか? そう、先ほどの鏡は文字通り『どんでん返し』でございます。意外な場所から次の道へと繋げる、ストーリー構成の技法(しかけ)ですね。もちろんまだまだ仕掛けはございますよ。ですが、ここで種明かしするのは無粋というものです。最後までお付き合いいただけたら、自ずとわかるでしょう。



 さあ、こちらが二階のお部屋です。今明かりを付けますね。なんだか殺風景で、得体の知れない内装ばかりが転がっていると。そうおっしゃりたい気持ちはお察しいたします。ええ、そう思うように作った部屋でございますから。では床に描かれたあの円の中に入っていただけますか? そう、そこです。さあ、いってらっしゃいませ。

 少々手荒なことをしてしまいましたね。ご無事ですか? 見ての通り、ここは先ほどあなた様を案内した一階の広間でございます。そして先ほど見せたときよりも明るくなっていることに気付いたことでしょう。私はこれで伏線を回収いたしました。おぼろげに見えていただけの部屋の全貌がはっきりしました。どうぞ先ほどとは違う広間をご鑑賞くださいませ。

 こうして明るくなりますと、別の通り道があることに気付いたでしょう。あなたが気にしていらっしゃる、いかにも地下に続いていそうなあの扉ですよ。おや、怖じ気づいたのですか? 最初に申し上げましたとおり、帰るのは簡単ですから、お嫌ならここで引き返してくださっても構わないんですよ? それでも行きますか。それはようございました。

 ほら、この階段から地下に降りますよ。足下には気をつけてくださいね。ここから先は道が狭く、少々通りにくくなっております。根気がなければ惑い溺れてしまうやもしれません。私は最後まであなた様を導きますが、どうぞ見失うことなきようお願いいたします。






 ようやく出口となりました。あの扉が最後の終着点となります。私の務めはここまで。あの扉はあなた自らが開いてください。その先に何があるのか――それは読者(あなた)の答えであり、作者(わたくし)が及び知らぬことであります。

 ここまでお付き合いいただき、お疲れ様でした。お代は結構ですよ。私はアマチュアであり、お金を取るほどの者ではありません。ですが、楽しませてくれたお礼をしたいというのであれば、本日の屋敷探索のご感想をお聞かせ願えればと存じます。

 それではごきげんよう。またいつか、私の屋敷を訪れてくださることを心待ちにしております。

 作品を作ると言うことについて考えていたら、こんなイメージでまとまったので書いてしまいました。意味があったのかと言われると答えられません。指南書を書きたかった訳でもありません。

 ですが、作者にしろ読者にしろ、何か感じ取っていただけたら嬉しいです。

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