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盗人3

その時になって初めて

わかることがある

感じることがある

出来ることがある


悩んだらとりあえず

やってみればいいのではないか


死なない限りは経験値となって

自身に蓄積されるのだから


チリンチリンリン……


「~~~っ、くそっ」


鈴の音と一緒に少年のうめき声が聞こえる。たぶん、鈴の音に気がついてはずそうと頑張っているけどはずれない~~っ、てところだろう。ミーシェによると何か小細工がされていて、なかなかはずれないようになっているらしい。それと音も……


チリーンチリンチリ……


本当によく響く。


鈴の音に集中しようと眼を瞑ると、感覚が研ぎ澄まされた。木々のざわめきや風を切る音が排除され、鈴の音だけが聞こえる。あの少年がどこにいるのか手に取るようにわかる。向こうの世界でもよくこうして猫を探して……こほん。


「ぅっし、行くか」


すっと体勢を低くすると、おもいっきり地面を蹴った。服装のおかげもあってか体が軽い。久々の全力疾走に胸が躍る。ずっしりとした重荷が下りた感じ。狭い狭い檻から解き放たれた感じ。


なぜか、元の世界と何もかもが違うように思える。環境も、状況も、俺の精神も、何もかも。本当に気持ちがいい!自由とはこのことなのかと思うくらい清々しい。


そして新たに俺の中で生まれた感情……逃げ回る奴を追いかけるのってこんなに楽しいの!?なにこれ!!!


「フゥーーっ!テンション上がるっ!!」


だんだんと鈴の音が近づいてくる。


「っしゃあーーー、俺からは逃げられないぜ、このクソ坊z……あ。」


今なんか蹴ったな。


「う゛っ……」


一瞬、少年の姿が現れて、また消えた。


チリンチリン……


「……頑張るじゃねぇか。待てこるらぁっ!!」


チリンチリンチリンチリン


「うあっ」

「あ。」


チリンチリンチリン


「おふぅっ」

「おお。」


チリンチリン


「あうっ」

「よし。」

「いいかげんにしろよ、てめぇぇぇぇえ!!」


とうとう目の前に少年が姿を現した。……ボロボロなのは俺のせいではない。自業自得だ。


「何回も何回も蹴りやがって!痛てえじゃねえか!!てかお前、最後捕まえる気無かっただろ!?『よし』ってなんだよ!」

「うわあー半泣きで逆切れとか俺が悪いみたいじゃん」


というより捕まえて欲しかったのか?


まあ確かに最後のほうは楽しんでいた。だって何も無いところに蹴る感触があるんだぜ?音を頼りに近づいて蹴られたら……「やった!」って思うだろ。


「ちくしょう、馬鹿にしやがって」


すると少年はなにやら取り出した……例の「しまっていたので」というやつで。


手に持ち出したのは、どうやら小刀のようだ。バンダナの奴、いったい何人に貸しているんだ?少年はリュックを背負ったままで斬りかかってきた。なかなかの素早い動き。刀が真っ直ぐに俺の首筋へ向かってくる。


半身でそれを避けると、少年はまた斬りかかる……俺の剣を抜くわけにはいかない。目的はリュックを取り返すことであって、少年を傷つけるのは俺の良心に障る。それに少年の動きは素早いと言っても、脅威になるほどではない。ぎりぎりの時もあるが、軽くかわすことができる。あとは少年が疲れたところを取り押さえて一件落着…完璧だ。


この状況で少年に負けるはずがないと思った。相手は既に息が上がっているし、太刀筋はまる分かりで当たる気がしない。


「そろそろ諦めておとなしくリュック返せよ。許してやるって」


そう言うと、少年は立ち止まった。生意気な目で俺を見てくる。本当に可愛げが無いというかなんというか。被害者は俺だっての。


「俺のほうが強いだろ?諦めろ」

「……なんだと?」

「いや、だから…」

「……、」


え、何て?聞き取れな……


「僕のほうが強い!」


「俺のほうが強い」というのが地雷だったのか、少年の目は本気のものに変わった。と言ってもやはりガキで、再び斬りかかってくることに呆れるが、まあ暇だし相手してやろう。同じように単調に向かってくる刃を見つめる。


これが終わったら飯食いたいな……


「!?…っ、」


今、何が起こったんだ!?


激痛の走る頬に触れて見ると、手にはべっとりと血が付いていた。これはもちろん、俺の血だ。


確かに軌道は見えていたし、避けられたはずだ。しかし、『少年が消える』ということは想定していなかった。油断していて突然姿が消え、びっくりしている間に斬られていた。


「くそ、忘れてた……」


相手はポルターガイスト。その種族全員が持つ魔法は『消える』。相手から自分の姿を隠す力。そうミーシェに教えてもらっていたのに。


先程少年がいたところにはリュックが残されていた。本当に俺と戦うことに賭けたんだな。これじゃあどこにいるのかわからない。


ふと気配を感じて左に避けると、右耳が斬られた。


「いいぃっっ……」


間一髪。耳もさほど深くえぐられたわけではないようだが、痛いものは痛い。しかしうずくまっている暇は無かった。少年に逃げる気はさらさら無いようだし。


「っ!!」


またも、今度は後ろに反りながら避けたが、首を掠った。



……寒気。お遊びの雰囲気ではない。俺を本気で殺しにきている。ぐずぐずしていては……殺される。


そう自覚した途端、俺の中で何かがプツンと切れた、気がした。今ある感情は―――――――――無。何も無い。何も感じない。喜びも、緊張も、恐怖も。


少年は消えているが、本当にそこからいなくなったわけではない。実態はあるが、俺が認識できないだけだ。なら視覚はもはや邪魔なものでしかないのではないか。かさかさと揺れる葉や風で舞う土は俺を惑わす。


自然と瞼が落ちる。何も見えない世界から、感触、匂い、音だけが入ってくる。「そこにはなにもない」と誤認しなくなることで、見えないものが見えてくる。


ヒュッ


避けると、すぐそばで風の切る音がした。


「くそうっ」


ヒュッ


ヒュウッ


うん。当たる気がしない。俺の機能全てで相手の動きを読む。最終的には第六勘、野生の勘というやつなのだろうか。そして追い掛け回して蹴ったように、こちらからも触れることが出来る。そろそろおとなしくしてもらおうか。


「残念だったな。俺の……勝ちだぁっ!」


斬りかかってきたところをぎりぎりでかわし、すぐそこへ手を伸ばして触れたものを掴むと、おもいっきり背負い投げをした。


「……」

「どうだ、まいったか!俺の強さを思い知っ……」


あまりに抵抗しないので、見えるようになった顔を覗き込むと……


「あーーー、しまった」


少年は見事に目を回していた。










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