盗人2
人の想像しないことを
予測できていないことを
計算どうりにしてやった後で
予想以上に驚いた顔を眺めるのが
楽しくてたまらない
予想以上に喜んだ顔を見るのが
嬉しくてたまらない
予想に反して悲しい顔をされるのは
本当に戸惑う
予想通りに泣かれると
本当に困る
笑って欲しい
次は何をしてでも
笑わせてみせるから
リュックを盗んだ奴がどこの誰なのか……わかるのか?こいつに。
「えー、もうそんなのめんどうだし、プライバシーとかいろいろと……」
「お願い」
「……仕方ない、えっとねぇ」
リンは腕を組み、顎に手を添えて少し考えると、
「盗んだのはポルターガイストのぼうやね。今は大木の根本で休憩しているようだわ」
わかってしまったようだ。リンは肩までむき出しの細い腕を伸ばして一方を指差した。そのポルなんちゃらが居る方なのだろうか。
「どうもありがとう」
そう言ってミーシェはスタスタと歩き始める。俺は急いで荷物を持ち、後を追いかけた。
「ちょ、おい!本当に信用できるのか?あんなさらっと言われて怪しすぎるって……」
振り替えるともうリンの姿はなかった。
「リンはこの森そのもの、さっきは意志疎通するために人型で出てきたもらっただけです。この森のことは全てわかるし、今も一緒にいるようなものなんですよ」
森そのもの……俺は森とお話していたのか。お話したってほど話してないけど、なんか貴重な体験だったようだ。
「大木は通り道ですから手間が省けますね」
大木というのは、地図の目印になっていた『大きな木』。そしてその意味がやっとわかった。俺の目の前にそびえ立つ巨大な木は他のものに比べて比ではない。とにかく巨大。
地面にめり込んだ根があっちの世界の木の幹の太さぐらいある。その幹は一周に何分かかるのか、と疑問に思うほど太く、見上げると日の光が見えないほど大きい葉が大量に生い茂っている。その木の下は広い範囲で日陰になっていた。そして根本には、見覚えのあるリュックを背負った小さな少年が気持ち良さそうに昼寝をしている。
近づこうとしたを、ミーシェが引き止めた。
「まずその袋の中を確認しましょう。何か役に立つものが入っているかもしれません」
そういえば何も確認していなかったこの手提げ袋。言われるがままに袋を開けると、入っていたのは……
「ん、服?」
「これは良いですね。伸縮性、吸汗性、防御力、全てにおいて今着ているものとは比べ物になりませんよ」
ただのジャージで悪かったですね。まあバンダナに言われても説得力がないが、ミーシェが言うんだから良いものなんだろう。猪に突進された時もこれのおかげでたいした怪我をしなかったんだろうか。
少し手こずりながらも入っていたもの全てを身に着けた。首や手首にまでぴっちりと黒いアンダーのようなものが覆い、その上にはフード付きの半袖。ズボンも半袖と同じデザインのようで、一見作業服だ。靴も入っていて、ジャンプすると、何も履いていないように軽かった。
………俺、かっこいい。
バンダナいいセンスしてるんじゃないか?普段おしゃれなんてしない俺でも分かる。そして何と言っても動きやすい。俺のために作られたようにフィットしている。
「いいですね」
ミーシェも褒めてくれた。ほら、ミーシェが言うんだから間違いない。俺かっこいい。
「あなたを治療した後に全身触りまくってましたから、何かと思っていたのですが……このためだったのですね」
「さーーーあ、取り返すぞー」
寝ている少年にそっと近づいてリュックを引っ張ってみるが、がっちりと根にはさまっている。しかしミーシェに聞いて想像していたよりかなり少年の力が強い。リュックを抱っこし始めるどころか、駄々をこねるように俺の手を振り払う。
予定通り、ミーシェ自作の鈴をリュックにくくりつけた。そして正面にかがんで、息をおもいっきり吸い込んで、
「わぁっっ!!!」
「わぁぁぁあぁあ!!?」
でかい声で脅かすと、少年は飛び上がった。大きな橙色の目を眠いながらもパチパチと瞬きし、伸びをする。紫か紺色の髪をかきむしったとき、目があった。
「いい夢見れたかよ?」
「うわああああ!!!!!!」
勢いよく立ち上がったかと思うと、少年は消えた。
『ポルターガイスト』
いたずら好きで、姿を見ることはできないとされている。
簡単に言うと、種族として持っている魔法が姿を消すものなのだ。寝るときは別のようだけど。
ここで作戦が成果をあげた。何もない場所からチリンチリンと鈴の音が聞こえる。もちろん、俺がリュックにつけた鈴の音だ。
名付けて『猫を追いかけろ作戦』。ネズミが、猫が来たときに分かるように、寝ているときに首に鈴をつけようとする話がある。それのパクリだ。
さあ、鬼ごっこの始まりだ。
「さぁ、クソ坊主。遊んでやろうじゃねえか」
「碧斗さん、いつになく悪い顔してますね。輝いてますけど」
「ふははははははは」