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異世界突入3

鋭い眼差しで

妖艶な唇


しなやかな身体に

危険な爪


時に冷たく

時に甘えて


四六時中一緒にいるかと思えば

ふとどこかに姿を消す


そんな君が大好きだ

突如俺の前に現れた女。

黄色い大きな瞳が真っ直ぐに俺を見つめていた。


「さぁ、立って下さい」


差し出された手を恐々握ると、一瞬身体が浮いたような感覚があり、気付けばしっかりと自分の足で立っていた。改めて凝視すると、力は強いが細身で、俺より頭1つ分くらい背が低い。鮮やかなブルーの髪が鎖骨あたりにまで延びている。


いや、うん。可愛いのはわかった。しかしそんなことにときめき、助かったことを喜ぶ余裕がない。なぜなら今、俺の目には信じられないものが映っているからだ。


「……?」


俺がガン見していることに気が付いて不審に思ったのだろう。小首を傾げる……と同時に『それ』も傾く。


片方は先が前に倒れ、もう片方はピコピコという効果音がぴったりの動きをする。


俺は一歩彼女に近づき、顎を持ち上げた。確かに『それ』はそこにある。


頭に手を乗せ、わしゃわしゃと撫でる。それでも確かに『それ』はそこにある。


信じられない思いでついに、触れた。柔らかくてふさふさで、ゆるい曲線で縁取られた綺麗な三角形の……『猫耳』。ブルーの髪がそのまま美しい三角形を描いている。


これは着けたものではない。確実に本物だ。俺の猫レーダーがそう言っているのだから間違いない。実際、あるはずの場所に人間の耳は見当たらない。


すると目の端に他のものが……尻尾!!!もの凄いスピードで彼女の後ろにまわると、肩の開いた服と七分丈のズボンの間から、同じブルーの細長い尻尾が出ていた。それも二股!?


片方をそっと握ると、滑らかにすり抜ける。なんとも言えない感情が沸きあがりその尻尾の動きに見とれていると、ふと悪寒が走った。見上げると、当の彼女は顔を真っ赤にしてものっすごい冷たい目で俺を睨んでいた。


「セクハラです。変態です」

「あ、つい……」

「あんまり調子乗ってると殺します」

「ほんとごめ……え?」


今のは幻聴だろう。そうに違いない。


彼女はフイっと顔を背けると俺の横を通りすぎる。向かった方にはさっきの猪が倒れていた。横腹にざっくりと二本の刃物が突き刺さっている。もちろん、もう彼女が猪なんて誤解はしていない。


「エリュマントスですね」


彼女は刃物を抜き、一振りして血を払った後、俺の方を向く。元のクールな感じに戻っていた。よかった……


「こいつは理性がないというのもあって、個別に名前はありません」

「ふーん、そうなんだ……それは別にいいんだけどさ」

「?何か?」

「いや、どちら様?」


普通に会話しちゃってるけど全く知らない人(?)だし、結果助けられたみたいだけどいったいなにがあったのかさっぱり……


「申し遅れました。とその前に、元の姿に戻らせて下さい。すごく疲れるんです」

「あぁう、ん……もどる?」


なぁ本当、話を聞いてくれ。


何の前触れもなく、彼女の全身が頭から爪先まで丸い何かに包まれた。シャボン玉みたいな表面で虹色に輝き、それはどんどん小さくなっていく。もう人が入れるほどの大きさではない。


パンっという音がする…と思ったけど違った。上の方から薄くなり、消えていく。シャボン玉が消えて現れたのは……


「お前、あいつじゃん!」


自分で言っといてなんだけど、どういうことだよ。「お前」=「あいつ」って言葉になっていない。それほど驚いたと言うことだ。


猪の側にいる『猫』に駆け寄り、脇を抱えて持ち上げる。俺が助けたあの青い猫だった。


「お前なんでこんなところにいるんだよー?」

「それもセクハラですよ」

「……しゃべった……!」


猫の口が小さく動き、俺に分かる言葉を発したのだ。そして体をよじらせて俺の手からすり抜ける。


「あと、私はミーシェという名だと聞いたでしょう?ちゃんとそう呼んで下さい」

「ごめん、名前とか覚えるの苦手……」


ミーシェ?


「もしかしてさっき助けてくれた女っておまっ……ミーシェ?」

「そうですよ」


ミーシェは手をペロペロと舐めている。どーしよ、可愛い。そういえば人間だったときと髪と目の色が同じだ。いやでもそれだけで分からないでしょ、フツー。誰が人が猫になって猫が人になって猫がしゃべって……


「武器を使うためには、人間の姿に変わる必要があったんです」

「変わりきれてなかったけどな」

「何か?」

「いや、何にも?」


なるべく目線を合わせるために正座をした。


「私はあまり力が無いんですよ。完全に人間に変われないし、あまり長時間も続けられません」

「……はぁ。」


うん……なんかバンダナにしろミーシェにしろ、基本の知識は知ってる前提で話すよな。俺がおかしいのか。そうなんだな?ここでも俺は馬鹿なのか。くそぅ、ちゃんと説明しろよ。


「あの……もうちょっと詳しく説明して?」

「あぁ、シェルから何も聞いてないんですね。お気の毒に」


シェルってバンダナのことだっけ。改めて考え始めると、ふつふつと怒りが沸いてきた。くれよ!説明プリィィィズ!!!俺なんか新しいゲーム買ったら隅々まで説明書読んでから始めるタイプだぜ!?こんなほったらかしで時が経つにつれて理解していくみたいな芸当できねぇの!!


「わかりました。少し話しましょう」

「そうしてくれ。ください」


つい正座をしてしまっていたが、かなり限界だ。あぐらを掻く。ミーシェも綺麗なおすわりの状態で、さっそく口を開こうとしたが……ふと俯いてしまった。


正直、猫の表情を読み取ることはできない。しかし耳の力が抜け、しっぽがうねっていて……なんとなく気持ちはわかる。


「……何から話しましょう?」


俺に聞かれても困る。聞きたいことが多すぎて何から……



「じゃあまず……ミーシェは『猫股』なんだな?」

「はい」

「『猫股』ってのは人間に変身できるのか?」

「いえ、猫股だけではありません。かなり多くの種族が…」


耳がピコピコと動く。


「変身、というより……あなたの住む世界で言う魔法のようなものだと考えてもらうと分かりやすいと思います。決まった呪文とかはありません。使える力というのは生まれつき持っていて個々で違うし、新しいものを練習して出来るようになるものでもありません。例外はありますが…」

「へぇー、……ミーシェは何ができるんだ?」

「私は残念ながら、こういう魔法に向いていないようです。人間に変化できますが、あとは私の力を注いで治療することくらいですね。これもあまり強力ではありません」


魔法…かぁー。なんかすごいファンタジーだな。ファンタジーなのか。


こんな世界に行ってみたいと思ったことはもちろんある。でも来たら来たでなかなか不便なものなんだな。そして俺は使えないという。無念。


「そういえばさ、さっきはどうやって猪を倒したんだ?」

「どうやってって……刺しました」

「あ、そういうもんなんだ」


あんなでかくて重い強そうな奴だし、魔法とかの話が出たからなんかこう、もっと特殊なことをしたのかと思った。見たまんま、刺しただけらしい。


ミーシェの片前足が上がり、手の先が少し光ったかと思うと、地面に先程猪に刺されていた刃物が現れた。


というか……


「え、今どうやって……」

「どうやってって……しまってたので出しました」


聞いた俺が悪いのか?なぁ?これも魔法の一種なんだろうか?あれか、当たり前に出来るから魔法とも呼べないってか。ちくしょう。






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