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スタートにも立ってない1

木以外に何も見えない道をミーシェ、リャオ、サーラ、俺、ティアラの順で進行中。


いつの間にかこんなに仲間(?)が増えちゃって。いささかこれは桃太郎ではないか。鬼を従える桃太郎……ある意味最強だ。

しかしこの並びだとミーシェが主人公になってしまう。じゃあ俺は一体……猿?


こんなどうでもいいことを考えられるほど暇だった。

いや、良いことだ。何事も問題がないのは実に良いこと、だけど退屈。


あのユニコーン集団と別れてから一時間は歩いていると思う。

そろそろ疲れも出てきた。


「もっといろいろ出てくると思ってたんだけどな……」

「何かおっしゃいましたか?」

「あぁ、いやなんでも」


そして何故この子はこんなにスキンシップが激しいのだろう。

現在進行形で俺の腕に手を絡ませ、いわゆる結婚式の組み方で歩いているのはサーラだ。


ミーシェのチラ見と背後から感じるオーラに居心地は最悪だった。


「サーラ、ちょっとだけ離れ……」

「何か?」

「……いや」


こんな状態のために、何が楽しいのか目の前をフラフラしながらリュックを機嫌良く揺らすリャオが憎い。




「おい、いつになったら目的地に着くんだ?てか何処に向かってんだよ」


ティアラがとうとう痺れを切らした。

ミーシェが足を止めて振り返る。


「今は一先ずシェルのお友達という者の所へ向かっています。それからグリフォンを探して爪をもぎ取り、戻ってくることになるでしょう」

「あら、シェルさんのお知り合いでしたか」


まだ何も話していなかったことに気付き、少し申し訳なく思った。いろいろせわしなくて忘れていたのだ。


「シェルって有名なんだな」

「まぁ、はい。そうですねー」


と、サーラは少し気まずそうに答えた。

その様子を不思議に思うも、ティアラの不機嫌な調子にそれもかき消された。


「グリフォンって何だよ。ほんっと、何でこんなことに……チッ」

「お前が着いてきたんだろうが」

「好きで来たんじゃねぇよ」

「はいはい、そーですか」


まぁ確かに着いてくると聞かなかったのはサーラで。そのサーラが着いてきたがった理由は不明ながらも本人は楽しそうなのでなによりだ。


「で、それが終わったら何が貰えるんだ?」

「……ん?」

「分け前」


シェルの家で目覚めたところから、今歩いている状況までを振り返る。


顎に手を添えて考える人になりながら、はっきりと断言した。


「何か貰える予定はない」

「は?」

「だから、たぶん何も貰えない」

「……はぁ!?」


ティアラは俺に詰め寄りながら再度問う。


「何も貰えない?」

「あぁ」

「本当に何も?」

「はい」

「そんな約束はしていませんでしたね」


ミーシェの一言でようやく信じたらしく、ティアラは信じられないと言うように俺を見た。

隣ではサーラも不思議そうに俺を見上げている。

リャオとミーシェでさえ興味津々と言うようにこちらを見ていた。


「じゃあ何でお前はそいつの言うこと聞いてんだ?」

「……うーん」


皆が俺の言葉を待っている。

そう言われても、納得させられるような理由が思い浮かばなかった。

その時は……


「なんか困ってる感じだったし」


絶対に演技だったけど。


「あと、俺が興味あった」


この世界に。


「から?」


あと言うことを聞かないと元の世界に戻して貰えないってのはちょっとダサいから黙っておこう。


そう言ってヘラッと笑ってみせたが、サーラ以外の表情は冷たいものだった。

皆呆れたような、驚いたような、信じられないような、はたまた軽蔑の視線を向けている。


サーラだけは「さすが……碧斗様、」と言っていたが、こんな視線を向けられていては素直に喜べない。


「お前、馬鹿なんじゃねぇの」

「そうですね」

「変態だな」

「そりゃちょっと違うだろうが」


浴びせられた辛辣な言葉に、かろうじてリャオにだけ突っ込ませてもらった。


ティアラは腕を組んでため息をついた。


「何の報酬も無しに自分から危険に突っ込んでいくような馬鹿がいたとは。笑えねぇ」

「別に笑ってほしくてしてんじゃねぇよ」


そこで一旦会話は途切れ、各々少し休憩。


腰を下ろすと、珍しくミーシェが俺の膝の上に乗ってきた。

優しく撫でてやると、気持ち良さそうに寝返りを打つ。


え、何。可愛いんですけど。

一体どうしちゃったんですか。いや、僕は大歓迎なんですけど。


「なぁ、お前」

「あ?なんだ、ガキ」


その発言にあからさまにリャオは顔をしかめた。


おそらくリャオはその絡まったリュックの背負いを直してほしかったのだが、碧斗は二人(一人と一匹)に囲まれて近づき難かったため、ティアラの元へ行ったのだろう。


「年下が何偉そうにしてんの、ガキ!」

「ああぁ?生意気言ってたらボコるぞガキぁ」


ガキガキ煩く言い合っている様子に、なんだか可笑しくなった。


見た目小学生の二百歳と、見た目高校生上級の四歳。この場合どちらがガキなのだろうか?

口の悪さとボキャブラリーの少なさでは同じように思われるが。


「見下ろしてんじゃねーぞ、ガキ!」

「てめぇがチビなだけだろうが」

「うるさい白髪」

「んだとこのチビ、ガキ!」

「ガキって言う方がガキなんですー!」

「んなわけあるか馬鹿が!」


……そろそろうるさい。

あと低レベル過ぎて突っ込む気にもならん。


「何見てんだよ碧斗(バカ)

「何くつろいでんだよ碧斗(ガキ)

「んだとこの白髪ベイビーとチビリュック!!!碧斗と書いてバカとかガキとか読むんじゃねぇ、やんのかコラァ!?」


俺が急に立ち上がると、サーラの腕から抜け出すことができた。ミーシェは身軽に俺の膝から飛び降り、三人での言い争いが始まった。

後で思い出せば、本当にくだらない事だったように思うが、この時はかなりマジだった。




「いい加減にして下さい」

「そうですわ、仲良くしましょう?」


やっとのこと仲裁が入り、さすがのティアラも自分の妹には反論できないらしく、しぶしぶと言ったようにリャオの胸ぐらを離した。


群れを抜けてまで着いてくるのだから、相当大切に思っているのだと思う。

ただのシスコンと言ってはいけない。


ティアラは不服そうにサーラを見た。本当は今すぐにでも碧斗達と別れ、群れに戻りたいのだ。

が、何も言わなかった。サーラは見た目に反してかなり強情で、一度言い出したことは誰が言っても、何があっても曲げないことを知っていたからだ。


ため息を着くと、疲れたような目で俺を見た。


「お前は俺らに、いや俺に、なんかねぇのかよ」

「そう言われてもなぁ」

「それによってはいざというとき、あっさり見捨てさせてもらうからな」


━━とか言って、サーラが残れば残るくせに。


とは言わなかった。

しかし俺の所有物など無く、あげるものと言っても……しかし確かに、無償で助けてもらうのも。


「じゃあ何が欲しいか言ってくれよ」


そう言うと、逆にティアラが驚いた。

いつもは細めて他人を睨んでいる目が大きく見開かれ、パチクリと瞬きした。


「お前は、やっぱ馬鹿だな」

「はぁ?」

「あぁ、いいいい。もうわかってることだ」


こいつ、人の親切心を……!


「何でもいいのかよ?」

「あぁ、なんでもいっ……俺に可能な範囲でお願いします」

「……そんなに期待してねぇよ」

「それはそれで腹立つ」

「お前めんどくせぇな」


じゃあ……とティアラは少し考える素振りを見せた。チラッとサーラを見たようだが、そのキラキラとした目に何を感じたのかすぐに視線を戻す。


「欲しいもの、欲しいもの……」


沈黙。

最終的にティアラが出した答は、


「これが終わったら言うわ」

「はぁ!?そんなこと言って、後で無理なこと言って助けてやっただろとか脅すんじゃないだろうな!」

「あぁ、わかったわかった」

「……ったく、なんで今じゃないんだよ」


ティアラは顔を背けてスルーした。

実は、なんでもいいと言われてすぐに出てくるものが無かったのだ。

なんてったって生まれてまだ四年。


━━まぁ、気長に決めるか。




「しかし遠いですね。この地図の距離は宛にしないほうがいいようです」


ミーシェの声色には明らかに苛立ちが含まれていた。

さっき膝に乗ってきたのも、猫の姿では俺らより歩幅が小さいし倍疲れているのかもしれない。


「僕もリュック係降りようかな……」


━━いや、それは全く困らんのだが。


なんとなく重々しい空気になってしまった。

そえは言っても俺も疲れている。このままひたすら歩かなければならないかと思うと……


背中に軽い衝撃があり、見ると肩にミーシェが乗っていた。

もう歩く気は無いという意思表示だろうか。


後ろ足を肩甲骨あたりに引っ掻けているため、落ちないように少し前屈みになる。

今は疲れていて、この状況を素直に喜べない。

結構重たいのだ。


「ったく、本当にしゃあねぇ奴らだな」


ティアラは眉間にシワを寄せてため息を着くと、身軽に宙返りをした。

そこに現れたのは白っぽい銀の毛並みをした馬だ。もちろん頭には鋭い角が生えている。


「乗れ」


馬のくせに目付きの悪いティアラは顎で自身の背中を示した。


「あぁ、なるほど!」


そう言ってサーラも宙返りをして馬の姿となる。


ティアラは乗せるのが単に嫌だっただけだろうが、サーラ、「なるほど!」って、頭になかったというのはつまり馬鹿なのだろうか。


呆然と立ち尽くす俺たちにサーラがゆっくり歩み寄る。


「さぁ、お乗り下さい、碧斗様。」


少し膝を曲げて乗りやすいようにもしてくれた。


これはかなりありがたいが、頭がいまいち着いていかない。

まず乗馬など経験がない。

そして女の子にまたがるというのはいかがなものか。


「お言葉に甘えまして」


俺は間髪入れずに手をかけ、またがろうとした。が、


「ぐふっ」


横腹に激痛が走り、体が吹っ飛ぶ。

━━あぁ、デジャブ。


「お前を妹に乗らせるわけねぇだろうが、殺すぞっ!」


背後からはそんな怒鳴り声が聞こえた。





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