序章
自分が意思を持って決断したことを
やり遂げられたのならば
他人に強制されたことで失敗しても
何も恥じることは無い
しかし少しでも悔しいと感じたのなら
もう一度やってみてもいいのではないか
髪の生え際に滲む汗。
刻々と過ぎていく時間。
時計の針は休むということを知らないようだ。いや、休んでもらっては困るのだが、今は……うん、ホントに、ちょっとくらい休んでくれても……。
秒針が進むと共に焦りもつのるが、打開策は何も思いつかなかった。今の自分にこの状況を突破する力は無いのだ。
自分の無力さに苛立ち、後悔し、そして絶望する。
何度味わえば気が済むのか。しかしもう遅い。何もかも手遅れだった。
ふと眼をやると、時計の針は更に進んで、とうとうカウントダウンを始めていた。
既に頭は真っ白になり、考えるという行為を放棄している。焦りを通り越して脱力感に変わり、背中に全体重を預けてどっしりともたれかかった。
あとはただ時計を見つめるだけ。
ついに、この辛く苦しい時間が終わる。やっと終わる。終わってしまう。
、3……2……1……
鳴り響く機械音。それと共に重たくて苦しい沈黙が破れ、手元の紙が素早く集められる。黒い枠組みの中は、空欄、空欄、空欄……
「はぁぁぁぁあ」
幸せを全て吐き出したようなため息をつき、固まった体を思いっきり伸ばす。
「……終わったぁー」
高校一年生最後の定期テストが、いろんな意味で終わった瞬間だった。
クラスの奴等に適当に別れを告げ、足早に校門を出る。家に帰っても特に用事はないが、一刻も早く学校という場所から出たい。
いや、テスト中も俺なりに一生懸命考えてはいる。それでも空欄ばかりなのは、本当になんの単語も出てこないからだ。勘でも書けないのが虚しい……四択問題ぐらいは合ってるといいのだが。確立四分の一を掴み取る自信も無かった。
そんなこんなで俺、久坂 碧斗はようやく高校一年生、最後の定期テストを乗り越えたのである。
……いや、「乗り越えたと」言うより「撃沈した」?…
ちょうど昼時で良い匂いが漂う帰り道、俺の頭はひたすらもんもんとしていた。
そもそもテストって何なんだ!?
日本語で言うと試験ですね。
そんなことを聞いてんじゃねぇんだよ!
決められた範囲で問題を出し、それを実力で答えさせることで人としての価値を点数、もしくは通知表という形で出す。その結果人と人との間に格差が生まれ、亀裂が入り、ある人は悲しみに暮れ、ある人は狂喜する。
と、大袈裟に言ってみたものの、大人にしてみれば「俺らもその棘道くぐり抜けて来てんだよ。ごちゃごちゃ言う前に死ぬ気でやれやぁっ!」ということなのだろう。はい、ごもっともです。
まぁ俺もガキじゃない。「テストなんて無くなれー!」と思っても口には出さないが、やはり一つだけ言わせてくれないか。頻度が多い!一年に六回。プラスそれに全国やらなんやら模試もついてくる。休む暇が全くないじゃないか!
定期テストや模試が少なくなれば結果が出せるのかと聞かれれば、答えはNoだ。
この時代、勉強出来ない=落ちこぼれ、生きていけないなどという方程式が出来上がっている。なんとも生きにくい。もっと前の時代に生まれていれば、かなり優秀と言われたかもしれない。あわよくば「天才」、と。
と言うのも、自慢できるほどに運動神経は良かったのだ。
子供の頃から頭一つ分も二つ分も飛びぬけていたし、それは今も健在だと思う。しかしこの何事も長続きせず、また根本的に「努力」というのが嫌いな性格が俺をスポーツ業界から遠ざけていた。
では何故ここまで自信が持てるのかといえば、あくまで「楽しい」体育の球技時間や、体育祭、それからペンが机から落ちそうになった時の反射神経や……
そう考えていると、あっという間に家に着いた。することも無いし、テストに集中しようと我慢していた漫画を買いに行こう。今日その我慢も無駄に終わったわけだ!
家に荷物を置いて、ジャージに着替えて家を出ると、なんということでしょう。テストが終わっただけで世界が明るく見えます!普段は目に入らない物まで鮮明に見える。まるで世界そのものが変わってしまったようだ。今日のテストのことなど既に頭になく、内心ウキウキして本屋付近にまで来たとき、ふと何かが足元を横切った。
それは……猫。別にそれ自体は珍しくはない。
しかし、青い猫などというのが存在するのか?
太陽の光を浴びて多少の色の変化はあるものの、あの毛色は確実に青といえる。
つい立ち止まって見惚れていると、その猫の危機に反応が遅れてしまった。現在猫はガードレールを潜って道路の中央あたり。そこで信号が変わり、大型でヲタッキーな車が接近中。
え、やばくないか。
………………やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!!!
車の方も、きっと可愛い女の子にしか興味が無い奴なんだろう、くそう、車のそこら中にパンチラ少女のシールベタベタ貼りやがって、恥ずかしい!猫に気づかず止まる気配が全く無い。むしろ加速中。
猫は猫で何を思ったのか、ちょこんと上品に座って後ろ足で首元を掻いている。
痒いんでしょうねー。じゃなくてっ!何でよりにもよってそこで止まるんだよ!!渡ってからにしろ!!!
このままでは確実に轢かれる。俺は反射的に走りだし、ガードレールを飛び越えて猫を抱えて……だが遅い。さすがに無理だ。抱えた猫を歩道側にぶん投げた。
一応これで大丈夫だろう。しかしよく間に合ったな俺。初めてこの運動神経に感謝したかもしれない。そうそう、こういうときに俺の才能を感じるわけだ。
唯一心残りがあるとすれば、こんな車に轢かれるって事だ!
そこで激痛と共に俺の意識は途絶えた。
テストが嫌過ぎるってもろ私の本音ですよねー笑
というか好きな人っているんですか?自分がどこまでできるか試したいみたいな?私には一生見えそうに無い景色ですね。