表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2の確率  作者: ゆきうさぎ
<1章>
9/81

ギミック -恋に落ちる3秒前-(5)

***chiaki side***************************



「お疲れ様~」


俺の肩を叩いて職員室から出ていく同僚を目で追いながら、デスクに置いてある時計を見た。

‥8時前、か。


「帰るかな」


ふぅ、とため息のようなものを吐き出して、俺は重たかった腰をあげて帰り支度をする。鞄の中に必要な書類を入れて、車のキーをポケットにしまってあとは出るだけというところで、ふとあることを思い出す。


「飯、」


どーしようか。家には昨日作った肉じゃがが少しではあるが残っている。いや、あれは2日分くらいの量で作ったんだが、あのバカがバカみたいにバカほど食うから、鍋には少量しか残っていない。

つまり、もう1品いる。確実にいる。つーかもう1品ないと俺の腹が満たん。

とは思うものの、時刻はもうすぐ8時。スーパーというスーパーには今頃蛍の光が流れている頃だろう。

しゃーない、連絡をとって……ああ、連絡先知らないんだった。

どこか食べて帰るか。

そう思って職員室を出た時だった。後ろから小走りに走ってくる音が聞こえてきて、俺は自然とため息をこぼした。


「千晶先輩今帰りですかぁ?」


‥イラッ。


「‥名前で呼ぶな」

「えー、いいじゃないですかぁ。もうみんな帰っちゃいましたよぅ」


イライラッ。


「なんにもよくねぇよ」


俺は舌打ちをつきたい思いを必死にこらえながら、少し早足に車の置いてある駐車場まで向かう。そんな俺の後ろを、まるで当たり前かのようについてくるこいつ、もとい、真崎 唯亜(まさきゆいあ)

不本意ながらも俺の直属の後輩だ。

俺の2つ下のこいつは、俺が大学3回生の時に入学してきて、同じサークルに所属していた。そして同じ数学教師の道を進んでいて、今年この学校へ赴任してきた。今じゃあ俺はこいつの教育係で、会社で言うなら俺の部下になった。

正直、鬱陶しいことこの上ない。

おまけにこいつはことあるたびに俺の名前を呼びたがる。そしてすきを見つけては俺に話しかけてきて、こうやってわざと時間を合わせてくる。俺のイライラの根源と言っても過言じゃない。


「千晶先輩、お腹すきません?」


空いてるよ、俺だって人間だからな。

俺はなにも答えずに昇降口置いてある自分の靴を乱暴に床へと落とす。


「ご飯、一緒に行きませんか?」


頬を赤く染めて、まるで初恋をした少女のように言った真崎は「ね?」と微笑みながら俺を見てきた。

まるで行くことは当たり前だ、むしろ私と行かないなんて、とでも言うような、そんな感じ。

‥こいつ俺がはなから相手にしてないのわかってないのか?

俺は先ほどの外で食べて帰るという選択肢をものの5分で捨て去った。


「悪いが今日はすることがあるんだ」

「そう、ですか」


シュンと、傷付いてますと、自己主張するように、あかさらまに声のトーンを下げた。

その反応にすら、イラッとくる俺は相当こいつが好きじゃないんだと思う。


「あの、じゃあ、」

「俺はもう帰るよ。あんまり遅くならないようにな」


これ以上なにか言われたらたまったものじゃない。

俺は逃げるように言葉を区切らせると昇降口から走って出ていった。


「はぁ、」


車の中に入ると、一際大きなため息がこぼれた。

なんだか今の10分くらいで重労働したくらいに疲れたんだけど。

俺はぽきぽきと首を鳴らしてから車のエンジンをかけると、まだ通いなれていない道を走り出した。15分くらい走って立体駐車場のパーキングに車を停めてマンションまでは歩く。


「あ、飯」


真崎から逃げるのに必死すぎて飯のことすっかり忘れてた。

俺はまたため息をこぼして、階段を上がっていく。昨日から住みだしたあの家にはすでにもう1人の住人は帰ってきているようで部屋から明かりが漏れていた。扉を開けて「ただいま」の言葉を言うべきかどうか悩んでいたら、中から「おかえり」という言葉とうまそうな匂いがした。






***mahiro side***********************




おかえり、という言葉をかけるか迷ったけれど、無言というのも嫌だし、ていうかこれからしばらくは一緒にいる相手にそれもどうかと思ったから、私は帰ってきた菜月さんに「おかえり」と言った。菜月さんはそう言われるのが意外だったのか、目を大きく開いて、少し間をあけてから「ただいま」と返してくれた。


「遅いんですね。いつもこれくらいですか?」


そうだとしたら私が毎晩ご飯を作らなきゃならなくなるんですが。いや、昨日までちゃんと自分で作ってたよ?でもほら、あんな美味しいご飯いただいちゃったらさ、作る気とかなくなるじゃん?やっぱ。


「今日はちょっとばたばたしてたんだ」

「あ、そうだったんですか。菜月さんって普段帰り何時ごろなんですか?」

「‥そうだな。日によるけど…多分これくらいには帰って来るんじゃないか?まぁたまにこれより遅くなることはあるけど」


さいですか。それじゃあ私が晩ご飯作って待ってるフラグですね。非常に残念ですね、それ。


「それじゃあ菜月さんのご飯食べれない」


あの肉じゃが母親に自慢したいくらいうまいのに。いや、まぁ母親になにを自慢するんだって感じだけど。


「‥お前そんなに俺の作った飯食いたいの?」

「食いたいですっ!」


多分これがメールとかだったらキラキラの絵文字横についてたな、絶対。

菜月さんはぷっっと噴いて笑うと、「わかった」と言って私の頭を優しく撫でてくれた。


「俺平日はこの時間にしか帰れないけど土日は夕方には帰ってるから土日は俺が飯作るよ」

「ほんとですか?」


やったぁ!

菜月さんのご飯食べれる!


「あ、でもいいんですか?お願いした形になっちゃいましたけど、菜月さん社会人だし疲れてたりしないですか?」

「ん?まぁ土日くらいなんとでもなるよ」

「でも土日って日によっては1日中家にいることいなりますよ?そしたら3食作る羽目になっちゃいますよ?」


私はその方がいいんですけどね。キッチン立つのめんどくさいし。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ