プレゼンス -君がそばにいること-(7)
…って、あれ。
なんかみんな真剣な話とかしてる感じだった?
じっと私を見てくるみんなの顔を確認して、首をかしげる。
というか、1人、すっごい私のこと睨んできてるんだけど…え、本当に何かした?
「解けたの?」
千晶は立ち上がって私の背後に回ると、両手を机について前のめるようにしてプリントを見た。
いやいや別にそんな見方しなくてももっと普通に見る方法あるから!
さっと横からプリントとってもらったらいいから!
ちょ、恥ずかしすぎるっ…!
「自信のほどは?」
「80%くらいかな」
「それって8割はあってるって意味?」
「もちのろん」
これだけ時間を費やしたんだからあってないとむしろ困る。
今まで何やってきたんだってなる。
「採点するから待ってろ」
そう言って千晶は自室の方へ行ってしまった。
…え、ていうか部屋で採点するつもり?
え、ここでしないの?
どうすんのよ、このちょっと微妙な空気。
「ラブラブですよね、2人って」
あわあわとする私を茶化すかのように言ったのは、自己紹介はしてないけれどさっき澪ちゃんに『おかち』と呼ばれていた男の子。
多分、苗字は岡村君なんだろう。
私の知り合いの岡村君もおかちって呼ばれてるし。
「なっちゃんと7つ差なんですよね?」
好奇心からか、岡村君(仮)は目をキラキラさせて聞いてくる。
その質問にほかの子も興味があったのが、すごく聞きたそうな顔をしている。
話すことなにもないんだけどなぁ…。
「千晶から聞いたの?」
「21歳だって聞きました」
ああもう、人様に年齢を勝手に教えるとか信じらんない。
私こんなんだけど、一応はレディーなんだけどね。
レディーに年齢は聞くものじゃないって教わんなかったのか。
「どこで出会ったんですか?真宙さんみたいないい女、なっちゃんには勿体ないのに」
澪ちゃんはそう言ってじっと私を見る。
「なっちゃんは落ちてたって言ってたけど、」
「え、何その言い方」
私はごみかなんかか。
「…いや、でも、まぁ‥落ちてた、と言われれば落ちてたのか?もともと拾われてなかったし」
「うっそだぁ。こんな美人、放っておくわけないじゃん」
瀬本君はそう言って目を丸くする。
「美人は3日で飽きるって言うでしょ」
ブスは3日で慣れるともいうけどさ。
今考えれば酷い言葉よね、これ。
思いやりのかけらも見当たらないわ。
「でもそれって千晶も同じじゃない?千晶だって顔だけ見たら超がつくほどいいし、公務員で将来は安定してるし、まぁちょっと俺様なところもあるけど優しいし」
なんて優良物件。
大学の女の子たちなら放っておかないよ。
「‥確かに落ちてたけど」
「でしょー?それを私がひろちゃっただけだよー」
たとえ出会いがお互い性別を間違えてルームシェアの相手にしてしまったとしても。
きっかけが嫌々行かされた合コンだったとしても。
「いつから付き合ってるんですか?」
「えーっと‥」
1週間前、と言ったらさすがに驚かれるだろうか。
1週間にしては仲睦まじすぎるし。
ていうか一緒に住んでるし。
と、なんて言っていいものか迷っていると「人の彼女いじめないでくれる?」という声が聞こえてきた。
振り返ると、プリントをヒラヒラとさせながら千晶が部屋から戻ってきた。
「いじめてねーし!馴れ初め聞いてるだけ!」
「そうそう!気になるじゃんか!」
その言葉に千晶は小さいながらも舌打ちをついた。
「あ、どうだった?」
「どうだったと思う?」
意地悪そうに笑った千晶はプリントの裏をヒラヒラさせて私を焦らす。
「自信、あったんだろ?」
「8割はね」
2割は自信ないのよ。
むぅと、私の隣に立つ千晶の顔を見上げればプリントで千晶と私の合っていた視線を遮った。
そのプリントをサッと取って千晶を見上げれば、わかりやすいくらいに目をそらされた。
「なんだ、満点じゃん」
さすが私。
だてに数学教師は目指してないわね。
「え、満点!?」
「あれ完璧に答えられる人いるの!?」
「すごすぎる‥」
なんて言葉が聞こえてきた。
ふふっと得意げに笑うと男の子たちが目をそらした。
「この無自覚が」
「いたい、」
また頭を小突かれた。
小突かれた場所をさすりながら、私は自分が解いた解答を見直していく。
「ガチガチの理系か?」
「私?んー、理系が得意ってのにちょっと毛が生えたくらいじゃない?」
「毛が生えたくらいでこの問題が解けたら苦労しないんだけどな」
苦笑混じりで千晶は言うとちらりと時間を確認した。
時計の針はもうすぐ5時をさそうとしていた。
けっこう長い時間こうやってしてたんだなぁ‥と思いながら今日のご飯のことを考える。
「千晶ご飯どうするの?」
「‥飯?あー、どうすっかな。真宙なに食いたい?」
思案顔をした千晶はちらりとこちらを見ていた生徒たちを見た。
「お前らいつ帰るんだ?」
「いつ帰ろうかな。あんまり長居してもなって感じだしね」
「どうせならご飯食べてけば?あ、親がいいって言えばだけど」
私の提案に嬉しそうな反応をしたみんなは私から千晶の方へと視線を変える。
「‥食ったら帰れよ。あんまり遅い時間に帰すのもこっちとしても悪い」
「はいはーい。教育者だもんねー」
わかったような、わかってないような返事をしたみんなの顔は嬉しそうだった。
「じゃあ私買い出し行ってくる」
「俺行くよ。今日休みだし」
「え、いーよ、千晶疲れてるでしょ。人数もいるしカレーかなんかにしようと思ってるし」
ね?と言い切って千晶の返答を聞く前にコートを羽織った。
そんな私の後姿を見た千晶は諦めのようなため息をついた。
「あ、ご飯だけ炊いといてくれると助かる。高校生だから男の子は食べ盛りだと思うし」
「了解。荷物けっこうあるようだったら連絡して。迎えに行くから」
そう言って見送る千晶に笑顔を返して家を出ようとしたら、千晶の後ろからバタバタという足音が聞こえてきた。
「は?」
「俺たちも行くよ」
そう言ったのは馨君で、馨君の後ろには名前はわかんないけど女の子がいた。




