ギミック -恋に落ちる3秒前-(2)
はぁ…。
今朝のやりとりを思い出すとため息が自然ともれてしまう。
そりゃあこっちからしてみれば、イケメンに毎朝起こしてもらえるなんて夢のような話かもしれないよ?でもさー‥こっちは1限があろうとなんだろうと、寝てたいんだよね。
「なーに?さっきからため息ばっかりついて。やっぱり変なものでも食べた?」
「‥千遥さっきからそればっかり」
「だってー。朝が引くほど弱いあんたが1限始まる前から学校に来てるなんで前代未聞よ?見た?朝一番にあんたを見た先生の顔」
写メ撮っておけばよかったと言って千遥は本気で悔しがっていた。それはそれでどうなんだと思うが、確かにあれは間抜け面だったと思う。
「で?本当にどうしたわけ?」
「んー?いや‥別に、」
なんでもないわけじゃないけれど、なんでもない。いや、ばれたたらばれたでしょう、なんて昨日までは生ぬるいことを考えていたが、実際問題、ばれたらばれたでいろいろと面倒かもしれない。
「ま、いいや。それはそうと真宙、瀬田君とのことどうなったの?」
「…‥瀬田君?」
そんな人、知り合いにいないんだけど。
目をぱちくりしている私を見た千遥は頭を抱えてため息をついた。
「この前合コンしたときにあんたと一緒にいた王子様みたいな人よ!みんな瀬田君狙いだったのにあんたが掻っ攫っていったじゃない」
そこまで言われて私は少し前に千遥に人数合わせだと言われて強制連行された合コンのことを思い出す。
「別に掻っ攫っていったわけじゃ、」
2次会に行かないって言ったら、向こうからじゃあ送るよって言ってきたんだし。あのエセ王子、とんだ送り狼だったっつーの。こっちがはぐらかしてこの辺でいいって言ったのに、わざわざ家の前まで送らせやがって。挙句、送ったのにお礼はなし?とか言い出すし。あんたが勝手に言い出したんだろうが!って思わず夜なのに大きな声で殴り倒してしまった。
「その様子だと、瀬田君も相手にしなかったの?」
「瀬田君、エセだよ?」
「…あんたね」
「だって本当だもん。あれで王子様なら、本物の王子様に謝ってもらわないと」
まぁ本物の王子様ってどんなのかよくわかんないんだけど。
「そんなことばっかり言ってるからあんたってモテるくせに彼氏が出来ないのよ」
「別に欲しいなんて言った覚えないんだけど」
「あんたを狙ってる男なんてそこらへんに転がってるんだからテキトーに捕まえて落ち着いておきなさいよ」
なんだ、その言い草は。まるで私が歩く男ホイホイみたいじゃないか。失礼しちゃう。
「「でも和城が彼氏作っても長続きしないよー」」
「‥出た、望月兄弟」
失礼極まりないことをハモって言いのけたのは、この学科の名物双子、望月兄弟だ。
一卵性っていうのもあって、驚くほどに似てる。違いはどこだって探すくらいには似てる。最初はこの2人を見分けるのに必死になっていたが、それで遊びだすから途中であきらめて、今じゃあひっくるめて"望月兄弟"と呼ぶことにしてる。
「もとはと言えば‥あんたたちが茶々いれてくるからでしょうが!」
人が彼氏をつくったものなら、背が小さいのと童顔で可愛らしい顔をいいことに、彼氏の前で抱きつくわ、頭撫でるわ、常に一緒に行動するわ、挙句ほっぺにちゅーなんてしてきやがって!
こいつら私のなに!?
なんでいつもそう物理的に邪魔してくる!?
「「だって面白いんだもん」」
「こっちは死活問題なんだけど!?」
「だから合コンで」
「合コンにする意味ある!?」
ていうか、合コンで彼氏ができたとしてもこいつらに邪魔されて終わりなんだけど?
「あら、他大学の人と付き合っちゃえば望月兄弟の呪縛から逃れられるじゃない」
「…そう簡単に言わないでくれる」
私は今見えてしまった。千遥の言葉に望月兄弟がおっそろしいブラックな笑みをしながらお互い見つめ合っていたのを。
誰だよ、あのふわふわして可愛いっていう印象だけで、兄弟を天使だなんて言ったの。あれは悪魔だよ、悪魔。つーかもう悪魔なんか通り越して魔王だよ、魔王。
「和城が変なこと考えてるー」
「俺たちに失礼なこと考えてるー」
そんなことあるけど‥!人の心読まないでよ、頼むから。心臓に悪いじゃない。
私はさっきの講義のノートを鞄にしまいながら、望月兄弟の追求から逃れる。だって望月兄弟の口の強さは半端ない。この学科の大学教授を言い負かすくらいなんだから。どうかしてるよね、ほんと。
「ま、なんでもいいんだけどさ。真宙明日の夜空けておいてよ」
「は?」
なんで?という疑問の言葉を言う前に、千遥は自分の予定表を私に見せつける。そこに書かれていたのは、
「医大生との合コン。あんたも来るでしょ?」
「‥行くわけないでしょ」
「なんで?医大生とかなかなか出会えないよ?」
よく言うよ。この前も医大生って言って誘ったじゃん。まぁ結局医大生がいたのは5人中2人だったけど。
「あんた来てくれなきゃ数揃わないんだけど」
「最初から頭数に入れるからでしょ?いい加減にしてよ。私絶対に行かないから」
「なんでよー?医大生だよ?しかもイケメンだし」
イケメンというワードで、今朝のあいつが出てきたけど、頭をぶんぶん振って脳内から消す。
「「あ、」」
「なに?」
「僕たち次の授業行かなきゃ」
「本当だ。いい時間だね」
望月兄弟は別に引きとめてもないのにそう言って、教室から出ていく。残された私と千遥はちらりと壁にかかる時計を確認した。もうすぐ2限が始まる。3限まで授業が入っていない私たちは、学外でご飯を食べることにした。
自己紹介です(^^)
佐伯千遥
性別:女
年齢:21歳
誕生日:4月16日
血液型:B
真宙の高校からの親友。というか悪友。
合コン大好き。でも男をあさっているわけではない。
単にそういう明るい雰囲気とかが好きなだけ。
派手目でなんでも白黒つけたがる。意外と頼れる姉御肌。