ギミック -恋に落ちる3秒前-(1)
「ぇえ!?嘘でしょ!?」
教室で不機嫌を隠しもせずに座る私を見た親友が、教室に入って一言。
「今日は雨か?雹か?」
「槍でも降るんじゃないか?」
そのあとすぐに入ってきた双子からも一言。
「昨日変なものでも食ったか?」
「頭でも打ったんじゃないかしら」
そのあとに入ってきたカップルが会話のキャッチボールも忘れて一言。
…って!
「さっきからなんなのよ、あんたたち」
わらわらと私の周りに座っていった友達を見て言いだせば、みんなは顔を見合わせて「なぁ?」と言う。
「この2年間、1度も1限に出た試しのないあんたがいったいどんな心境の変化?頭でも打った?」
私の親友である佐伯 千遥は異様なものを見る目で言ってのけた。
「1回くらいは、」
「嘘をつくな。2限もまともに来れてないやつが」
「うっ‥」
これだけ言われて気が付くと思うが、私は遅刻常習犯だ。いや、遅刻常習犯ならまだしも、私は1限に間に合った試しがあまりない。あれだけ家が近くても。
なのに今日は遅刻どころか、授業が始まる前にすでに教室にいた。
「ほんとにもう。槍でも降ったらどうしてくれんのよ」
「降るかい!」
全身全霊のツッコミを千遥にして、私は短い茶色い髪をわしゃわしゃとかく。その時にふいに菜月さんの頭をわしゃわしゃしていた記憶が頭にフラッシュバックして思わず顔を赤くしてしまった。
「どした?」
「いや‥別に」
「で?どんな心境の変化?まさかほんとに変なものでも食べたんじゃ」
「どんな心配の仕方だよ。つーか親友が朝から来たことに対しての褒めの言葉はないんかい」
「ヨカッタワネー」
「棒読みっ!」
ケラケラと笑われてはいるが、こっちとしては笑い事ではないのだ。なぜ私がこんなにも朝早くから学校に来れているかと言うと。菜月さんのせいなのだ。
***
ジリリリリリリリリ…
けたたましいほどの大音量で目覚まし時計が頭の上で鳴り響いた気がした。まどろんでいた意識を覚醒させていくも、まぶたは相変わらず重い。
…目覚まし時計止めなきゃ。
そう思って手を伸ばした。けれどその辺で私の意識はなくなる。ぱたりと腕は降りてしまって規則正しい寝息がきっと聞こえていただろう。私も二度寝で気持ち良かった。のに。
「うっせぇんだよ、朝から!どんだけでけぇ音で目覚まし鳴らしてんだ、この馬鹿!」
「‥‥いったぁい!」
布団を引っぺがされて、ゴロゴロとベッドから落ちた私は、思い切り頭を床に打ち付けた。ひりひりする頭を抑えながら、キッと、私をベッドから落とし、目覚まし時計を乱暴に止める菜月さんを睨みつける。
「何するんですか!」
「何するはこっちのセリフだ、コノヤロウ」
菜月さんは首にネクタイをかけてスーツをきちっと着こなしていた。なんつーか、大人って感じ。
ただその顏は般若かって思うくらい怖かった。
「頭にこぶでも出来たらどうするんですか!」
「んなこと俺の知ったこっちゃない」
「はぁ!?」
女の子ベッドから落としといてなにぬかしてんの、このイケメンは!
「って、まだ8時じゃないですか!」
「8時に目覚ましセットしてるんだから8時なのは当たり前だろうが」
うっ、せ、正論だ‥。
「だいたいどんだけ目覚ましの音でかいんだよ!?耳栓でもして寝んのか!?」
「なわけないじゃないですか」
寝にくいったらありゃしないでしょ。
「つーか、なんでそんな馬鹿でかい目覚まし枕元で鳴ってんのに起きねぇの?つんぼ?」
「違います!」
「だったらもうちょい目覚ましのボリューム下げてくれる?そんなの毎日鳴らされたら俺の鼓膜が破れる」
「耳元じゃないんで大丈夫です」
「正論を返すな。こっちが迷惑なんだよ。起きれもしないのにんなデカイ音の目覚まし使うな」
それ、矛盾してません?起きれないから音がデカイ目覚ましを使うんです。まぁそれでも起きれてないんだけどね。
「音が小さくなったら私起きれません」
「子供か!…子供だったな」
「ちょっと!勝手に子ども扱いしないでよ!」
そりゃああんたに比べたら年は下だし子供に見えるかもしれないけど!これでもいっぱしのレディーなんですからね!
「いや十分ガキだろ」
「ガキ言うな、オッサン」
「ああ?」
「オッサン」
「リピートすんな。俺はまだ27だ」
あ、初知り。菜月さんって27なんだ。てことは私より7つ上か。…確かにオッサンというにはまだ早い年齢だな、くそ。つーか若いな。
「とにかくその目覚ましは使うな。耳障りだ」
「無理」
はい、即答。
だって無理なものは無理だ。
「なんで」
「だって私これないと起きれないもん」
「現状、それを使っても起きれてはないみたいだが?」
「今日はまぐれ、」
まぐれです、と言い切る前に、私の枕元に置いてあった携帯のアラームが鳴った。もちろん、音量はマックス。寝ていたらそうでもないが、起きているとかーなーり煩い。私はそれを慌てて切ると背中にすっごく嫌な視線を感じた。ぎぎぎという効果音が付きそうな感じで振り向けば、なんともあくどい笑みを私に向ける菜月さんと目が合った。
「まぐれ、なぁ?」
「あっはー」
ああ、なんかまずいかもしれない。逃げ道、逃げ道ない!?
「ずいぶん迷惑な音量だな」
「二度寝防止のためです」
「そのわりにさっきの目覚ましよりは音が小さいな」
「それはうたた寝くらいなので起きれると踏んでるからです」
と、今後は言い切ったくらいに、携帯から2度目のアラームが鳴り響いた。これも大音量。ピクリと菜月さんのこめかみがひくついたのが見えてしまった私は慌ててアラームを切る。
「もう1回言おうか?随分迷惑な音量だな」
「…サーセン」
「こんなもの何回も鳴らされたらたまったもんじゃないだが」
「やー、でも現状、これ鳴らさないと起きれない」
「鳴っても起きれなかった馬鹿はどこのだれだ?」
うわーん、菜月さんなんか怖いよー!昨日と少しキャラが違い過ぎるー!
「仕方ない、俺が起こしてやる」
「…へ?」
「聞こえなかったか?俺が起こしてやるって言ってるんだ」
何その感謝しろ、みたいな言い方は。いや、確かにありがたい話ではあるんだけど。なんでこんなにムカつくの。
千晶君のキャラ、やっぱりこういう感じのがしっくりくるなぁ(^^)
ということで、Sっ気の強いイジワルな口の悪いお兄さんってことにしました☆
これって俺様に分類されるのかな?‥どうなんだろ。