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治療

 ――――ん……。ここは、どこだ……? 俺は……どうなったんだ……?

 目を開けると、木の板張りの天井があった。背中にやわらかい圧迫感。どうやらベッドで寝ているようだ。目だけを動かすと、部屋中に瓶の置かれたガラス戸の棚がある。

「あ、起きたですか……?」

 まだ幼い、けれど落ち着いた感じの少女の声がする。誰だ?

「いてて……」

 起き上がろうとすると、身体中が軋む。

「動かないほうがいいと思う……ですよ……。せっかくくっ付けた腕……取れちゃう……です」

 言われて気付いた。切断されたはずの左腕はくっ付いており、感覚も戻っている。

 声のした方に目を向けると、少し大きめのヘソ出しルックにデニムのホットパンツ、黒のニーソックスを履き、床に付くぐらい長い白衣に腕を通さず羽織っている無表情の女の子が立っていた。手には緑色の液体が入った三角フラスコと、2本の試験管を持っている。

 茶髪のポニーテール、クールっぽいイメージの四角いメガネをかけ、その向こうにあるアーモンド形の瞳は、まるで沖縄の海のようなコバルトグリーン。大きなつり目で丸顔。猫顔というやつだろう。

 体格は小学生で、見た感じ10歳くらいだと思う。しかし、ランドセルを背負って小学校に行くようなイメージは浮かばない。冷静沈着な大人っぽいオーラが原因だろうか?

 そして頭には髪の色と同じ茶色で三角形の猫耳、小振りなお尻からは、同色で先が白く細長い尻尾が生え、ゆっくりと左右に動いていた。

 完全に猫の特徴そのものである。

「ジロジロ見るな……です。眼球……潰すですよ……?」

 持っていたフラスコと試験管をデスクに置き、さっきと同じような声音、表情で辛辣な暴言を吐く猫耳少女。なにこの子、怖い。

「あ、ごめん……。ところで、ここはどこだ?」

「船長さん……。少年くんが起きたですよ……」

 俺が尋ねると、少女は無視して黒い無線のようなものを口に当てて喋った。

「無視かよ……」

 少女が無線を切った瞬間、ダダダダッ!! と走って何かが近づいてくる音がした。音はこの部屋の前で止まり、5秒ほど経って木の扉がゆっくりと開いた。

「具合はどうだ……ショウ」

 入ってきたのはアンだった。今はあのチャイナドレスではなく、和服に似ているがそれよりも裄が長く、衿と衽の幅が若干広い衣装。おそらく漢服という中国の衣装だ。最初着ていたチャイナドレスといい、中国好きなのかな?

 肩甲骨くらいまで伸びた燃えるような紅髪をゴムか何かで1本にまとめている。

「まあ、大丈夫だけど……それよりここはどこだ? 俺はどうなったんだ?」

 目覚めたときに感じた疑問をそのまま口にする。

「ここは私の海賊船。死にかけていたショウをここに連れてきて治療したのだ。ちなみに、治療したのはその子、名前はサラ。見ての通りまだ小さいが、この船の船医をしている」

 すると、アンの服がピッピッと引かれる。引いたのはサラという少女。服の裾を掴んだまま、猫耳少女は言った。

「小さいゆうな……です」

「ああ、すまん。失言だったな」

 よしよし、とアンはサラの頭を撫でる。

「わかればいい……です」

 すごく気持ちよさそうに、猫耳を寝かせてサラは言った。尻尾が嬉しそうにフルフルと揺れている。

 尻尾ているだけにね! ……すみません。

「そっかそっか。サラが俺の命の恩人なんだな。……ありがとな、サラ」

 俺が礼を言うと、紅潮させた顔をアンの漢服の袖にうずめてサラは言う。

「別にお前のためじゃねーです……ッ。船長さんにお願いされたからやっただけ……ですッ」

 なにこのカワイイ生き物。お持ち帰り~。

 と、ふと疑問に思った。

「あれ、どうやってこの左腕くっ付けたんだ? 現代医療じゃ、切断された腕を付け直して短時間で感覚まで取り戻せる、なんてことできないと思うんだが……」

 すると、アンは「何を言っているんだ」とまるで常識のように言った。

「魔法を使ったのだから、医療など関係ないだろう?」

 魔法。俺の推測では人類種以外が使用できるもの。つまり、この娘は人類種ではない……ということか?

「そうです……私は……獣人種ベスティア……です」

 獣人種ベスティアか……。ずいぶんと迫害めいた読み方ルビだ。bestiaベスティアとはイタリア語で猛獣を意味する単語である。

 こんなに可愛いのに……。――――じゃなくて。

「あれ……。今、心読んでなかった? これも魔法?」

 そう訊くと、アンは心の底から驚いたような表情を見せた。

獣人種ベスティアは魔法など使わずとも、人の心をある程度読むことができる種族だが……。本当に知らないのか? ……先ほどからおかしいぞ。『世の理システム』を知らぬなど……。記憶喪失にでもなっているのか?」

 そうだ、この手があった。

 ここは記憶喪失ということにして、この世界のことを教えてもらえばいいんだ。

「あー、どうやらそうらしい。俺には記憶がないみたいなんだ……。できれば、その『世の理システム』とやらを教えてくれないか?」

 少し芝居臭くなってしまったが、アンは特に気にすることなく言った。

「私は構わないのだが……少し、長くなるぞ?」

 それに対し、俺は答える。

「ああ。始めてくれ」 

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