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見知らぬ場所

「……け……はやくどけ!」

 何か声が聞こえる。おそらく女性の声だ。それに甘くていい匂いがする。

 つーか、さっきから何かやわらかいものが顔の両側にあたっている。両手で触ってみると、それは今まで触ったことのない極上のやわらかさだった。いったい何なんだ?

「早くどけと言っているだろう!」

 またもあの女性の声だ。頭の上から声が聞こえる。

 顔を上げて声の発生源を見る。

 かわいい、というより、美しいという感じの女性だった。燃えるような紅い髪とルビーのようなきらきらした赤い目。凛とした、整った顔。歳は……見た感じ20代前半ぐらいだと思う。

 その頬は桜色に染まっていた。

「き……聞こえているのだろう! 早く私の上からどけ!」

 そう、俺は彼女を押し倒すような感じでその体の上にいた。顔を両側から挟んでいたのは彼女の豊かな双丘。

「あ、えと、ごめ……じゃなくて、スイマセン!」

 バッと上半身をあげて謝る。彼女の腹部に座っているような感じになり、それはそれで……。

 しかも、さっきまでは分からなかったのだが、彼女は縄で拘束されていた!

 手も足も動かせないどころか、体も動かせないぐらいにきつく結ばれているから俺を上からどかすことができなかったんだな。あとチャイナ服を着ている。横のスリットから太ももが見えるタイプのやつだ。たぶん背中も大きく開いているだろう。

 ていうかこの状況は……!?

「な、おま、それは、なにを……」

 彼女は俺の股間を凝視して呟いた。

 桜色だった顔を青に、そして真っ赤に染めた。

 ……信号機か。

 心の中でツッコみながら、彼女の目線の先にある俺の股間を見る。

 濡れてズボンが少し黒く変色している。そういえば、コップの水がこぼれたんだったな。

 ……彼女が何を思ったのか、全てが分かった。

「ち、ちちちがうんですよこれは!コップの水がこぼれただけであってけけけっしてアレをアレしたわけじゃ……」

 立ち上がって必死に弁解する俺をよそに、彼女は呪文のように独り言を繰り返していた。

「既成事実既成事実既成事実……」

「だからちがいますって!」

 

  ■  ■  ■  ■


「ふむ、そういうことか」

 落ち着いてから「水がこぼれただけです」と伝えると、すんなり理解してくれた。

「さっきは取り乱してすまなかった」

 丁寧に謝罪する彼女の体は縄に結ばれたままだ。俺が「縄をほどきましょうか?」と言ったのだが、「このままのほうが都合がいい」と断られたのだ。手だけはほどいたけどな。マゾなのか?

「私の名はアン。お前は? あ、敬語で話さなくていい。嫌いなんだ」

 アンという女性が俺を指差して訊いてくる。

「そうか、わかった。俺もそのほうが慣れてるんだ。俺はしょう。よろしく」

 すると、

「ショウ? あまり聞かない発音の名だ」

 聞かない発音? アンってのも日本ではあまり無い発音の名前だな。

 まあ、名前は人それぞれだし、最近は当て字の名前とか増えてるからな。

「ていうか、ここはどこなんだ?」

 見回すと、どうやら木造の部屋の中らしい。広さは……たたみ6畳分ぐらいかな。部屋の中央には太い木の柱が立っていて、壁際には木の樽が3つ置いてある。4段の木の階段を上ったところに木の扉。

 まるで漫画に出てくる海賊船の一室のようだ。

「ここはキャラコ・ジャックの海賊船の中だ」

 驚くべき言葉が聞こえた。

「海賊船の中!?」  

「バカ者ッ!!」

 叫んだ俺に、アンの拳が飛んできた。顔面にクリーンヒット。

 吹っ飛んだ俺は木の樽にぶつかり、3つとも破壊した。どれも中は空のようだ。

「何するんすか!」

 鼻を押さえて(なぜか)敬語で講義すると、

「ここは敵船の中だと言ったろうが! 大声を出すと気付かれるだろう!」

 すみません、俺より大きい声ですよ、アンさん。

 はっ、と気付いて口を押さえたアンは、

「てへ☆」

 右手で頭をコツン。

「おい」

 冷静にツッコむ俺。べっ、別にかわいいとか思ってないんだからな!

『何の音だ!』

『人質のいる部屋からです、船長!』

 なにやらドタドタと騒がしい。

 ばれてしまったようだな。

 っていうか、俺は何でこんなところにいるんだよおおおおおおぉっ!?

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