交差点
僕と彼女の出会いと別れ。
僕が彼女と初めて出会ったのは、小学生の頃の話になる。
あの頃の僕らは何もかもが新鮮で、全ての見る光景が美しく見えていた。
そんな中で僕と彼女は出会ったんだ。
「・・・?」
僕は彼女が、夕日をバックに公園のベンチに悲しげな表情を浮かべながら座っている姿を見逃さなかった。
正直な話をすれば、あの頃の僕はただの興味本位での行動だった。
僕は早速彼女の座っているベンチに近づいて声を掛けた。
「ねぇ、何してるの?」
僕が彼女に声を掛けると、彼女は少し驚いた表情を見せながら僕の方を振り向いた。
「・・・あ」
彼女はとても可愛らしくて一瞬で僕の心は彼女に引き込まれていった。
彼女の長くて黒い髪からはシャンプーのいい香りが漂ってきて僕の心を更にときめかせた。
彼女は不安そうに僕の顔を見ながら口を開いた。
「あ、あの、何ですか?」
「あ、うん。何だか悲しそうな顔をしていたからさ、力になれないかなって思って声を掛けてみたんだ」
僕は出来る限りの笑顔で彼女にそう言った。
それは彼女を出来るだけ不安にさせないための僕なりの心使いだ。
「そうなんですか、ありがとうございます・・・本当に・・・ありがとうございます」
彼女は今にも消えてしまいそうな声で、僕に向って何回も頭を下げてきた。
「あ、いや。そんなにお礼を言わなくても、勝手に声を掛けたのは僕なんだしさ」
彼女の腰の低さに僕は思わず戸惑う。
彼女も背格好的には僕と同じぐらいの歳だと思うのだけど、それとも元からこういう性格なのだろうか。
僕的には声を掛けた瞬間に「うざい、消えろ」とか言って僕を拒絶してくれた方が扱いやすかったりする。
どうも、彼女は間逆の位置にいる人物のようだ。
「はい。本当にありがとうございます・・・でも私は大丈夫ですから、本当にすみません・・・」
これは彼女なりに初対面の僕を心配させないようにするための行為なのだろうか。
でも、彼女のうつむいた表情を見れば、どう考えても大丈夫なようには見えなかった。
だからこそ、僕は彼女を救ってあげたくなったんだ。
余計なお世話とか余計な事とか言われても構わない。ただ僕は、こうして困っている人をただ見過ごすことが出来ないだけなんだ。
「・・・ねぇ。隣に座ってもいい?」
「え?はい・・・私の所有物ではないのですが、どうぞ」
彼女は恐らく僕が帰るものだと思っていたのか、少し驚いた表情を浮かべていた。
「ありがとう」
「はい」
彼女は僕の座るスペースを広げるために少しだけ自分の座っている位置をずらした。
僕が隣に座っても彼女は口を開くことは無く今までと同じくただうつむいているだけだった。
僕の方も最初は色々と話してはいたが、時間が過ぎて行くごとに何だか喋りずらくなってきていた。
綺麗な夕焼けがまぶしい公園のベンチに男子と女子が二人っきり、なんだか他人が見れば初々しい恋人同士にでも見えるのだろうか?
でも、実際はそんな綺麗なものではない。
ただただ。無言の時間が過ぎていく。
会話も何にも無い。
さっきまで僕が抱いていたあの正義感は何処に行ったのか、僕は完全にこの場の空気に怖気づいていた。
でも、僕は彼女の力になりたいんだ。
だからこそ、僕は自分の中に残っている僅かな勇気を振り絞って彼女に声を掛けた。
「ねぇ」
「はい・・何ですか?」
僕が口を開くと彼女はゆっくりと僕の方に顔を向けてきた。
依然としてその悲しげな表情に変わりは無かったが。
「さっき始めて会ったばかりの僕がこんなことを言うのは迷惑かもしれないけどさ、
あんまり一人で抱え込むのは良くないんじゃないかな?」
「・・・」
彼女はただ静かに僕の言葉に耳を傾けていた。
「確かに僕は聞いて聞いてあげることぐらいしか出来ないかもしれなけど、一人で抱え込んでるよりは楽になるんじゃないかな?」
僕は彼女を傷つけないように言葉の一つ一つを慎重に選んで発言していく。
「・・・貴方には・・・」
「え?」
やっと彼女が口を開いてくれた。
でも彼女が言ったその言葉は、僕が予想していた言葉とは大きく異なるものとなった。
「貴方には関係無いじゃないですか」
「確かに関係ないよね、でも僕は・・・」
「だったら放っておいてくださいよ!!!」
「ッ!」
それは始めて聞いた彼女の大声だった。
その大きな声は僕の耳だけじゃなく、辺り一面に響き渡り何処にでも聞こえるような声だった。
「どうしてですか・・・どうして今更・・・そんな言葉を私に・・・掛けたんですか・・・」
「・・・」
気がつけば彼女は泣いていた。
目からは一筋の涙が頬を伝って流れていた。
この時初めて僕は彼女の心からの声を聞いた気がした、そして彼女の抱え込んでいる悩みはそれほどまでに大きいものなんだと僕は知った。
「私一人が犠牲にすればいい事なんです・・・私一人が・・・」
「僕は君がどんな事でそこまで悩んでいるのかは知らないけど、君が犠牲になったら君の周りの人はどうなるの?」
「どう・・・なるの・・・」
「君がそう言うんだったら、君が犠牲になれば何もかもが収まるのかもしれない、でもそれによって悲しむ人の事を考えたことはある?」
「貴方に何が分かるんですか!!私の事なんか何にも知らないくせにッ!!」
彼女の言ったその言葉を聞いた瞬間に僕の中で何かが切れた。
「あぁ!!君の事なんか何にも知らないよッ!!!」
「だったらッ!」
「僕はそういう人間なんだよ!困っている人がいたら助けたくなる、助けずにはいられない、そんなハッキリ言って超迷惑な人間なんだ!!」
「こんなんだから夕方の公園で一人寂しそうにしている女の子に声を掛けたんだ。一目見た瞬間に分かったんだ、あの女の子は苦しんでいるって、一人で抱え込んで散々悩んだ挙句の果てにその女の子は間違った選択肢を選ぼうとしているって!!」
「・・・」
「だから僕は決めたんだ。君をここまで追い込んでいるその悩みを僕が解決してあげようって」
「そんな事無理ですよ・・・絶対に・・・」
「何でやってもいないのに無理なんて言うの?」
「それは・・・」
「僕のお父さんが言っていたんだ、人間やって出来ないことなんて無いんだって、無理という言葉は出来るとこを最初から諦めて逃げた弱虫の言う台詞だって」
「・・・」
「だから僕は必ず君の悩みを解決してあげる、だから話してくれないかな?」