第4話:それはとても大切な…。
『薫〜っ!一緒に帰ろ☆』
眩しいばかりの笑顔に
『義理チョコだからね。』
照れて俯くそぶりに
『本当に行っちゃうの?』
拗ねるその仕種に
『せいせいするわ!早く行っちゃいなさいよっ!!』
揺れる勝ち気な瞳に
何度、不思議な感覚に襲われ、鼓動を高鳴らせていただろうか?
今は隣にいない君。
あの頃は、一緒にいるのが当たり前だと思っていた。
当たり前の事など何もないのに。
別れの日に現れなかった君。
馬鹿な俺は、君を非難していたんだ。
来たくても無理だったのにね…。
その事を街についた一週間後に聞いた時
恥ずかしさと悲しさ、そして初めて高鳴る胸の正体に気付いたんだ…。
途中で事故に遭った君は、大きな病院がある都会へと家族と行ったんだよね。
連絡先も状態もわからないまま時は過ぎて行き、愚かな俺は、いつの間にか、君を忘れてしまってたんだ。
『薫〜!』
中学二年迄、当たり前と感じていた二人の日常。
まどろみの中、久しぶりに聞く君の声に…。
今、改めて当たり前の大切さを実感するよ。
「…ちゃん、薫ちゃん!」
「……ん。乙姫?」
「早く起きないと、遅刻しちゃうぞ?」
「…朝…か。」
腰に手を当て、呆れ気味の乙姫は、何かに気付いたのか、心配げに声をかけてくる。
「…涙。悲しい夢でも見た?」
「…夢…。そうだな。」
軽く伸びをし、笑顔で答える。
「とても懐かしい。大切な夢だよ。」
…そう。忘れてはいけない大切な事。
「そうなの?」
たずねる彼女の声に重なる様に、月姫と織姫の騒ぎ声が聞こえてくる。
「…ああ。」
相変わらずの朝からの騒がしさに、苦笑を交えながら答える。
当たり前になって来ているこの街の日常。
「じゃ、着替えるから。」
「手伝うよ?」
当たり前の用に答える乙姫。
「遠慮します。」
そんな日常だからこそ、大事にしなきゃいけないんだよな?
カーテンから漏れる、淡い光に目を細めながら俺は、大切な想いを思い出させてくれた君に、感謝をしつつ問う。
「…そうだろ?花音。」




