第3話:織姫のお誘い。
「薫く〜んっ」
部屋で、日課である誠の藁人形に必死に釘を刺しているときに、扉の向こうから舌ったらずな声で呼んでくる。
「入っていいぞ。織姫。」
「はぁい。」
中学三年の一番下の妹(コイツは実妹だ)が入ってくる。
相変わらずチビだな。150cmは絶対ない。
「…薫くん。何してんの?」
俺が額に汗を浮かべながらしている懸命な作業に、ジト目でたずねてくる。
「見てわからんか?世界平和の第一歩へ向けての神聖なる儀式だ。」
「神聖じゃないじゃん!」
少し引いた目で俺を見てくる。
…悪魔超人三姉妹が一人に引かれるのとは。
「薫く〜ん?死にたいのぉ?」
「何がですか?マイ・スィート・シスター。」
額に青筋を浮かべるのを見てまで、馬鹿にする勇気はありません。
「それより何の用だ?後、薫くんではなく、お兄様だ。」
月姫ですら、お兄ちゃんと呼ぶのに。
「良いじゃん。昔みたいに、かおくんにする?」
相変わらず舐めきっとるな。
「…で、何か用か?」
少しモジモジし、チラチラッとこちらを見てくる様子に、嫌な予感を感じる。
「薫くん。明日デートして。」
「却下!」
0.05秒で切り捨てる。
「ひどぉ〜いっ!」
「ぐはぁっっ!!」
瞬間首が捻れるほどの、ビンタがとんできた。
「く…首が背中とコンニチワ!」
「そんなに早く、断らなくても良いじゃないっ!」
「首がモゲルような、ビンタしなくても良いじゃないかっ!」
「逆らうものには、死、あるのみなの。」
「始めから、選択件ないじゃんっ!」
ユラッと闘気を出しながら、迫り来る悪魔超人。
……恐いよぉ。
「ま、待て!お前まで、乙姫や月姫みたいな行動するなっ!」
「あたしが、本家なのっ!!」
「本家も分家もいらんわっ!何が悲しゅうて妹とデートしなけりゃならんのだ!!」
「兄は、妹に尽くすものなのっ!!」
…あかん!目が血走ってる。
「ちょぉっと、まったぁぁっ!!」
バンッ!
黄泉の国に旅立つ覚悟を決めた時、勢いよく扉をあけて、月姫が登場した。
…ちぎれ飛んでたな。
「話は聞いたわっ!」
…ややこしくなりそうな予感が。
「兄は妹に尽くすもの…。それは同感だわ。…でもね…。もう出来ないの。」
「どうして?月姫ちゃん?」
「それはね…。」
怯えた俺と、ちぎれた扉をバックに真剣な表情で向かいあう。
「…それは?」
「もう私専用に奉仕するお兄ちゃんだからよっ!!
」
「アホかぁーーっ!!!」
「ええっ!!」
俺の魂の叫びに、月姫は驚いたかなように
「私の奴隷になるって言ったじゃないっ!」
…北斗○拳使われそうだったからな。
あの日の悪夢を思い出す。
あの時すでに、誠は倒れてたよな…。
『恐るべし、北斗三兄弟。…ガクッ。』
とか言ってたな。
「月姫ちゃん…。それは本当?」
「もちろんよっ!」
「ちゃうわいっ!!」
俺の叫びを無視し、会話を進行していく。
「そう…。いつかは来ると思ってたけど。」
「ふっ…。やる気?」
見つめ遭う二人の間には火花が散、部屋中に闘気の渦が…。
ガクガクガクガク…。
部屋の隅で膝を抱えながら目を閉じる。
…タスケテ。お母さーん。
「死ねやぁっ!」
我が妹とは信じられん、ドスの効いた声で言いながら、月姫に拳を振るう。
「甘いわっ織姫!私とお兄ちゃんの愛には割り込めないのよっ!?」
部屋を崩壊させながらやり合う二人を尻目に、飛んで来た椅子に頭をぶつけ、気を失うのであった。
ちなみに目を覚ますと、乙姫に縛られて、拉致されていた。
「ん〜?私も薫ちゃんとデートしたかったしぃ。」
…もう、ヤダ…。




