第38話:少女達の恋。その1
「好きですっ!付き合ってくださいっ!!」
「ごめんなさいっ」
告白の言葉に間髪入れず私は答えた。目の前の男の子は傷付いた表情を浮かべ下を向いている。
「…ごめんなさい」
私はもう一度彼に言うと、背を向けここから−−屋上から足速に歩きさった。
「…はあ」
屋上から教室へと向かう途中の階段。降りながら知らず知らずと溜息が漏れる。
あんな傷付いた顔されても困る。断る方だって傷付く事はあるんだから。
はあっともう一度溜息をつくと横から声がかかった。
「花音ちゃん」
ちらっと視線を向けた先には、私が転校して来てから仲良くしている女の子で…まあライバルの一人でもある星野由香がニコニコしながら、私を見つめている。
「なによ…」
少し憮然として答える私に気を悪くするふうでもなく、私と歩みを共にする。
「付き合うの?」
「本気で言ってるそれ?」
彼女の問い掛けに、半眼になりながら尋ねかえし、どうせ聞いてたんでしょと口の中だけで言葉にする。
「モテモテだよね?花音ちゃんは綺麗だから」
「…由香に言われたくないわよ」
目の前の美少女に言われてもあまり嬉しくはない。
「でも転校して来てからもう10回以上告られてるでしょ?」
「…13回よ」
その言葉に、凄いねと目をパチクリとさせている。その仕草一つ一つが可愛いらしく由香が人気があるのも頷ける。
「転校して来てからまだ1ヵ月くらいなのに、凄い数字だね」
「迷惑よ」
称賛ともとれる言葉を、私は切って捨てる。その言葉に言い過ぎよと嗜めの視線が向けられるのがわかるけど、私は訂正する気はない。
「私は、今流行りの何となく付き合うとか、ただカッコイイ・可愛いとかの理由は大嫌いなのよ」
「薫くんもいるしね?」
薫。その名前を聞いただけで私は頬が熱くなってしまう。ごまかすかのように、少し声をあらげ
「たった1ヵ月で私の何が好きになるのよっ。顔だと言うなら殴ってやるわっ!」
「花音ちゃん恐〜い」
おどける由香だけど、まぁわかるけどねと、私に言う。彼女だって告白の数は半端ではないのだから。
私は自分が美少女だと自覚している。だから何なのよってよく思うけど、カワイコぶりっ子する気はない。事実は事実として受け止めている。…自分から口に出す事はないけど、言われれば素直に答える事にしている。その方が嫌味にならないから。
「でも中には、きちんとした理由がある人もいるでしょ?」
肩にかかる髪を指で遊ぶ彼女に、傷むわよと注意しながらその言葉に対しての返答をする。
「…中にはね。でもやっぱり曖昧だし、それにどの道付き合う気なんかないから」
それは由香も同じでしょう?続ける私に、頷く彼女。
「一目ぼれを否定する気はないし、外見を疎かにする気もないけど」
「私には無理ですってかな?」
言葉を奪う由香に、私は軽く頷く。
外見を否定する気はない。外見なんか気にしないなんて言葉は嘘だから。第一印象は外見以外にはありえない。始めから内面がわかれば、それはエスパーだ。それに…外見を気にしないって言葉は、やっぱり気にしない事を気にしている証拠だから。お化けみたいな顔をしている人と付き合える人なんかはいない。
そこまで考えて、私は言葉を続けていく。
「私の恋愛は…そんなものじゃないから。確かに彼の顔は好きだけど」
「10年以上熟成させてる恋だもんねー?」
「そんなワインみたいに…」
お気楽チックな台詞に苦笑しながら、歩みを止め軽くデコピン。痛いと可愛いらし唇を尖らせて抗議する彼女を無視し、先に進む。
「確かに、花音ちゃんみたいな恋愛してる人から見れば、嫌かもね」
急ぎ足で追い付く由香を見ずに、私は言う。
「彼らの…まあ彼女達も当て嵌まるけど、そう言う恋愛感を否定する気はないわ。ただ私には無理なだけ。ろくに話もしない私に、しかもたった一ヵ月程度の時間で告白する勇気は凄いけどね」
「好きになるのに時間は関係ない。付き合ってくださいからの言葉からお互いを知ればいい。…前に私が言われた台詞だけど」
てへっと舌を出し言う由香に視線を向け
「それも否定しないわ。でもやっぱり無理」
10年以上彼を見続け、また会えなかった3年間も彼を思い続けたのだから。
嘘をつくときの癖・苦手な食べ物・得意な科目から言えばきりがないけど、私は殆ど知っている。自分自信の人生と同じ年月を常に隣にいた彼を心から追い出す事なんか、私に出来ない。そんな事は死と同じだ。
「まあ…わかるんだけど、でも理解してくれる人は少ないよ?私も月姫ちゃん達も、かなり反感かってるから」
「…わかってるわ」
取っ替えひっかえ男を換えてるわけではないから、女子からの反感はあまりない。まれにしてもないのに彼氏が寝とられたと騒ぐ子もいるけど、男子はそうはいかない。逆恨みが最近かなり多く、矛先が薫に向く事も多い。
「薫くんも大変ねぇ」
「…あんたも原因の一人でしょーが」
「えへへっ」
「ったく…教室ついたわよ。この話しはおしまい」
目的地についたと同時に、授業の開始を知らせるチャイム。それに被さるように、はーいと返事する由香と共に私は教室へと足を踏み入れた。




