第37話:独白。後少しはこのままで・・・
「…暑いな」
休日である日曜日。俺は何をすることもなくブラブラと町を歩いている。
季節はもうじき夏へと移り変わろうとしていて、町の雰囲気もどこかしら明るい。
「そう言や、皆で海に行こうって言われてたっけな?」
ふと目に留まった旅行会社を見ながら呟く。
(海だけじゃなく…花火も祭も)
楽しそうに、嬉しそうにハシャギながら話していた姉妹・幼なじみ達の姿を思い出しながら、空を仰ぎ見る。
「昔じゃ考えられないくらい騒がしくなったなぁ」
楽しいけどと口の中だけで続ける。
俺の周りには魅力的な女の子達がたくさんいる。野郎達は羨ましがるけど、それなりに俺にだって苦労はある。
「皆…縁深いんだよな」
ガキの頃以来に再会した、月姫・乙姫。馬鹿なガキだった俺は何も考えずに彼女達と将来を約束し、また彼女達はそれを信じている。今時そんな子いないのに。
実妹の織姫は、何時まで経っても兄離れできず、それどころか求愛してくる。俺もそれをマジには断っていない。大切な妹だから。
そして…会えないと思っていた花音。一番俺に近い幼なじみ。こっちに来てからは昔じゃ考えられないようなアプローチをしかけてくる。もし、引っ越す前にあんな感じだったなら…多分今頃は恋人だっただろう。
まだ他にもいるが…。とにかく彼女達の存在は俺の中ではデカイ。
ダラダラ続くお遊びのような関係。何も言わない彼女達に甘え、俺は現実から逃げている。
「いつまでも続くはずなんかないのにな」
皮肉気な笑みを浮かべながら思う。
いつかは終わりを迎える関係。誰かと結ばれた時夢は覚めるんだろう。甘い夢は。
周りの生徒たちに優柔不断・遊び人など陰口を叩かれている事は知っている。 だが反論する気はかけらもない。
(気持ちを知っていながら、何もせず日々を暮らしているのは事実だからな)
彼女達を真剣に好きな男達にとっては、俺は最悪な人間だろう。また彼女達の女友達にとって次に、前に進めないと非難する対象者だ。
「わかっているんだよ。わかっているんだけど」
恐いんだよ。心の中だけで最後は言う言葉。今を、今の心地良い環境を失いたくない。全ては俺の我が儘だとしても。
「…なんか、柄にもなく考えちまったな」
町中には、夏に期待して浮かれ気分のカップル達が多く目立つ。そのせいで、考え込んでしまったみたいだ。
はあ。と軽く溜息を吐くと前にいる存在に気付く。 いつの間にか、家はもう目の前。そして家の前には、俺を悩ます我が儘な女神達が微笑み手を振っている。
自然と頬が緩み、笑みが零れてしまう。
いつかは出さなければならない答。それはもしかしたら決別、悲しい別れと続くかもしれない。だから今は…我が儘かも知れないが溺れていたい。このはかなげな夢の海に。少しくらいは、後少しは許されるよな?
誰にも聞かれる事なき独白をしながら、俺は彼女達に向かって駆け出し、満面の笑みと共に言う。今ここにある幸せを噛み締めながら。
「ただいま」
かなり久しぶりなシリアス編です。普通に考えたら薫は周りからみたら最低に思われるんでしょう。自分自身も経験があります。恐くて逃げて、周りを傷付けるとしても甘えてしまう世界。好きになる理由・臆病になる理由は人それぞれですが、素直になるだけでは幸せになれない事もあります。人を好きになるのは簡単に見えて、とても大変な難しい事ですね。




