第30話:伝説の勇者様。その2
「ていっ!」
ガツンッ!
乙姫から立ち上る妖気を浴び、死を覚悟し目をつぶっていた俺に、聞こえて来た可愛いらしい声と鈍い音。
「〜〜っ!?」
何事かと目を開けると、頭を押さえうずくまる乙姫と、その後ろには電波系お姉さんの姿。
お姉さんの手にはどこから取り出したのか金属バットが。
(なな何て恐ろしい事をっ!?)
お姉さんのその行為に、これから始まるであろう惨劇に恐怖してしまう。
乙姫の頭の心配はしない。…だって乙姫だもん。
「大丈夫ですかっ!?勇者様!?」
「あ、あぁ…」
さすがにいきなりこんなのを見せられては、得意のツッコミもできない。
「悪は滅びましたっ!」
グッと拳をにぎりしめ高らかに宣言する彼女。
「いや悪って…。大体そのバットどこから?」
「女の子には秘密が付き物です」
「……」
黙り込む俺にお姉さんは、フムと頷くとこう言いやがりました。
「テレレテッテテ〜ン♪金属バット〜」
「やかましいわっ!!」
「ドラえもん嫌いですか?」
「ダァーッ!好きも嫌いもあるかぁっ!いきなり乙姫の頭はドツキやがって!」
おバカなお姉さんの行動にいつも通りのテンションが復活した俺に甘ったるい声がかかる。
「嬉しい。薫ちゃん心配してくれてるのね?」
…乙姫さん?あんた頭大丈夫なんですか?
いつの間にか立ち上がり、両手を胸で祈るように組み目を潤ませている。
「ふっ…さすがだな」
これ以外の台詞が思いつかんっ。常人なら即死のはずなのに…。
改めて御子柴一族の恐ろしさを噛み締めていると、乙姫がこちらに駆け寄ってくる。
「薫ちゃ〜んっ!」
しかし
「そうはさせませんっ!」
またも立ち塞がるお姉さん。いきよいよくバットを振りかぶるが、バシッとそれを片手で受け止める乙姫。
すげえな…。普通無理っすよ。
「何するんですか?」
目を細め見遣る乙姫の姿にお姉さんが脳天気に答える。
「テレレテッテテ〜ン♪金属バット〜」
「それはもう良いっちゅーねんっ!」
律義だな俺って。一つ一つにキチンとツッコミ入れるし。
「何を考えてるか知りませんが覚悟は出来てますか?」
メキィっ!と言う音と共に金属バットが握り潰された。
(ひぃやぁっ!?)
恐いっ!恐すぎますっ!
お姉さんは平気な顔をしてるが、俺には無理っ!
ガタガタガタガタッ。
道の隅で膝を抱え涙目で震えるその時。
俺の耳に聞きたくない奴の声が、いや歌が聞こえて来た。
「デンデンデデンデンデデンデデンデデンデっ♪」
俺の天敵であるそいつは、妙な動きをしながら歌い俺の前に立ち塞がったのだ。
そう今流行りのお笑い二人組みたいに。
「武勇伝♪武勇伝っ♪」
ぷろろ〜ぐを除けばめでたく30話!何処まで続くんでしょうな。これからも頑張りますのでヨロシクです。




