第29話:伝説の勇者様。その1
「待っていましたよ、勇者様!」
今は学校からの帰り道。乙姫ともに歩いていたら突然声をかけられた。女子大生のような感じの人だ。結構美人さんなのだが…痛い人種にはこれ以上関わりたくないので軽くスルーする。
「間に合ってます」
「ああっセールスではありません、勇者様!」
「ええいっ縋り付くなっ!」
涙目で俺に縋り付くその姿は、まるで悪代官と町娘。冗談じゃない、これ以上変人に好かれてたまるかっ。
「薫ちゃんってなんか変な人に好かれるフェロモン出してるの?」
首を傾げながら乙姫は楽しそうな目で俺を見る。
(てか、あんたもその変な一人だろっ)
口には出せない(恐いから)心の中でささやかなツッコミを入れてると
「何ですってぇっ!」
目を見開いて、怒鳴り付けて来た。
「ひぃぃっ!?」
忘れてたっ!俺の周りの奴は心の中どころかモノローグさえ読む奴ばかりだったんだ!
「変人なんかじゃないよね?」
「その通りですっサー!」
取りあえず軍人みたく直立不動で答える。…気のせいか口元に牙見えたんだもんっ。
「あのぉ」
「ん?」
声に振り返ると、なぜか顔を赤らめながらモジモジしているお姉さん。
「いきなり放置プレイなんて…大胆なんですね♪」
「なんでやねんっ!」
「なんかドキドキしちゃいました」
「ダァーッ!何でこんな奴ばかり寄ってくるんだぁっ!!」
一人クネクネと怪しいダンスを踊るお姉さんに、激しく頭を痛めながら絶叫する。
「薫ちゃん、変な人はほっといて早く帰りましょ?」
「あ、ああ。そうだな」
「お待ちください!」
「わっ!?抱き着くなよっ」
むうっ。抱き着かれ気持ち良い…もとい迷惑ではないか。
「ちょっとオバサン。薫ちゃんに何か様なの?」
「オバっ…!?私はまだ二十歳ですっ!?」
いつになく攻撃的な乙姫の口調と台詞にお姉さんも少し怒り気味だ。
「はぁ…。お姉さん何の用なんですか?」
「決まってます!勇者と言えば魔王退治しかありませんっ!」
グッと握りこぶしを掲げ力説するおねぃさん。…危険だ。危険すぎるぞっ。
「さぁ魔王退治に出掛けましょう!」
「いやちょっと待てっ!そんなんに関わる気はないっ!」
腕を掴み連れていこうとする彼女にキッパリと言い切ってやる。…ちょっと男らしいな。
そんな俺の想いをよそに乙姫は今だ怒り気な雰囲気でお姉さんを見つめている。そしてお姉さんは
「そんなっ!?私の事を忘れたのですかっ!?」
ガーンと擬音が聞こえてきそうな程の表情で俺に訴えてくる。
「いや…忘れたも何も初対面だし」
「違いますっ!貴方と私は知り合いですっ!…前世で」
「おーい」
今なんか変な台詞が聞こえたが…。
「前世で貴方は勇者様。そして私は従者だったのです」
電波だ。このお姉さんは怪しげな電波を受信しているっ。出来れば受信だけで、こちらに発信はしないで欲しいんですけど。
「いえ、勇者様と従者と言うより、御主人様と奴隷。それはもう毎夜くんずほぐれつな関係だったのです」
「公道で馬鹿な事言うんじゃねぇーーっ!」
どこか得意げな顔の彼女に激しくツッコミを入れる俺。そんな俺に乙姫が今にも襲いかからんばかりの表情で問い掛ける。
「薫ちゃん?そんな事してたの?いけないなぁ?」
「ばかっ!冷静にに考えろ!明らかにおかしいだろっ!!」
「全て事実です。」
「何を言うっ!?」
「御主人様ったら激しいんですからっ♪」
「ふざけるなぁーーっ!!」
勇者からいつの間にか御主人様に変わった俺。頬を赤らめながら濡れた瞳で見つめてくるお姉さんを横目に乙姫は地獄少女の様に呟いくるのだった。
「いっぺん…死んでみる?」
久々?に続き物です。そういや最近シリアス編書いてないなぁ。これには関係ないんですが、ファンタジーの方でも新しく書き始めました。《夜空に架ける三日月に》と言うタイトルです。らぶ・ぱら☆とは、まったく違う文章の作りとなってます。よろしければ見てやってください。




