第2話:たまにはこんな日も…。
『らぶのらの字もないよな。』
『これって恋愛物だったっけ?』
……はっ!?今、天の声が聞こえたような。
「どうかした?薫ちゃん。」
突如降って来た天の声に戸惑っていると、隣を歩いていた一つ上の姉が声をかけてくる。
今は学校帰りだ。
「なんでもないよ。お姉ちゃん」
「もう。いつも言ってるでしょ?乙姫って呼んでよ。」
プクッと頬を可愛く膨らまし、睨んでくる。
栗色の肩までかかる髪にクリクリッとした瞳。
月姫が綺麗なら、乙姫は可愛い部類になる。
「だって、お姉ちゃんだし。」
「昔は呼び捨てだったじゃない?」
鞄をブラブラと揺らしながら、懐かしむような表情で俺を見つめる。
(だって、年下だと思ってたし。)
今でも、生来の童顔のせいか見ようによっては、年下に見られることがある。
(まぁ…その割には胸はでかいけど。)
不謹慎な事を考えていると
「薫ちゃんのえっち!」
パンッ!と鞄をぶつけてくる。
「なっ…!まさか心を!?」
疚しさ爆裂な心を読まれたかと慌てるも
「うふっ。心を読まないでも、薫ちゃんの顔を見ればわかるよ?」
コロコロと笑いながら答えてくる。
…結局、心は読めるのね。
今は亡き、我が人権を何とか復権出来ないものかね?
叶いそうもない願いを胸に秘め、乙姫に目を向ける。
「…ん?」
目が遭うと、軽く小首をかしげ、そして何かを思い付いたかのように腕を絡めてくる。
「ちょっ…!乙姫!!」
「あははっ☆乙姫って呼んだねっ。」
動揺のあまり、つい出た言葉に嬉しそうに目を細め、絡める腕に力を込めてくる。
「ああっ当たってる!」
「あはっ。顔真っ赤!興奮する?ガォーッてなる?」
「な、何言ってんだよ!」
(どうもやりにくいなぁ。)
さっきまで、狂犬(月姫)を相手にしていたせいか、微妙に甘い雰囲気に調子が狂う。
(てか、本来同類のはずなんだが。)
「誰が何の同類なの?」
「…な、何の事でしょう?」
ムッと睨みながらも腕を離そうとはしない。
…やっぱり、心読めるんじゃん!
そう思いつつも、普段なら他の姉妹に負けず劣らずな行動をとるはずの乙姫が、今日は可愛く見えてくる。
…まぁ、実際可愛いけど。
「前半部分は余計だけど、褒めてくれてアリガト♪」
頬を朱く染め、瞳を潤ませて見つめてくる。
「だ、だから心を読むなって!!」
ヤバイッ!いつもとのギャップのせいか、メチャクチャ可愛い!!
「な…何だ!罠かっ!?…はっ!?わかったぞ!さっきの天の声の仕業か!!」
「何言ってるの?…薫ちゃん。私だって女の子なんだよ?」
……はうっ!
トドメを刺すような台詞を。
「いつもは、薫ちゃんの事、殴ったり蹴ったり投げ飛ばしたりしてるけど…。」
…おかげで、丈夫になりました。
変な感謝をしていると、小さな声で
「たまには…ね?」
「…そうだな。」
たまには、こんなのも…良いよな?
そう気分を切り替えると、夕日に照らされた町並みに二人の影を混じらせ歩き、久しぶりの感覚に心地良く家路に向かうのだった。
ちなみに、二人の様子を見ていた月姫は、まさに世紀末覇王のごとく門で仁王立ちし、それを見た俺は学校に逃げ帰るのだった。
合掌。
「ちょっと!ヒロインである月姫様の出番これだけっ!?」




