第1話:いつもの昼休み
振り向くと、少し猫目気味な瞳で、俺を見つめる髪の長い女子がたっていた。
「もう。髪の綺麗な絶世の美少女なんて、照れるじゃない!」
体をクネクネとしながら、俺に微笑みかけてくる。
「言ってない。言ってない。てか、心の中どころか、モノローグまで読むなっ!」
(俺の周りには、変人エスパーしかいないのか?)
「美少女は心の中だろうが、モノローグだろうが、読解可能なのよっ!!」
「さいですか…。」
自分で美少女って言ってるよ…。まぁ、確かにそうなんだけど。
「あら、よくわかってるじゃない♪」
(…お願いだから読まないで。)
心の中で涙ながらに、プライバシー保護を訴えていると、思い出したかのように
「…で?悪魔って私じゃないよね?」
「いや、君に決まってるギャハラワニャヌヒャッ!!!」
口を挟んだ誠が、意味不明な言葉を残し、突如襲った衝撃に、キリモミ状態で消えていく。
(…死んだな。)
冥福を祈りつつ、笑顔で拳を拭っている彼女に弁明を試みる。
…死にたくないし。
「ふっ…。やだなぁ。月姫。んな訳ないじゃん!可愛い妹が悪魔だなんて!天使…いや、女神様だよっ!!」
「くすっ…。そうよね?可愛い妹が悪魔の訳ないものね?」
…あぁっ神様!!
誠とは違う意味で、助けを請いたくなる。
“御子柴月姫”
俺の三人いる姉妹の一人だ。
厳密に言うと、兄妹ではない。従姉妹にあたる。
ガキの頃、ある事情があり、俺ともう一人の妹は、御子柴家に引き取られたんだ。
従姉妹の姉もいるんだが…。
女ばっかしだよな。
御子柴家は、武術の道場を構えていてる(門下生はいないけど)
皆、化け物じみて強いんだ。
ちなみに、今、御子柴家にいるのは、俺と三人姉妹だけだ。(二人は従姉妹だが。)
この家の中では、俺の地位はダンゴムシ以下な気がするんだよな。
…はぁ。
「…まぁいいわ。なんか彼女が欲しいとか騒いでたみたいだけど?」
「なんだ、聞いてたのか?」
「あれだけ騒いでたら聞こえるわよ。」
苦笑まじりに答えてくる月姫に、納得し、答える。
「まぁ…。彼女欲しくない奴はあまりいないだろ。いない奴にとっては辛いんだよ。」
「ふぅん。でもお兄ちゃんには関係ないじゃん。」
「なんで?」
「私の奴隷だから。」
「なんでやねんっ!」
サラッと答えてくる悪魔に、誠の時以上に力を入れて突っ込む。
「あははー。関西弁だぁ。冗談よ。彼氏よ。」
「いや、違うし!!」
「どーしてっ!?あの暑い夜は、二人で抱き合って寝た夜はなんだったの!?」
「夜も朝も、何もないわっ!!」
「まぁ…。勝手に私が、寝てるお兄ちゃんのベットに忍び込んだんだけど。」
「おいっ!!」
「お兄ちゃんの寝顔可愛かったわ♪」
ヨダレを拭く仕種を見せながら、うっとりとした表情で遠くを見つめる。
…ここに痴女がいるよー。
今更ながらに、この悪魔に戦慄する。
「やはりそんな関係だったのかっ!!背徳だぁーっ!!!」
(…ちっ。…生きてたのか。)
復活した誠が、どこからともなく現れ、ビシィッ!と月姫に指を向ける。
「愛があれば、何をしても許されるのよっ!」
…いや、それは違うと思います。
「しかし、兄妹だなんてっ!」
「正確には従姉妹だから、OKよっ!!」
「裏切り者ぉ〜っ!!!」
月姫の台詞に衝撃を受け、またもや血の涙を流しながら叫ぶ。
「いや…。裏切ってないし。従姉妹なの知らなかったのか?」
「ぐぬぬっ。貴様彼女いないと、出来ないと言っていたではないかぁっ!」
「あら、でも私の事好きって前に言ったわよ。」
(…あぁ言ったさ。包丁押し付けられたからな。)
思い出しただけで、背筋が凍る。残りの姉妹も似たようなもんだし。
「軍曹っ!軍治裁判ものだぞっ!懲役500年だっ!!」
「…帰っていいですか?」
前頭葉が痛い…。ギャグで言えば、頭痛が痛いってやつ?
「軍曹っ!!…面白いじゃないか。懲役250年に減らしてやる!」
「俺の心を読むなっ!!」
「そうよっ!お兄ちゃんの心は私だけのものよっ!!」
「ちが〜〜うっ!!!」
…はぁ。…もう嫌。
溜息をつくなか、昼休みの終わりを告げるチャイムがなるまで、いつもの馬鹿騒ぎは続いて行ったのだった。
「その内、体も私のモノになるんだからぁっ!!」