第18話:幼なじみ。
「か…のん?」
振り向くと、そこには風に舞う花びらに囲まれる様に、一人の少女がたっていた。
最後に見た時より、少し大人になった顔立ち。
しかし、勝ち気な瞳は昔と変わらず俺を見つめている。
―これは夢か?
いるはずがない、逢えるはずもない少女の出現に軽く目眩に似た感覚に襲われてしまう。
ぎゅっ。
呆然と立ちすくむ俺に、駆け足で近付き、いきなり抱きしめてくる少女に、やっと意識が覚醒する。
「なななっ!」
「うふふっ。」
抱きしめられる感覚に動揺している俺を可笑しそうに見つめる瞳。
「久しぶりだね?薫。」
「…ホントに花音なのか?」
「くすっ。ひどいなぁ。私の顔忘れちゃった?」
…忘れるわけがない。
あれからずっと気になっていた存在。
ついこの間は、夢に見たほどなのだから。
「わわ忘れるわけないだろっ!全然変わってないしっ!」
「私変わってない?」
「あ…あぁ。」
焦るあまりドモル俺を見つめ花音は続けていく。
「薫は変わったよ?」
「…えっ!?」
「前よりも更にカッコ良くなった…。」
彼女はそう言うと、俺に抱き着く腕に力を込める。
(なななっ!?何なんだっ!?この展開はっ!?)
遠距離恋愛中のカップルみたいな甘い雰囲気に、誠達との馬鹿に慣れきった俺は、ただただ焦るばかりだ。
「と、とりあえず離れてくれないか?ひ、人の目もあるし。」
「ん…。わかった。」
少し名残惜し気に体を離す花音を見ながら、やっと余裕が出てくる。
(―綺麗になったな。)
率直な感想だ。昔から整った顔立ちをしていたが、成長したぶん更に美しくなっている。
「なぁに?私に見とれてるの?」
「ばっ馬鹿言うなっ!」
嬉しそうに微笑んでくる花音に、つい声が大きくなってしまう。
(いかん。このままでは話が進まんっ。)
速くなった動悸を無理矢理鎮めつつ口を開く。
「…とにかく久しぶりだな。」
「…うん。」
「色々と聞きたいことがあるけど…。どうしてここに?」
「薫に逢いに。」
「い、いや冗談は…。」
「冗談なんかじゃないっ!」
「花音?」
「冗談で、連絡先も行き先もわからなかった相手の所に来るわけないでしょっ!!」
「………。」
俺の言葉に気が触れたのか、大声をあげる花音の剣幕に押し黙ってしまう。
「…ごめんね?いきなり怒鳴っちゃって。」
「いや…。」
僅かに出来た沈黙に、気まずさを振り切るかの様に、頭を軽く振ると花音は話を続けていく。
「ホントはね。今日からここに住むの。」
「…えっ!?」
そう花音が指差す所は…。
「まだ乙姫さんから聞いてないんだよね?」
だって、そこは…。
次々に襲う衝撃に、もはや言葉を失ってしまった俺に、彼女は透き通る様な声を一段高くして俺に告げてきた。
「今日からヨロシクね?幼なじみさんっ♪」
ギャグがなかった…。どうも花音が絡むと。もっとも感動の再会にギャグもアレですが。さて、薫君は、これからどうなるのでしょうね?




