第17話:花の薫が。
「喜べ親友っ!」
本日の授業が終了し、帰宅準備を進めていると誠がいつもの様に騒ぎだす。
「どーした?」
何がそんなに嬉しいのか満面の笑みを浮かべている。
「うむ。我が調査員が秘密情報を手に入れた。」
「俺は、秘密情報より調査員が誰かの方が気になるぞ。」
「えへへ。私でーす☆」
…星野由香。段々と堕ちて行っているな。
「友達は選んだ方が良いぞ?」
「だって写真くれるって…。」
「…おい。」
またか。またなのか?
「うむ。衝撃的瞬間を捕らえた、今世紀最大の作品だっ。」
「何がだっ。いつの間に撮ってるんだよ!俺の人権返しやがれっ!」
ガックンガックンと誠を揺らしながら喚く俺に由香が、どこかウットリとした表情で言ってくる。
「薫君の一人遊びの姿…可愛かった♪」
―ビキィィッ―
世界が凍り付いた。
「…今なんと?」
「エヘッ☆」
「笑ってごまかすなぁーーっ!!」
ちくしょーっ。何なんだよコイツらはっ。
「私にも寄越しなさいっ!!」
どうやって殺そうか、考えていると聞こえる叫び声。
…月姫よ。兄に対する思いやりはないのか?
「お前は、俺の恥を笑いたいのかっ!」
「あら。恥の部分が良いんじゃない。」
何故か“恥の部分”を強調する言い方。
「そんなもん貰ってどうすんだよっ!!」
「決まってるじゃないっ。今夜それで……げふんげふん。」
「死ねぇーーーっ!!」
月姫は途中で言い止めたものの、得体の知れん恐怖に襲われ、思わず叫び声を上げる俺。
「…もうイヤだ。」
傷付き涙する俺に、諸悪の根源が優しく微笑む。
「泣くな親友よ。心荒れたお前の為に朗報を告げてやる。」
(貴様のせいだろうが!)
「なんか明日から転校生が来るみたいだよ?」
怒りのメーターを振り切った俺に構わず笑顔な由香。
「うむ。しかも貴様の3姉妹やユーカりんに匹敵する美少女らしいのだっ!!」
(…俺の3姉妹じゃねーから。)
拳をにぎりしめ語る誠に疲れた視線を送ってやるが、もちろん気にしやがらない。
「この学院に、まだ毒されていない女子が来るのだ。これはもう、明日登校前に待ち伏せして、我らの魅力を語るしかないっ!!」
「お前が、口を開いた瞬間に転校生も近寄らなくなるわっ。」
「では、かくなるうえは拉致監禁っ!?」
「捕まるわっボケェっ!」
「もちろん貴様が実行犯だ。」
「薫君、わたし面会に行くからね。」
「もう黙れっお前らっ!」
「そうよっ黙りなさい!」
「…月姫?」
俺の言葉に続く様に誠達を窘める月姫を、俺は驚きを隠し切れずに見る。
だって、あの月姫だぞ?
「お兄ちゃんは、転校生に興味なんかないし、そんな馬鹿な事しないわっ!」
「月姫…。」
なんか涙が…。あの月姫が俺を弁護してくれるなんて。
「だって、お兄ちゃんは私にメロメロな奴隷なんだからっ!!」
「やかましいわっ!!俺の感動を返せっ!!」
なんなんだよっもうっ!コイツらはっ!!
「もういいっ帰るっ!」
これ以上ここにいたら、脳溢血で病院行きだ。
踵を返し教室を出て行く俺に月姫が思い出したかの様に告げてくる。
「あ、お兄ちゃん。今日なんか、お客さんが来るらしい事をお姉ちゃんが言ってたから。もし先に会っても私達が帰る迄粗相のないようにね?」
(そう言う事は先に言えよな。)
無言で手を挙げ了解の意思を見せながら一人ごちる。
……。
………。
…………。
(ふう。今日も疲れた。こんな状態でお客さんとやらに会いたくないなぁ。)
心の中でぼやきながら歩く帰り道。
この街に来てからは、毎日がこんな状態だ。
退屈はしなくてすむがな。
(それに、お客さんとやらも、乙姫にだろ。気にする事もないか。)
そう考えると、気持ちが楽になり歩く足音にも元気さが滲み出てくる。
「転校生…か。」
思わず口に出る言葉。
別に美少女だからと興味があるわけではない。
いや、あるのだが、それより俺自信が、元転校生だ。転校する時の不安はよくわかる。
「仲良くしなきゃな。」
そう思いながら、顔をあげると家が見えて来ていた。
家の前にある道には、色とりどりの植物が植えられており、今は見事に咲き誇っている。
風に運ばれてくる花の香に、何故か懐かしいさを感じてしまう。
(…あいつが昔言ってたっけ?)
『私は、花が奏でる美しい音。そして、その音に乗って運ばれてくる花の優しい薫が薫ね。』
(笑顔でクサイ台詞を言いやがって。)
思わず勘違いしてしまいそうな台詞だし。
苦笑しつつ鞄から鍵を取り出している時。
俺を呼ぶ声が聞こえた。
「薫ーーーっっ!!」
前回の流れを組んでます。次の回から、彼女がきちんと登場ですな。…この先どうしよー?




