第16話:花の音色に。
また夢を見た。
今より幼い私の夢。
必死に走っている私の夢。
目的地は貴方。
早く逢いたいのに。
声が聞きたいのに。
中々たどり着かない貴方への最終地点。
息せき切る私は、噴き出す汗と溢れる涙を流れる景色に残していく。
気を抜くと止まりそうになる疲れた両の足をもどかしく思いながらも。
私は駆けていく。
もう少し。
あともう少しで。
貴方に逢える。
でも本当は知っている。
だって、これは夢だから。
今まで何度も見た夢だから。
私の願いは叶う事はない。
私の想いは伝わる事はない。
これは夢。
繰り返し見る、悲しい想い出。
愛しい貴方に逢える事は。
夢の中ですら叶わない。
貴方は覚えていますか?
桜舞う街路樹を。
貴方は覚えていますか?
蒼く清んだあの海を。
貴方は覚えていますか?
紅く染め上げた山々を。
貴方は覚えていますか?
白化粧をされた輝く街を。
貴方は覚えていますか?
手を取り合って共に歩んだ季節達を。
時が過ぎても、決して色褪せる事のない思い。
貴方がいなくても、決して揺らぐ事のない想い。
それはとても素敵な、思いと想い。
貴方に届くだろうか。
私の歌は。
貴方に伝わるだろうか。
私の詩は。
切ない夢は。
ときめく夢に。
枕濡らす一人の夜は。
暖かく抱き合う二人の夜に。
朝を迎えればきっとなる。
目を覚ませばきっと来る。
貴方に見せよう。
貴方に伝えよう。
これからは、ずっと一緒なのだから。
夢が終わる。
夢が覚める。
昨日迄とは違う眩しい朝。
これから初める。
物語りの始まり。
期待で胸を膨らませ。
私は駆けていく。
目的地は貴方。
3年かけてたどり着く。
貴方への最終地点。
ほら。貴方はそこに。
すぐそこに。
あの時に逢えなかった。
呼べなかった貴方の名を。
私は勇気を込めて口にだす。
辺りに咲き誇る花達の、花の音色に後押しされて。
「薫ーーーっ!!」




