第13話:私の彦星。
「うーん…。今日はどうやって薫くんをイジメようか?」
朝、目が覚めた第一声はそれだった。
『なんでやねんっ!!』
ツッコミが聞こえた気がするが、まだ寝ぼけていると気にしない。
「くす。今日も一日楽しみだなぁ♪」
この家には、大事な兄を狙う肉食獣達が同居している。
つい最近は兄のクラスメートまでがその牙を向けたのだ。
(もともとモテてたんだけど。)
そう思いながらも決意を新たに口に出す。
「織姫が、薫くんを守らなきゃっ!」
友達からは、ブラコンと馬鹿にされる。
…大概は私にフラれた男子達だけど。
(ブラコンの何が悪いの?)
ただ大好きな兄と一緒にいたいだけなのだ。
『なら、イジメはやめろっ!』
また、声が聞こえたがとりあえず無視。
私の両親は仕事が忙しいらしく、ほとんど家に帰らなかった。
参観日も来た記憶がない。
でもそんな時に来てくれるのは、いつも兄だった。
(薫くんも授業あるのに。)
友達と遊びたいだろうに、家に帰ると大体いてくれた兄。
私より先に家に帰り、
「お帰り。織姫。」
と微笑んでくれる。
(たまには…。一緒に帰りたかったんだけどね。)
優しい兄と姉の様に慕う幼なじみ。
親がいなくても彼等がいれば幸せだった。
常に側にいてくれる存在。
自分の半身。
それがいなくなるなんて考えられなかった。
(…あれは5年前。)
兄は突然いなくなったのだ。
いつまで待っても帰ってこない彼。
不在が3日と続き、初めての事に不安で泣き叫ぶ私は、必死に幼なじみがなだめてくれるのだけど、気休めにもならなかった。
この世に独りぼっちになった様な感じ。
大好きな兄に嫌われたのではないかと思う不安に、幼い私の心は押し潰されそうだった。
いつも側にいて、どんな我が儘も笑顔で受け入れてくれる兄。
その大切さを改めて思い知る。
結局、彼が帰って来たのは4日後だった。
埃まみれで、ボロボロになりながら
「お誕生日、おめでとう。」
って笑顔で手渡してくる可憐な白い花。
私は泣きながら、兄にしがみついていた。
―それは、私がテレビの旅番組を見ている時に映っていた、そこでしか咲かない、名もなき花。
綺麗…。と見とれていた私の姿を見ていたのだ。
彼のそんな思いやりに嬉しく思いながらも、一言くらい言ってから行けと怒鳴る。
学校だって休んだのだから。
「ごめんごめん。ビックリさせたかったから。」
そう謝りながら抱きしめてくれる兄に、止まっていた涙がまた溢れ出す。
―いつも優しい兄。
この街に引っ越す事になった時、ホントは私は親の所に行くはずだったんだけど、兄についてきた。
あの4日間は、まさに彦星と逢えない織り姫の心境。
(4日も耐えられなかったのに離れて暮らすなんてっ。)
実の所、乙姫ちゃんや月姫ちゃんみたく恋かはわからない。
でも兄が大好きなことには変わりないのだ。
(やっぱり恋かな?)
例え血が繋がっていても。
人を愛する気持ちは素敵なことだ。
一年に一回…。
天の川ごしにしか逢えない彦星と織り姫。
私はそんなのは嫌っ。
「だって好きなんだからっ!」
そう口にすると、心がすっきりとする。
「誰よりも強い絆で結ばれているのだからっ。」
そう。私と兄は二人で一人。
彦星と織り姫はずっと一緒にいるべきなの。
(そうだっ!)
名案を思い浮かべた私は、制服に着替え、まだ寝ているであろう、愛すべき兄を起こしに行く。
「おはよーのチューしようっ!ううん、起きるまでベッドに潜り込むのも良いかもっ☆」
自然に口元が緩んでくるなか、私は呟く。
「待っててねっ。私の彦星っ。織姫が今逢いに行くからっ♪」
一応シリアス。連載全体を見てると、単発、続編、シリアスの法則が…。いつまで続く事やら。…シリアスは受け入れられているのだろうか?




