第10話:ラブレターパニック。その1
「薫君っ!これ読んでくださいっ!」
いきなり現れた可愛いらしい女の子に手紙を押し付けられる。
「えーと…。星野さん?」
同じクラスの星野由香。
我が学園で5指に入るくらい人気がある。
ちなみにトップ3は、月姫・乙姫・織姫だ。
…世の中間違ってるな。
「返事は良いです!私の気持ちを知ってくださいっ!!」
そう言い残すと走り去っていく。
「おーい。」
どうしろと?
取り残された俺は渡された物に目を向ける。
(…ラブレターか。)
「ふっ…。俺もまだ捨てたもんじゃないな。」
…正直、誠や月姫達のせいで諦めていたのだが。
「ああ。普通の高校生のようなワンシーン!青春だぁ。」
イソイソと手紙を鞄に忍び込ませ、笑顔を浮かべ家に向かう俺は…。
影から見つめる存在に気付いていなかったのだ。
―御子柴家。
帰宅した俺は、鼻歌混じりに着替えをすませリビングに向かう。
フンフンフーンッ♪
冷蔵庫から麦茶を取り出し一気飲み。
「ぷはーっ。生き返る。」
鼻歌を再開して、振り向いた瞬間に俺にかかる声。
「機嫌が良いのね。何か良い事あったの?」
リビングにはいつの間にか月姫がいた。
乙姫に織姫の姿も見える。
(いつの間に?)
まったく気配を感じさせずに現れた姉妹達。
…まぁいつもの事だな。
そう納得していると、乙姫と織姫からも声がかかる。
「薫ちゃん顔がニヤけてるよ?」
「うん。まるでラブレターでも貰ったみたいに。」
―空間が凍結した。
(なななななっ!?)
寒いを通り越し、凍えるような雰囲気の中焦りまくる俺。
「ららら、ラブレターなんてっ。」
いかん。動揺を隠しきれん。
「何をそんなに焦っているのかしら?」
笑顔で聞いてくる月姫だが、その目はすでに殺人鬼。
乙姫と織姫を見ると彼女達も、殺人鬼の目をしていた。
(…100人くらい殺してそうだ。)
その視線に怯えながら率直な感想を思い浮かべる。
「失礼ねー。」
「ホントに。」
「100人も殺してないわよ。」
得意の読唇…いや読心術を使い言う彼女達は、口を揃えて言うのだった。
「「「殺すのは貴方だけよっ!!!」」」
「ひいいいぃっっ!?」
恐い。恐すぎるっ!!
あまりの迫力に腰が抜けそうになる。
「ま、待て…。はやまるなっ!」
ガタガタガタガタ…。
震える体を何とか気力で押さえつけながら弁明を試みてみる。
「おおお落ち着けっ!」
…いかん。まず俺が落ち着かなくては。
「証拠はあるのかよっ!?」
「お兄ちゃん。持ち物検査してみる?」
「出てこなかったらどうするんだよっ。」
日々虐げられて来た俺は、こんな事もあろうかと鞄は二重底。
「薫ちゃん。心を読んであげようか?」
瞬間的にサイコブロック。
我が心、すでに明鏡止水。
「もうっ。往生際が悪いわよ?薫くん。ネタはあがってるんだからっ!!」
なぬっ!?ネタ…?
その言葉に導かれるかの様に奴は現れこう叫びやがったのだ。
「この裏切り者がぁぁーーっっ!!」




